中村 浩高 院長の独自取材記事
なかむら歯科医院
(さいたま市見沼区/七里駅)
最終更新日:2026/10/14
さいたま市見沼区の「なかむら歯科医院」は、訪問歯科診療を中心に、地域の高齢者や障害がある子ども、難病などで通院が難しい人の口腔ケアを支える歯科医院である。院長の中村浩高先生は、岡山大学歯学部卒業後、大学病院の口腔外科や東京都・埼玉県の歯科医院で経験を積み、2013年に開業。2018年に現在地へ移転した。現在は外来診療を週2日行う一方、訪問診療は2チーム・2台の車で見沼区を中心に対応。スタッフも開業当初の4人ほどから、パートを含め30人ほどに増えた。口腔外科の知見を生かし、異変の早期発見をめざすのに加え、「入れ歯作りは引き算」と考え、違和感の少ない入れ歯作りにも力を注ぐ中村院長に、訪問診療で大切にしていることや入れ歯へのこだわり、同院を支えるスタッフへの思いを聞いた。
(取材日2026年8月28日)
暮らしに合わせた訪問歯科診療を地域へ
現在の訪問歯科診療の体制について教えてください。

開業から13年経過した現在も、訪問診療を中心に地域の高齢の患者さんを診ています。たいへんありがたいことに多くの依頼をいただき、すべてに対応するのが難しくなったため、現在は見沼区を中心に訪問エリアを絞っている状況です。訪問診療は2チーム体制で、2台の車で地域を回っています。患者さんの多くは高齢者ですが、障害があるお子さんや難病で通院が困難な方などの診療も行います。経験豊富な歯科医師が多いため、難症例にも対応できるのが当院の強みです。ケアマネジャーさんなどから紹介していただくことも多く、「訪問歯科診療が必要になったら、なかむら歯科医院に」と思ってもらえるようになったのかなとうれしく思っています。
訪問診療では、患者さんの生活に合わせてどのようなことを大切にしていますか。
その方の生活の中で、実際にできることを考えるようにしています。歯科医院の外来で理想的なセルフケアを伝えても、体の状態や生活環境によっては実行できないことがあるでしょう。一方、患者さん宅を訪問すると、ご自宅でどのくらい動けるのか、どのような環境で生活しているのかまで見ることができます。その上で、無理のないケア方法を一緒に探すのです。また、訪問先でもできる限り外来と同じ診療ができるよう、歯を削ったり入れ歯を調整したりする機器も持参しています。
歯科医師が訪問して口の中を診ることには、どのような意味がありますか。

患者さん自身やご家族が気づいていない口の中の異変を見つけられる可能性がある点に、大きな意味があると思います。口の中は、痛みや腫れがなければ不具合があっても意外と見過ごされやすいからです。例えば、入れ歯が合わないという症状に、口腔がんなどの重大な疾患が隠れている可能性もあるのです。夫婦であっても、家族であっても、他人の口の中をつぶさに観察するということはなかなかしないでしょう。自分でもまじまじと口の中を見る機会はないのですから、他人はなおさらです。だから口腔内の異変は見つかりにくいといえます。そうしたところを私たちが行って診ることで、フォローできればと考えています。
入れていることを忘れる入れ歯をめざして
ホームページで「入れ歯作りは引き算」と表現されています。どのような意味なのでしょうか。

入れ歯は、必要なものを必要なだけ残し、余計な部分をできるだけ減らすことが大切だと考えています。入れ歯は口の中に入れるものなので、大きかったり厚みがあればあるほど、それだけ違和感につながるからです。もちろん、噛むために必要な強度や機能を損なうわけにはいきません。その上で、必要のない部分を見極めて削り、できるだけ小さく仕上げていきます。何かを足していくというより、不要なものを取り除いていく。その考えを表したのが「入れ歯作りは引き算」という言葉です。患者さんが毎日使うものだからこそ、少しでも違和感のない入れ歯を作りたいと思っています。
先生が考える「良い入れ歯」とは、どのようなものですか。
理想は、入れ歯を入れていることを忘れてしまうくらい、自然に使える状態ですね。入れ歯にはどうしても体積があるので、異物感を完全になくすことは難しいでしょう。それでも、食事や会話をしているときに入れ歯の存在を意識せずに過ごせるようになれば、それだけ患者さんの負担は少なくなります。そのためには、単に歯の形を整えるだけではなく、患者さんの口に合わせて細かな部分まで調整することが欠かせません。痛みや違和感がなく、毎日の生活の中で入れ歯の存在を意識しなくなる。そこまで自然に使ってもらえる状態に近づけることが、私の考える良い入れ歯です。
訪問先で入れ歯を作る際には、どのような工夫をしていますか。

訪問診療でも、できるだけ外来と同じ条件で入れ歯を作れるようにすることを心がけています。診療する場所が変わったからといって、使う材料や道具まで変えてしまえば、同じような治療はできないからです。そのため、必要な道具や材料を訪問先まで持っていき、できる限り診療環境が外来と変わらないように整えています。ただし、訪問診療ならではの工夫も必要です。例えば入れ歯の型を採る材料は、気温によって固まる速度が変わります。そのため、夏場には氷水を持参して材料を冷やすなど、その日の天候や環境に応じた調整が求められるのです。訪問先だから仕方がないと考えるのではなく、外来と同じようにきちんと入れ歯を作れる条件を整えることを大切にしています。
支えてくれるスタッフとともに、地域に根差した診療を
開業当初と比べ、スタッフも大きく増えたそうですね。

開業当初は4人ほどだったスタッフも、今ではパートを含めて28人になりました。人数は増えましたが、私から細かく指示を出すことはほぼありません。それぞれが自分で考え、真面目に仕事に取り組んでくれているので、任せられる部分が大きいんです。長く勤めてくれている人が多いことも、当院の強みだと感じています。訪問診療では患者さんとのお付き合いも長くなりますから、いつも同じ歯科医師やスタッフが伺えることは、患者さんの安心にもつながるでしょう。開業当初からずっと働いてくれているスタッフもいて、13年の間にお子さんが結婚して、孫ができたという人もいます。ライフステージが変わっても勤めてくれることは、本当にありがたいと思っています。
スタッフの皆さんについて、どのような思いをお持ちですか。
本当に良いスタッフに恵まれたと思っています。当院を頼ってくださる患者さんやケアマネジャーさんが増えたのも、スタッフ一人ひとりが日々の診療に真面目に取り組んでくれているからではないでしょうか。入社時に当院の理念、考えをお伝えした後は、「こうしなさい」と細かく指示をすることはあまりありません。当院の理念を強く伝えたりしてきたわけではありません。それでも、それぞれが患者さんのことを考えて動いてくれています。入職して間もない時期や、方針について相談を受けたときは訪問に同行することもありますが、それ以外は基本的にスタッフの考えや方針を尊重しています。訪問診療は歯科医師だけで成り立つものではなく、スタッフみんなの力があって続けられるもの。長く一緒に働き、当院を支えてくれていることに感謝しています。
これから、地域の患者さんにどのような歯科医療を届けていきたいですか。

これからも、必要としてくださる患者さんにできる限り応えていきたいと考えています。ありがたいことに訪問診療の依頼は多く、新規のご相談では伺えるのが数週間先になってしまうこともあり、申し訳なく感じています。ただし口腔がんが疑われるなど、急を要する場合には、できる限り早く対応できるよう努めていますので、遠慮せずにご相談ください。一方で、何か新しいことを始めるというより、目の前の患者さんを一人ひとり丁寧に診ていくことも変わらずに大切にしたいと思っています。入れ歯作りでも訪問診療でも、細かなところで手を抜かず、必要なことをきちんと行う。これからも、そうした診療を積み重ねていくことが目標です。

