春田 吉則 院長の独自取材記事
はるた呼吸器クリニック
(広島市中区/土橋駅)
最終更新日:2021/10/12

広電の土橋電停を下車し徒歩2分、堺町2丁目1番交差点を右折し最初の信号先にあるのが「はるた呼吸器クリニック」だ。咳や喘息、花粉症や鼻炎、いびきなど、呼吸器とアレルギーを専門に診療を行うクリニック。院長の春田吉則先生は、出身の広島大学医学部や地域の基幹病院、地域の呼吸器内科医院などで30年以上、呼吸器内科を専門に学び、診察を続けてきた。相手の理解や反応を確認しつつやわらかく穏やかな言葉を選ぶ話し方に、人柄の温かさが感じられる春田院長。祖母の死をきっかけに志した医学の道、医学生時代の忘れられない指導、開業と同時に設立した医療ネットワークなど、長いキャリアを振り返りながら、未来への展望や新しい試みについても語ってもらった。
(取材日2020年8月21日)
病気を治す以上に、医師として大切なことは何か
広島は先生の地元ではないそうですね。こちらで開業されるまでのご経歴を教えてください。

生まれは愛知県の豊橋市です。祖母が病気がちで、子どもの頃から母が看病している様子を見てきました。病気の原因も治療方法もわからないまま祖母は他界し、僕は医学の勉強をしたい、医療の仕事に就きたいと思うようになりました。広島大学に進学を決めたのは、愛知県と行き来しやすく、被爆地広島の大学ならではの国際交流があると知ったことが主な理由です。医師になってからは大学の医局や大学病院、基幹病院や呼吸器専門のクリニックであわせて30年近く働き、2018年に開業しました。当院では将来的にカバーする領域が広がることも念頭に置いて、呼吸器以外の専門で働いてきたスタッフを積極的に採用し、看護師だけでなく検査技師にも入ってもらっています。
呼吸器科やアレルギー科を専門に選んだのはどうしてでしょうか。

もともと内科全体を診られるようになりたいと思っていましたが、学生時代の早くから肺がんに関心をもち、最終的に呼吸器を専門に選びました。当時の医療では治療以前に早期発見も難しかった肺がんですが、今でも死亡率の高い疾患で、レントゲンやCTなど画像診断の重要性が高いことに変わりありません。肺がんの場合、手術ができる症例は多くなく、抗がん剤治療も成績が良くない上に副作用の強い薬が多いものです。指導にあたってくれた先生たちからは、病気を治すこと以上に患者さんが副作用を乗り越えられるよう、とりわけ緩和病棟では患者さんの身になって考えて親身に診療にあたるようアドバイスを受けました。20年以上たった今でも心にある教えです。
大学病院時代はどんな研究や医療に携わっておられましたか。
医師になってから10年ほど、広島大学第二内科で助手として働き、免疫やアレルギーの研究と臨床を扱っていました。比較的臨床寄りの研究で、ヒトの細胞を使って喘息に対する薬剤の効果を確認するといった内容です。国内留学で、愛媛大学に出向していた時期もあります。愛媛大学では、動物実験での研究など創薬の現場に近い部分に携わりました。2002年からいったん臨床に戻り、中国労災病院で呼吸器科の部長として働き、2005年からは再び大学に戻って助教・講師として学生に教える側になりました。指導や研究の合間を縫って外来担当や病棟診療もあり、地域医療の支援などで他科の医師や医局長、コメディカルとも連携するようになりました。さまざまな経験で得た人的ネットワークで、開業の際にも診診連携・病診連携もスムーズに進めることができたように思います。
職場や住環境がアレルギーの原因となるケースもある
地域の患者さんの傾向があれば教えてください。

大学病院時代からの患者さんも継続して受診されていますが、新しい患者さんは西区、安佐南区などからが多い印象ですね。これらの地域の患者さんにも呼吸器疾患やアレルギーでお困りの方が多いので、開院するにあたってはアクセスの良いところでと思い、またクリニックビルのオーナーとのご縁などもあり、この場で開院しました。患者さんの年齢層は10代から70代、80代の方まで幅広いですね。呼吸器疾患とアレルギーは、他の分野に比べて若い患者さんが占める割合が大きいので、当院でも40代くらいまでの方が多い傾向です。主訴は咳、呼吸困難、息苦しさなどでしょうか。
日頃の診療では、どんなことを大切にされていますか。

アレルギーはなかなか治らない病気で不快感も強いですから、患者さんのお気持ちをくんでケアする姿勢を大切にしています。初診から薬物療法を希望される方も多いのですが、身の回りの注意や工夫による予防も重要です。患者さんの生活環境をよく理解し、苦痛を少しでも緩和するように、適切な治療薬を選んで処方します。アレルギーの原因には、生活や食事など予想外のものもあります。お住まいの家でカビが多く発生していた例や、職場環境がアレルギーの原因だった例もあります。毛皮を扱う、植物に触れる、粉塵が多く出る職場などで働く方は、少し気をつけるだけで病状を緩和させていくことができるかもしれません。また、肌荒れや皮膚炎、アレルギー性鼻炎など皮膚科・耳鼻科分野からも広く知識と情報を集め、呼吸器だけでなく患者さんの全体を診るようにしています。
クリニックならではの特徴的な治療方法などはありますか。
検査や治療のために必要な機材はできるだけそろえていますが、医療保険でできないことはしていません。他院であまりやっていないのは、喀痰検査ですね。痰の検査によって、細菌性かアレルギー疾患かの診断につなげます。個人のクリニックではあまり実施できない検査ですが、大学病院では研究調査などにも活用していたので、僕自身は慣れている検査です。他にも、喘息の臨床評価として呼気の中の一酸化窒素を調べるなど、検査に工夫をして的確な診断が行えるようにしています。当院に受診される患者さんは他院で良くならなかった方、セカンドオピニオンを求めて来院される方も多くいらっしゃいます。そうした方々にも診断から治療までスタッフとのチーム医療でスムーズに進められているのかなと思います。
ヨガと呼吸器内科の共通点を学び、楽しむ
印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

過敏性肺臓炎という病気があります。難病指定されている間質性肺炎との区別が難しい疾患で、鳥やカビなどを原因とするアレルギーから発症し、診断を誤ると予後が良くない疾患でもあります。原因がわかっていて治療薬もありますので、早期の見極めが大切です。鳩を数十羽飼育されている、この病気を長く患った末に受診された方がいました。初診から数ヵ月くらいたってからその生活環境を知り、患者さんと十分に話し合って、高価なレース鳩で長年のご趣味でしたが鳩を手放していただくことにしたんです。この患者さんの治療にあたってきたことで、症状にだけ目を向けるのではなく原因を突き詰めていくことが、生活を維持していく上でとても大切なことなんだと、自分の経験として得ることができました。
先生ご自身は、健康のためにどんなことに気をつけていますか。

趣味はなかなか上手にならないゴルフですね(笑)。みんなとわいわい楽しくラウンドするのが好きなんです。あと、月に2回ほどクリニックにヨガの先生をお招きして、スタッフと一緒にレッスンを受けています。ヨガは呼吸を大切に、心身の健康を維持しようという活動なので、呼吸器内科とは共通点があると感じています。息が上がるほど激しい運動ではありませんし、ストレス解消や健康管理のための呼吸法の1つとして患者さんにお勧めするのもいいかなとも思っています。学問的にやっているわけではありませんが、ヨガの先生からは教わることも多いです。
今後の展望についてお聞かせください。
基幹病院では当たり前となっているチーム医療を、地域医療でも実現し、医療の質の向上と均てん化、合理化を図りたいと考え、開業と同時に当院内に喘息とアレルギーの診療を専門とする部門を立ち上げました。ここでは、山間部や島しょなど患者さんが県内のどの地域にいても適した治療や対策ができるよう、地域の基幹病院、クリニック、薬局など医療機関と連携して、役割を分担しながら適切な医療措置が行えるようにという計画です。新型コロナウイルス感染症流行の影響で会合を開くのは難しいものの、インターネットを活用してリモートでミーティングなどができるようにしています。また、広島大学との連携を生かし、再診の患者さんについてはオンライン診療も実施しています。遠方の方、仕事などで頻繁な通院が難しい方も一度、ご相談いただければと思います。