小林 豊樹 院長の独自取材記事
小林クリニック
(天理市/長柄駅)
最終更新日:2025/10/07
天理市の朝和校区に「小林クリニック」が開院して約7年が経過した。大学病院の消化器・総合外科で診療や後進の指導に長年従事してきた小林豊樹院長が、妻の地元であるこの地域での医療機関の必要性を感じ、開業した。乳腺外科を専門とすると同時に、どのような病状でも診ることができるよう研修医時代に指導されたという小林院長。他県からも来院する乳腺の患者をはじめ、内科、外科と幅広く対応しながら、地域医療にも注力している。爽やかな笑顔と気さくな人柄で近隣住民から親しまれている小林院長に、診察時に心がけていることや今後の展望などを聞いた。
(取材日2025年8月4日)
人と話すことが好きで人を相手にする医師の道へ
医師をめざしたきっかけを教えてください。

理系が得意だったので、高校では理系クラスを選んだのですが、進学先を決める時、もともと人と話すのが好きな性分だったので人と話せる職業は何だろうと考えました。工学部や理学部だと研究であったり物を相手にする職業が多いですよね。その点、医師は人を相手にする職業ということもあって医学部をめざしました。医療系の職業の身内はほとんどいませんから、医師の家系だからとか、子どもの頃の経験から、ということではありません。奈良県立医科大学に進学したのは、地元だった、というのが一番の理由です。あえて県外に飛び出すというのも別にいらないかな、と思ったからです。
消化器外科の中で、乳腺外科を専門に選ばれたのはなぜですか?
実は、自ら乳腺外科を専門にしようと思ったわけではありませんでした。消化器総合外科には、上部消化管、下部消化管、肝胆膵外科、小児外科、乳腺外科という5つの専門分野があります。その5分野を当時いた同期5人に教授が振り分けたのです。今思えば、それぞれの特性を見極めていただいたのだと思います。「君は乳腺外科をやりなさい」という形で。研修医時代は、週末になると救急病院で当直している先輩のところに押しかけていっては救急患者を診察し、さまざまな技術の習得に励みました。それが今の私の礎になっていると思います。
自分で選んだわけではなかったのですね。

最初はそうでしたが、よく言われるような「専門分野に特化した医師」と「総合的に診る医師」という2つの分野があるとすれば、自分は後者をめざそうという意志がありました。乳腺はゼネラリストか、という疑問もあると思いますが、実のところ例の5分野のうち乳腺だけ内科がありません。消化器外科には消化器内科、循環器外科には循環器内科がありますが、乳腺外科には内科がない。最初から最後まで診るんです。例えば胃がんの患者さんは、最初に内科に行って調べ、外科で治療しますが、乳腺の患者さんは最初から乳腺外科に来ます。だからゼネラリストなんです。実際に勤務医時代、診断から始まり、治療をし、不幸にも再発してしまった患者さんも、最終的には亡くなるまですべて診てきました。乳腺外科は全体の分野からすれば専門に特化した医師なのかもしれませんが、診療という一つの流れから見れば、自分が当初から思っていたゼネラリストだと感じます。
さまざまな症状を診つつ乳腺疾患の検査にも迅速に対応
母校の大学病院に長く在籍されていた中で、開業しようと思われた理由は?

自分が子どもの時に見ていた「お医者さん」像というのは、地域に根差していろいろな病状を診ることができる医師でした。そして自分がある程度の年齢になった時、それまでやってきた乳腺疾患だけをずっと診ていくのか、子どもの頃に見た医師像をめざすのかを考え、本来の思いを大切にしようと決心し、開業に至ったのです。乳腺専門クリニックにしなかったのも、もともとの考えに立ち返ったからです。あくまでも、乳腺を専門とする医師がいる一般的なクリニック、内科や外科も幅広く診るクリニックにしようと考えました。
開業にこの地域を選ばれたのはなぜですか? また、どのような患者さんが多いのでしょう?
ここは妻の出身地で、この地域で開業されていた先生が高齢のため閉院され、医師が少なくなってしまったと妻の両親から聞いていました。それならここで、ということです。この地域は住宅地で、工場もありますのでそこで働いている方が来られたりもしますが、基本的にはこの辺の地域の方が来られます。生活習慣病といわれる高血圧症や高コレステロール血症、糖尿病の方が多いですが、やはり5年前に新型コロナウイルスが出てからは感染症の患者さんを診ることが多いです。夏も新型コロナウイルスの感染が増えますし、心配で来られる方が多くいます。乳腺外科に関しては、病院の乳腺外科などを除けば乳腺専門のクリニックは奈良県内に数ヵ所しかありません。そのため患者さんは、県内外いろんなところから来られます。また、予防接種も行っていますので、お子さまも数多く診ています。
乳腺疾患の検査ではどのような体制を敷いていらっしゃいますか?

問診、診察をした後、超音波の検査をして、その後必要であれば細胞診の検査までしています。マンモグラフィは置いていません。マンモグラフィを置くと、検診がどんどん入ってきて乳腺専門のクリニックになってしまいそうですし、地域の病院なのに他の診療に差し支えるのではと思い、あえて置きませんでした。マンモグラフィ検査はほとんどの場合予約制で、人数を制限して行いますが、当院では予約なしでも、超音波検査、何かあれば細胞診までを1日で完結させられるようにしています。そしてある程度診断がついたら、乳腺専門の病院に紹介します。今は乳腺疾患の治療はほぼ標準化されていて、「ここの病院でないとできない」という治療はあまりありませんので、患者さんがかかりやすい病院を紹介するようにしています。
動作なども観察し患者が言わない不調にも気づく努力を
これまで医師をしてきたご経験の中で印象に残っている恩師や患者さんからの言葉などはありますか?

医師には、外科は外科のことだけやっていればいい、というイメージがあるかもしれませんが、研修医の時に「何でも診なさい。糖尿でも血圧でも責任を持って診なさい」とたたき込まれました。それが今も役立っています。何でも診る「総合医的な外科医」というのはずっと思ってきました。また、五條病院時代の恩師には、患者に説明する時は「義務教育は中学校までなのだから、中学生にもわかるように説明しなさい」と教わりました。そして、「患者さんに説明した後に質問がなければ、理解してもらえなかったということだよ」ともいわれました。患者さんにとっては初めて聞く言葉なので質問があって当たり前。質問がないのは「きちんと説明できていない、駄目な説明をした結果」だと。この話は、自分が大学病院で教員だった時や先輩として新人の医師に指導する際、受け継いで常に言っています。
この地域のかかりつけ医として、気をつけていることや心がけていることを教えてください。
できるだけ患者さんの話を聞くことですね。ある程度の年齢になると、調子など、自分でもわからないこともあるでしょうから、お話しすることで何か気づけたら、と思っています。また、診察室に入ってきて椅子に座るまでにどう動いているかにも注意します。問題なく歩けているか、普段と違う点はないかなどですね。椅子に座ったら、「いつもと変わりません」という方や、人前では「大丈夫」と元気なオーラを出そうとする方もいます。知られたくないという思いがあるのかもしれませんが、患者さんが言わない不調にも気づけるよう、動作などもよく見るようにしています。そして、感染対策として院内ではマスク着用を継続してお願いしています。小さなお子さまからご高齢の方まで、さまざまな症状で来院されますので、皆さんに安心して受診していただきたいと思っています。
今後力を入れていきたいことや、地域でどのようなクリニックになっていきたいかをお聞かせください。

この地域でも高齢化は進んでいますし、介護が必要な方もいらっしゃるので、訪問医療には力を入れていかなければならないと感じます。現在は月曜日と水曜日の昼の時間帯しか定期の訪問診療に充てられていませんが、ニーズとの兼ね合いで増やすかもしれません。地域のクリニックとしては、声をかけやすい雰囲気を常に持っていたいです。いつ連絡が来ても対応できるように。日本の医療は「フリーアクセス」で患者さんが病院を自由に選べ、医師は誰でも診られますが、それで煩雑になるようなことがあってはいけませんし、ハードルを下げて、患者さんが話しやすい雰囲気を作らなければと思っています。

