竹田 亮平 院長の独自取材記事
東戸塚みどり在宅クリニック
(横浜市戸塚区/東戸塚駅)
最終更新日:2025/03/12

2020年の開業以来、24時間365日体制の訪問診療をメインに地域のために尽力してきた「東戸塚みどり在宅クリニック」。竹田亮平院長を中心に、専門分野を持つ医師と熟練のスタッフがチームで医療を提供している。エコーやエックス線などの検査機器もそろえ、「在宅でも外来と遜色ない診療」をクリニック一丸となってめざす。「医師になった頃は無医村に行こうと思っていましたが、本当に医師が不足しているのは、人口が多い関東エリアではないかと気づいたのです」と話す竹田院長。訪問診療の需要の加速が予測される中、医師不足により患者が困ることがないようにと、強い使命感を持ち後進の育成にもあたる。総合病院などで子どもから高齢者まで診てきた経験を生かして診療にあたる竹田院長に、クリニックの特徴や在宅医療への思いなどを聞いた。
(取材日2025年1月21日)
増加が予想される訪問診療の需要に応えるべく開業
まずは、このクリニックの特徴を聞かせてください。

24時間365日体制の訪問診療をメインとしたクリニックで、戸塚区全域をはじめとして、保土ケ谷区、泉区、南区、旭区、栄区の一部など当院から車で15分圏内のエリアを訪問しています。医師は院長である私を含め常勤医が3人、2025年4月からはさらに2人加わります。消化器内科、循環器内科、血液内科、神経内科、形成外科、そして新しく加わる医師は呼吸器内科、腎臓内科とそれぞれの医師が高い専門性を有しているため、外来と遜色ない診療を提供できることが特徴です。患者さんの健康管理に加え、在宅酸素の管理、気管切開管理、経鼻や胃ろうなどの経管栄養法、膀胱留置カテーテル、外傷や褥瘡の処置など多様な処置に対応しています。検査機器も充実しており、血液検査、エックス線検査、超音波検査といったおおよそ必要とされる検査は行うことが可能です。
先生がこのエリアで訪問診療を始めた理由は何でしょうか?
ご縁があって戸塚区のクリニックで在宅医療部門の立ち上げをお手伝いしたことが、このエリアとの出会いでした。戸塚区は広くて人口が多い分、高齢者の数も多いのですが、それに対して訪問診療の医師がまだまだ少ないという印象を受けました。実は私は、医師になったら無医村に行きたいと思っていたのです。しかし人口に対する医師の割合が低い「医療過疎」は、私がイメージしていたような人口が少ない地方だけでなく、神奈川県や埼玉県などの関東地域でも起こり得ることがわかったのです。医師が少ないエリアで困っている患者さんの役に立ちたいというのは、医師になってからずっと変わらない想いですから、そういうエリアで少しでも貢献できればと開業に至りました。
どんな患者さんに対応しているのでしょうか。

専門性のある医師がそろっており、さまざまな状況に対応できるのが当院の強みですので患者さんの疾患は問いません。ご自宅で過ごしたいという、末期のがん患者さんのご希望にも対応可能です。近くに神奈川県立こども医療センターがある関係で医療的ケア児のお子さんも診ていますので、対応する年代も幅が広いです。ケアマネジャーさんからご紹介された患者さんもいますし、患者さんやご家族がご自身で当院を調べて連絡をくださるケースもあります。戸塚区の区役所から依頼された患者さんを診ることもあります。
熟練のスタッフとともに高度な在宅医療を追求する
チーム医療にもこだわっていると聞きました。

在宅医療は、医師の力だけではどうにもならないことがたくさんあります。当院には熟練の看護師やスタッフが在籍しているので、その経験やノウハウを生かした訪問診療を提供しています。心と体だけでなく「社会的な安心」も重視していますので、当院に在籍する社会福祉士が診察に同行することもあります。介護保険の申請をしていなかったり、助成金を使えるのにその存在を知らなかったり、知識がないために適切なサービスを受けられない患者さんもいますので、社会福祉士にはその面で患者さんを支えてもらいます。もちろん当院のスタッフ以外にも、介護士やケアマネジャーなどいろいろな職種の方がそろって初めて成り立つのが在宅医療です。そうした外部の方とのチームワークを高めるためにも顔の見える関係を心がけており、勉強会などの依頼があればできるだけ引き受けて、そこであいさつをしたり何か困り事がないかヒアリングしたりしています。
患者さんやそのご家族と接する際に心がけていることはありますか?
患者さんやご家族の考えが医学的に正しいかどうかは別として、相手の話を途中で切らないように、じっくり考えに耳を傾けるようにしています。そして、こちらが伝えるときは要点を絞ってシンプルに。長く説明しても患者さんは疲れて途中から聞かなくなってしまうかもしれませんからね。耳が遠い方や認知症の方にも理解していただけるような、わかりやすい説明を心がけています。
こちらでは後進の育成にも取り組まれているとか。

2040年には高齢者の数がピークに達するといわれており、在宅医療は今後ますます需要が増えることが予測されますから、携わる人間を増やすことが非常に重要です。そのためにも、私が感じている在宅医療のやりがいも伝えていけたらと思っています。在宅医療において重要なことは、入院と同じクオリティーの医療をどうやって在宅で実現するかです。資源や環境が限定されている分、医師が頭を使う必要がありますので、それが在宅医療のやりがいなのではと思っています。ガイドラインどおりの治療は在宅では通用しないこともありますから、医師の経験も問われるわけです。私はこれまでに総合病院などで総合診療に携わってきましたので、その経験も大いに生かされていると感じます。在宅医療はとてもやりがいがある分野だということを、後進にも伝えていきたいですね。
「医療には限界がある」その現実に向き合うことも誠意
先生が医師になったきっかけやこれまでのキャリアを聞かせてください。

通っていた高校が進学校だったこともあり、周囲に医師をめざす人が多かったことに影響を受けました。大学在学中は循環器内科を経験しましたが、限定的にではなくあらゆる臓器を診る医師になりたいと考えるようになり、総合診療や救急、そして訪問診療といった全身を診る分野に興味を持ちました。卒業後は臨床研修で河北総合病院に身を置きました。大人から子どもまですべての人を診る総合的診療に力を入れている病院で、総合的な医療を学ぶことができる独自のプログラムがあったからです。実に多様な患者さんが来る病院でしたので、おかげでかなり応用力がついたと思います。そういった経験が、今の訪問診療に生かされていると感じます。
思い出に残っている患者さんとのエピソードはありますか?
勤務医時代に、治療をしても改善が見られない患者さんがいらっしゃいました。その患者さんを診るために週4日ほど病院に寝泊まりする生活を2ヵ月ぐらい続けていましたが、これ以上どうにもならないと感じた時に、「医療には限界があるんだ」と強い挫折感を味わいました。それが医師人生の中で、最も思い出に残っている出来事です。その経験から学んだことは、医師として医療の限界に直面したとき、患者さんやご家族とどう向き合うかが大切だということです。現実から背を向けず、嘘をつかず、本当のことを話す。その誠意が大切だと感じました。ですので、訪問診療をする中でも「昨日まで元気でも、急に悪化することもある」と隠さず伝えますし、介護するご家族に疲労やストレスがたまって介護に支障が出ているようなら、一度ご家族は患者さんと離れるべきと提言することもあります。良いことだけではなく、医療の現実を伝えることも私たちの役目だと思います。
それでは、今後の展望を聞かせてください。

一つは後進の育成です。在宅医療の面白みを感じてくれる人を一人でも増やせるように、勉強会や講演なども声がかかれば参加し、啓発活動をしていきたいと思っています。もう一つは、この地域のセーフティーネットになること。どの医療機関でも診てもらえずに困っている人を救うことができるようなクリニックでありたいですね。「医療を通じて人の幸せを考える」という当院の理念のもと、患者さんとご家族の生活を、これからも全力で支えていきたいと思います。