似ているが違う
適応障害による「うつ」、うつ病による「うつ」
日比谷ガーデンクリニック
(千代田区/日比谷駅)
最終更新日:2021/10/12


- 保険診療
うつ病は、現代人にとって身近な病気。自身が感じるのはもちろん、夫や妻、会社の同僚といった身近な人がうつ病になったり、職場で休職者が出たりといったことも少なくない。しかし、実は「うつ」にもいろいろなタイプがあり、必ずしもうつ病が原因とは限らないことは、あまり知られていないのではないだろうか。日本大学医学部・精神医学・臨床教授として医師の教育にもあたっている、「日比谷ガーデンクリニック」の院長・高橋栄先生に、混同されがちな適応障害による「うつ」と、うつ病による「うつ」の違いについて聞いた。
(取材日2020年12月25日)
目次
「うつ」は原因によって治療法が違う。適切な診断ができる病院・クリニックを受診することが大切
- Q適応障害とはどのような病気でしょうか?
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A
▲クリニックは駅直結のため、気軽に立ち寄り相談できる
適応障害とは、職場や学校でうまくいかなくなり適応できなくなった結果、うつ状態や不安になってしまうものです。「うつ」というと、イコール「うつ病」だと考えがちですが、神経症や認知症の症状の一つとして「うつ」が出ていることは少なくありません。現在、増えている「うつ」は、うつ病ではなく適応障害が原因の場合が多いですね。うつ病によるうつ状態は非常に重く、何に対しても興味が持てないし、会社になどとても行けません。一方、適応障害によるうつは、症状が軽いです。休日には普通に生活できる人もいます。また、うつ病になる方の多くは35歳以上ですが、適応障害によるうつは年代に関係なく見られます。
- Qうつ病と適応障害による「うつ」は異なる病気なのですね。
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A
▲的確な診断のもと最適な治療を心がけている
はい、まったく別物です。うつ病は、脳内で神経伝達物質の一種であるセロトニンが枯渇している状態です。うつ病の人は全体的にエネルギーがなく、クリニックに来るのもやっとですし、話すのも嫌。話し方もぼそぼそとして、いかにも覇気がありません。一方、適応障害からくるうつ状態では、セロトニンは関係なく心の問題です。適応障害の患者さんは声にも力があり、診察でもご自身の意見を主張されるし、覇気がないという印象は受けないです。両者の違いは、長年の診療経験がある者には一目瞭然です。
- Q適応障害になってしまう原因は何でしょうか?
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A
▲広々していてリラックスできる待合室
ほとんどが職場のストレスです。ICD-10といって、WHOによる「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」では、「個人的素質あるいは脆弱性は、適応障害の発症の危険性と症状の形成に大きな役割を演じているが、ストレス因子がなければ起こらない。」とされています。つまり、神経症的にストレスに弱いなどの素質である脆弱性に、パワーハラスメントなどの悪い職場環境が重なって発症するわけです。ただ、環境が悪すぎると、脆弱性がなくても発症するケースもあります。
- Qクリニックではどのような治療を行いますか?
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A
▲プライバシーが保たれた部屋でなら、悩みも話しやすい
環境が改善され、抗不安薬の投与を開始すれば、1ヵ月で快方へ向かいますので、診断書を勤務先に提出し部署の移動や、仕事内容を変えるなど、まず環境を変えていきます。中には「抗不安薬は依存症になる」と使いたがらない医師もいますが、常用量の服薬では依存にはなりません。抗不安薬をドラック代わりに悪用する人は、一度に常用量を超えて飲んだりして酩酊状態を得ようとし、依存になっていきます。うつ状態なら何でも、抗うつ薬を処方する医師もいます。しかし、適応障害の「うつ」と、うつ病の「うつ」は別物なので、適応障害にSSRIなどの抗うつ薬は効きません。うつ状態の治療には、正しい診断が最も大切なのです。
- Qうつ状態かもしれない人にはどのような接し方がいいでしょうか?
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A
▲治療は家族や周りの人の協力も大切
来院を勧めて、病院に来てもらうのが一番です。ただ繰り返しになりますが、うつ症状があってもうつ病とは限らず、原因によって治療法は違います。うつ病なら、抗うつ薬を服用することで数ヵ月で快方へ向かっていくでしょう。一方、適応障害によるものなら、環境を変え、抗不安薬を投与することにより、1ヵ月くらいで快方へ向かいます。抗うつ薬は、適応障害によるうつには効果が期待できないので、うつの原因は何なのかをしっかりと見極められる医師にかかることが重要ですね。患者さんが医師の技量を判断するのは難しいですが、目安として、大学病院で10年以上の経験があるかは参考にできるかと思います。