大前 利市 院長の独自取材記事
おおまえ医院
(奈良市/新大宮駅)
最終更新日:2024/06/25

近鉄奈良線の新大宮駅から徒歩5分。三条通りから高等学校の向かいの路地を入り、左手のビル1階にある「おおまえ医院」は、脳神経内科と内科のクリニックだ。院内はイエローとブラウンで統一された落ち着いた印象の内装で、待合室はゆったりしたレイアウト。大前利市(おおまえ・りいち)院長は快適に過ごせる院内づくりにこだわる。バリアフリーはもちろん、腰痛や腹痛がある場合でも楽に横たわれるよう大きめのベッドを設置し、患者家族から介護相談などを受ける会議室を用意するなど、細かな配慮を施す。診断には微妙な症状の違いや患者のバックグラウンドを聞き取る必要があるため、患者とのコミュニケーションを大切にしているという。冗談を交えながら、難しい専門領域の話もわかりやすく説明してくれる大前院長にさまざまな話を聞いた。
(取材日2024年3月25日)
丁寧な問診で頭痛やめまいの原因を探る
どのような主訴に対応していますか。

当院は、脳神経内科と内科の診療を行うクリニックですので、頭痛で受診する患者さんが多いです。一口に頭痛といっても、肩凝りや首凝りを伴うもの、頭の芯から響いてくるような鈍痛で週ごと月ごとに徐々に強くなってくるもの、鋭くズキンズキンと波打つようなものに大別され、さらに原因となる疾患も多岐にわたります。事務作業などによる肩凝りに原因がある場合もあれば、上部頸椎の病気や脳の病気、脳の血管の病気による場合もあります。ホームページでは、「頭が痛い・首が痛い」「歩きにくい」「しびれる」「目が回る」「耳が聞こえにくい」「しゃべりにくい」「忘れやすい」など、脳神経に関係する症状ごとに、一般の方にもわかりやすいように、原因や必要な診療などをご説明しています。
どのような検査が可能ですか。
画像診断は、胸部や腹部のエックス線検査と、体の内部構造や病変を調べるために全身を断層撮影するCT検査を行います。当院では、背骨や腰の曲がった方や、体位変換が困難な方でも撮影しやすいように、開口部の広い3D-CT検査装置を採用しています。また、動脈・静脈、心臓、腹部の超音波(エコー)検査、動脈硬化の程度を調べる血管機能検査、心電図検査も実施しています。
診察の際に心がけていることを教えてください。

診察では、まず患者さんのお話にしっかり耳を傾けます。例えば、「ふらついたり、軽いめまいがある」と訴える場合、内耳機能に原因があることもあれば、脳血管の問題も考えられますし、もしかしたらアルツハイマー病の初期症状かもしれません。問診では、どのような症状か・実際にどんなことが起きているか、さらに、生活環境など患者さんのバックグラウンドも含め、丁寧に伺うことが重要なんです。その上で、見逃しのないようにさまざまな検査を行います。検査結果や病状をご説明する際には、画像やデータを見ながら、わかりやすく話し、きちんとご理解いただくように心がけています。そのため、特に初診の場合は診察時間が長くなることが予想されます。そこで、土曜日は予約制にするなどの工夫をしています。
大学での臨床や研究、行政での職務を経て開業
医師を志したきっかけを教えてください。

子どもの頃からいじめられている子を助けるなど、困っている人を放っておけない性分で、単純に「人を助けたい」という思いから医師を志しました。一方で、歴史学や政治を学んでみたいという気持ちもあったんです。ところが、ラジオでクラシック音楽を聴いていたとき、シュヴァイツァーが音楽に関する研究者としても一流だったと知り、自伝を読んだら、音楽や芸術を学んだ後、30歳にして「これからは世の中に尽くしたい」と、医学を学び始めたと書かれていて、「こういう人もいるんだから、自分も歴史を学んでから医学を学んでもいいのではないか」と考えました。とはいえ、裕福な家庭ではなかったこともあり、歴史学を修めてから医学部に進むのは現実的ではなく、高校卒業後、浪人生活を経て奈良県立医科大学に進みました。
なぜ脳神経内科を専門に選ばれたのですか?
母が大病を患い、私自身が全身介護を経験したことで、できるだけ全身を診ることができる医師になりたいと強く感じるようになりました。また、自分自身が病気を経験したことも大きいですね。大学時代に目の病気にかかり、危うく失明するところでした。なんとか失明は免れましたが、ステロイド注射を片眼にそれぞれ25本以上も注射されました。また、無茶をして腰椎を激しく傷め、たびたび、足のしびれや痛みに悩まされました。そうした経験から、脳神経の分野に進むことを決意しました。脳神経の症状は、パーキンソン病や原発性脳腫瘍のように脳神経そのものの障害で出現するものもあります。一方で、例えば、気を失う症状の原因の一つに不整脈があるといったように、他臓器の障害から脳神経系の症状が出てくるケースも非常に多く、他臓器の診断と治療を合わせて行うなど、全身管理が必要な場合も多いんです。
開業までの経緯をお聞かせください。

1986年に大学を卒業後、母校の神経内科に入局し、臨床経験を積みながら7年間ほど研究を行いました。その後、奈良県保健衛生行政に勤務し、主に難病対策や感染症対策に携わった後、京都市保健衛生行政に入職しました。臨床現場を離れて行政で仕事をする中で、住民の生活にふれ、本音を知るうちに、自分がやりたい医療の形が見えてきて、開業の想いが芽生えてきました。奈良・京都の行政を計18年経験した後、大阪府貝塚市にある高橋病院や奈良西部病院の神経内科を経て、2018年に当院の開業に至りました。開業にあたっては、脳や脊髄、手足に分布する末梢神経に関する症状を中心としながらも、できるだけ全身の症状や状態を診るために、脳神経内科と内科を標榜し、幅広いお悩みに対応しています。
「同行二人」の考えで患者とともに歩む医療を
脳を含む身体の健康に関するアドバイスはありますか。

若い人が度忘れをしたら「疲れてるの?」で済ますのに、高齢者だからといって「認知症だ」と決めつけてはいませんか。「人の名前が出てこない」と気に病んでいる方も、複雑な手順が必要な車の運転が難なくできたりしますよね。逆に、簡単にできていたはずの料理やDIYなどができなくなったら、要注意です。ただ、脳の機能が低下したら絶対に回復しないと悲観してはいけません。言葉を話しながら有酸素運動をすることが、脳の血流の促進に役立つという研究結果も報告されています。言葉を使うとき、脳は非常に高度に機能しており、運動は小脳の機能と密接に関連しているんです。脳を刺激するには、日常的に会話や運動をすることが大切です。特に、幼い子どもでもわかるように言葉を選んで話したり、活発に動き回る子どもの相手をしたりするわけですから、お孫さんと一緒に過ごすのは、お勧めですよ。
今後の展望をお聞かせください。
脳の刺激になるような、会話や運動を楽しめる施設をつくりたいと考えています。脳は情報を整理してやりとりする器官。脳に刺激を与えるためには、複雑な言語環境に身を置くことが大切です。変化に乏しい決まりきった生活を送っていると、記憶を司る海馬が萎縮してしまうこともあります。家に閉じこもらずに外に出て、人と話したり有酸素運動をしたりできる施設で楽しく過ごせれば、認知機能の改善につながると思うんです。また、啓発活動にも力を入れていきたい。ホームページやブログで病気に関する情報を発信していますし、最近では、奈良市医師会の仕事で、加齢による記憶力低下に関するガイドラインの執筆に参加しました。診察だけでなく、正しい知見を与えるのも、医師の大切な役割だと思うんです。そのためにも、日々情報のアップデートを欠かさないようにしています。
最後に読者へのメッセージをお願いします。

若い頃、四国八十八箇所巡りをしたことがあります。その時、笠に書きつける「同行二人」という言葉を知りました。これは、遍路の方が真言宗の開祖と一緒に歩いているという意味のようです。医師になって、「医者の仕事も患者さんにとっての同行二人かな」と思うようになりました。たとえ家族でも、患者さんの痛みや苦しみはわかりません。でも、医師は症状を通じて、より理解できることがあります。その上で患者さんとともに歩いていけたらいいなと私は思っています。だからこそ、患者さんに寄り添い、治癒したら心から喜べる。これからも、患者さん一人ひとりの立場や環境にまで配慮した診療を行い、人生を楽しむお手伝いをしたいですね。