輿水 健治 院長の独自取材記事
神楽坂D.S.マイクリニック
(新宿区/牛込柳町駅)
最終更新日:2025/01/15

風情ある小路や坂が多い牛込柳町で、20年以上にわたり地域の人々の健康を守ってきた「神楽坂D.S.マイクリニック」。輿水健治(こしみず・けんじ)院長は、“古き良き東京”が残る町で、昔ながらの人情を忘れない診療を守り続けている。大学病院の副院長、救急科の教授だった頃も、ドクターヘリから降りることがなかったという輿水院長。熱い想いと長年培ってきた高度な知識・技術を、今、地域医療に惜しみなく注ぐ。「何でも相談できる近所のお医者さん」を目標としているが、時折見せる笑顔にはうそがなく、「信頼して話ができる」「きちんと話を聞いてもらえる」と感じる患者も多いだろう。外来診療・訪問診療・日帰り手術を3つの柱としている同院の強みなどについて、2022年にリニューアルした清潔な院内で詳しく教えてもらった。
(取材日2024年12月12日)
外来診療・訪問診療・日帰り手術を柱とするクリニック
院長に就任されて2年がたちましたが、今はどのような患者さんが多いですか?

院長就任前にも当院で約15年、非常勤として週に1日ほど勤務してきましたが、その頃から、高血圧や糖尿病など生活習慣病で通っている患者さんが多いですね。ご高齢の方が中心ですが、少しずつ患者層が下がっているようにも感じています。発熱患者さんを診る外来などでは、働き世代の方も少なくありません。また、整形外科を標榜するようになったためか、腰痛や五十肩、けがなどの相談も増えています。近隣には保育園や学校がいくつかあり、頭を打ったお子さんが親御さんに連れられて「念のために」と来ることもありますね。CT検査が必要な場合は、神楽坂にある同法人の執行クリニックまでスタッフが車でお送りします。検査後はただちにデータが送られてきて、患者さんが戻る頃には診断もついている、といったことが可能なのも当院の強みでしょうか。
外来診療に加えて、日帰り手術にも対応されているのですね。
クリニック名の「D.S.」は「Day Surgery(デイ・サージェリー)」、すなわち日帰り手術の略称で、当院の1つの柱です。敷地内に手術棟があり、メインにしているのが鼠径ヘルニア(脱腸)の手術です。外来診療で軟部組織の良性腫瘍が見つかったときも、診療室での切除も可能ですが、万が一の事態を防ぐためにも当院では手術室で行うようにしています。日帰り手術が難しい症例に関しては大規模病院に迅速につなげるようにしていますが、紹介して終わりではありません。紹介先で気後れして質問できなかった患者さんが「先生、こう言われたんだけど、どういうことなのでしょうか?」と頼ってくれることもあります。遠慮せずに何でも話してもらえればと思っています。
在宅医療にも力を入れているとお伺いしました。

当院の在宅医療は、現在のように注目されるずっと前から、「通院がつらくなってきた」という患者さんの声に応じて自然な流れで始めたものです。在宅療養支援診療所として24時間往診できる体制も確保しています。訪問診療は私が自転車で行ける範囲で、お昼の休診時間に対応しています。寝たきりの方や、がんの末期治療・管理まで、併設の訪問看護ステーションと連携して、充実したサービスを提供しているのも特徴といえるでしょう。例えば、ひどい床ずれで壊死した組織の切除などの外科処置、ご自宅での呼吸管理なども対応できますので、ご相談ください。
救急診療での豊富な経験を地域医療に還元したい
現在、どのようなメンバーで診療にあたっていますか?

医師は基本的に私1人ですが、今年からは埼玉医科大学出身の先生が、地域医療を学びに来るようになりました。「頑張って勉強してね」と気さくに励ましてくれる患者さんが多いのも、当院ならではの光景かもしれません。訪問診療は木曜日だけ、非常勤の女性医師が担当しています。また、併設の訪問看護ステーションからは、床ずれの状態をスマホで撮影してただちに送ってくれることもあり、助かっています。日々の患者さんの様子がどうだったのかフェイス・トゥ・フェイスで伝えてくれますし、きめ細かな在宅医療ができているのは看護師たちのおかげです。また、当院の階上にはグループホームがあり、私が診療も担当していて、診療時間外も職員の方々や患者さんと一言二言交わしに行くこともあります。
診療にあたって大切にしていることを教えてください。
患者さんやご家族が何を願っているのかをしっかりと聞き取り、できるだけそれに寄り添うことです。例えば、訪問診療は看取りのイメージが強いと思いますが、「訪問診療の卒業」を目標として、通院に戻りたいと感じている方もいらっしゃいます。また、救急診療に長年携わる中で、私たちが応急処置をした後、駆けつけたご家族に「こんなにたくさんの生命維持装置につなげてほしくなかった」と言われたことも。だからこそ、ご自宅で最期を迎えたいと希望している場合は、いざというときに救急要請をしない、それ以外は1分1秒でも早く救急隊を迎えられるようにできる工夫をお伝えするなどしています。
そのような診療ポリシーを持つに至ったご経歴を教えていただけますか?

2022年に当院の院長に就任する前は、埼玉医科大学総合医療センターの救急科でドクターヘリの立ち上げに寄与するなど、教授として救急医療の最前線にいたんです。若手だけに苦労はさせられないので、副院長になっても当直は続けました。ただ、ヘリ当番は50代の頃は「どんな重症の人も助ける」と燃えていましたが、60代になると「軽症の人だといい」という思いがよぎるようになってしまって……。65歳になって「今日は要請がないように」と考えている自分に気づいたとき、ヘリを降りる決心をしました。昔から「いつかは地域医療に貢献したい」という考えもあり、最初はへき地に赴くことも考えていましたが、都会であっても医療と断絶している人も少なくないのだな、と実感しています。
目標は気軽に相談できる家族全員のホームドクター
今後の展望についてお聞かせください。

これからも、誰にとっても「何でも相談できる近所のお医者さん」でありたいと思っています。このエリアは比較的裕福な方が多いのですが、いろいろな事情で通院できない大変な状況の方もいらっしゃいます。また、医療は理念がなければやってはいけない仕事だとも考えています。患者さんを増やすよりも、一人ひとりの患者さんにしっかりと時間をかけて診ることを大切にするのは変わりません。このような丁寧な診療スタイルを気に入ってくれて、ご家族やお友達に紹介してくれる方が多いのはありがたいことですし、今後とも信頼に応えていきたいです。
お忙しい毎日ですが、健康維持法などはありますか?
大学病院での勤務医時代は、何時間にも及ぶ手術の後にランニングをするような生活をしていました。今は休息も大事にしています。訪問診療も自転車ではなく徒歩で回る日もつくるなどして、できるだけ歩くようにしているんです。生活習慣病の患者さんには薬による治療だけではなくライフスタイルの改善も提案していて、ウォーキングを勧めることも多々あるので、自らも実践しないといけません。こうして地域医療に携わってみて、肩書きではなく一人の人間として私を頼りにしてくれる患者さんたちがいてくれることを、心からうれしく思っています。だからこそ、体調不良で休診ということのないように、ますますしっかりとした体制で、健康管理も続けていきたいです。
最後に読者へのメッセージをお願いします。

どの診療科に相談したらいいかわからない症状に直面したときなども、気軽にご相談ください。最近はインターネットでさまざまな情報を入手できますが、だからこそ不安に陥っている方も多いのではないでしょうか。当院でできることは精いっぱい対応しますが、できないことは然るべきところに迅速につなげる機動力にも自信があります。救急医療の現場でさまざまな診療科の先生方とやりとりしてきたからこそ、どのような症状でも適切に案内できると自負しています。外来診療と訪問診療がシームレスに連続しているので高齢の患者さんが多いですが、子どもから大人まで幅広く対応しています。家族全員のホームドクターとして、健康を見守っていければと思っています。