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山中 光茂 院長の独自取材記事

しろひげ在宅診療所

(江戸川区/瑞江駅)

最終更新日:2020/02/10

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江戸川区を拠点に、市川市、浦安市の全域と、葛飾区、江東区で在宅療養の支援を行っている「しろひげ在宅診療所」。人生の最期の時間を住み慣れた家で幸せに過ごしたいと考える患者とその家族を、経験豊富なスタッフがチーム一丸となって支える在宅医療に特化した診療所だ。院長の山中光茂先生は、群馬大学医学部を卒業後、アフリカを中心とした途上国でさまざまな医療支援プロジェクトに従事。帰国後は三重県松阪市の市長を務めた経歴を持つ。「在宅医療は日替わりの非常勤医師などではなく、かかりつけの医師がお看取りまでを行うのが本来の姿である」というポリシーを掲げ、「患者一人ひとりに最期の瞬間までしっかり寄り添う医療」を実現するために尽力する山中院長に、在宅診療にかける思いを語ってもらった。
(取材日2020年1月8日)

最期まで徹底的に患者とその家族に寄り添っていく

前回の取材から1年ほど過ぎましたが、どのような変化がありましたか?

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開業当初から比べると、患者さんの数も増え、地域で在宅診療の意識も広がっていると感じています。ケアマネジャーやヘルパーといった地域で福祉を担っている方々からの紹介で、毎月新規の患者さんをお引き受けしており、多くの患者さんの最期をお看取りさせていただいております。紹介を受ける患者さんの半分以上ががんや難病といった重度の疾患を抱えていますが、病院と同レベルの治療行為やサポートが在宅でできるような体制づくりをしてきました。現在は、常勤医師が私を含めて5人、看護師11人、管理栄養士2人、ケアマネジャーが6人という体制ですが、スタッフ全員、これまで最期のお看取りまで徹底的に患者さんに寄り添う在宅医療や訪問看護に従事してきた経験があり、その強い思いをもって現場に携わっています。

医師ほかスタッフ全員が常勤だそうですが、非常勤やパートタイムのスタッフを置かないのはなぜですか?

それぞれの職種が患者さんに対して責任を取れる体制を大切にしているので、スタッフはすべて常勤というかたちをとっています。この10年ほどで在宅診療を行う医療機関の数は大幅に増えましたが、「24時間対応」としながら、夜間は普段担当している医師ではなく非常勤やバイトの医師が対応する診療所も多くなっています。例えば、患者さんやそのご家族によっては、救急搬送をしてほしくない方もいれば、延命治療をしてほしくない方もいらっしゃいます。そうした部分がわかるのは、普段から接している常勤の医師やスタッフだからこそなのです。

24時間、365日対応をするということは、医療者にとっての負担は大きいのでは?

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確かに、近年話題になっている医師のワークライフバランスというものも大切ですが、在宅医療ではそれを逃げ道にすることはできないと思っています。まずは、患者さんにとって何がベストかを考えることからスタートするべきです。もちろん、医師も人間ですから健康的に働くことが大切ですが、自分で選んでこの道に入った人ばかりだと思います。自分自身の勤務の大変さを理由にして患者さんにとってベストな診療を諦めさせることがあってはいけないと私は考えます。

他者の価値観を尊重し他者の痛みに寄り添うことが信条

そもそも医師をめざしたのはどんなきっかけがあったのですか?

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小さい頃にテレビで見たエチオピアの難民支援の話が忘れられず、将来はアフリカ支援の仕事に関わりたいと考えていました。そのためには外交官になるのがいいのではと思い、外交官内定は出ていたのですが、よく考えたら外務省は自国のために仕事をする場であり、私自身の夢とは程遠いことに気づいたのです。それで群馬大学に学士入学して医師をめざしました。卒業後はケニア奥地や離島などで医療支援プロジェクトに従事してきました。帰国後、33歳の時に松阪市市長に就任し、7年務めました。政治活動は40歳までと決めていましたので、その後は本来の医師としての役割を果たしたいと思い、四日市で自宅での看取り率向上に力を入れていた「いしが在宅ケアクリニック」の石賀丈士先生のもとで在宅医療について学んだのです。

アフリカで医療支援プロジェクトに従事した経験が、現在に役立っていることはありますか?

アフリカでの医療支援では、日本人の価値観で行う支援と、相手が求めている支援が合っていないことが多々ありました。例えば、アフリカのある地域では40%の人がエイズに感染しているんですが、みんなが不幸せというわけではありません。そこを無視して、日本人の価値観で医療体制をつくろうとするのは違うのでは、と感じることも。地域によって課題は違うわけですから、その課題に対してできることをアプローチしていくことが大切なのです。そうした思いが当診療所の原点にあると思います。在宅診療においても、がんだから不幸せ、家で最期の時間を過ごすから悲しいというわけではなく、それぞれ異なる立場にいる患者さんやそのご家族に対して、最大限の幸せをつくって差し上げる必要があると思います。「病気を治す」という価値観だけではなく、一人ひとりの人生に寄り添うことで癒やせるような、そういうクリニックになりたいと常々思っています。

では、先生が患者さんと接する際に大切にされていることは何ですか?

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まず、一人ひとり時間をしっかり取って対話をした上で、患者さんの価値観に寄り添うということです。こちらの価値観ではなく、ご本人やご家族の価値観をとにかく尊重するということが大切だと思っています。医療者というのは、医療者の価値観から「こうあるべきだ」、「こうしたほうが良い」と伝えてしまいがちですが、それが患者さんの希望に沿っているとは限りません。特に医師の言葉というのはとても重いので、患者さんにとっては自分で決めたようでいて、実は医師から誘導されてしまっていることもあります。ですから、医師は安易に言葉を発するのではなく、家族の思いを想像していかなくてはなりません。患者さんが何を望んでいるか、価値観をどこにおいているのか、どんな人生設計を考えておられるのか、その背景や考え方について深く理解することが大切なんです。

患者や家族の迷いを受け止め、そこに徹底的に寄り添う

在宅での看取りを考えている家族に対して、どのようなアドバイスをしていますか?

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例えば、がん末期の患者さんを引き受けるときには、本人とご家族に対してこれからどういう経過をたどるのかということを丁寧に説明しています。その上で、迷うことがあっても当たり前だということ、家族が途中で介護を負担に感じたり、緊急時に気持ちが揺れたりしてしまってもそれは否定されるべきことではないということをお伝えしています。何がなんでも在宅でお看取りしなくてはいけないというわけではなく、途中でやっぱり病院に入るというふうに気持ちが変わってもいいんです。今の段階ですべてを決めなくても、その時々で時間をかけて相談することができるのも、常勤の医師がいて継続的な対話ができるからだと思います。

そのほかに、診療でこだわっていることはありますか?

鼻や口へのチューブや胃ろうで栄養補給している患者さんも、チューブなどを外して口から栄養を取れる状態に促すことです。医師側は誤嚥性肺炎を恐れて経管栄養法を行いますが、これにはマイナス面もあります。確かに口から飲食すると誤嚥性肺炎のリスクが考えられます。ですが、口から飲食することはとても人間らしい行為で、その人の活気にもつながりますし、ご家族の方もその姿を見るのはうれしいことでしょう。

最後に、今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

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今年1月に居宅事務所と訪問看護ステーションを独立させ、地域の中で介護と医療、看護を責任持って対応していける組織になってきたかなと思います。これまで、介護をされている方の悩みや苦しみを数多く受け止めさせていただきながら、この仕事を続けてきました。在宅診療を受けるようになると家族の介護負担が増えると思われがちですが、医師や看護師をはじめ、いろいろな職種の方々に甘えることができるのが、地域における在宅医療の本来の体制です。今後もしっかり患者さんとそのご家族に寄り添いながら、徹底的に対話しながらサポートしていきたいと思います。

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