菊岡 良考 院長の独自取材記事
川崎ライフケアクリニック
(川崎市幸区/川崎駅)
最終更新日:2023/03/14

自分の生まれ育った地域に恩返しがしたい。「川崎ライフケアクリニック」の院長、菊岡良考先生はそんな思いを胸に、2014年、在宅医療を中心に行うクリニックを川崎駅近くに開設した。菊岡院長が掲げるテーマは「患者さんとご家族から頼りにされるクリニック」。患者のもとに「とにかく足を運ぶ」ことを大切にしており、その姿勢が重い病気の早期発見や患者側からの信頼の醸成につながったケースもあるという。「患者さんやご家族の希望、訪問によって知り得た生活背景を踏まえながら、質の高い医療を受けながら自宅で楽しく過ごすことができるよう提案をすることを心がけています」と話す菊岡院長に、診療への思いや取り組み、在宅医療の魅力などを聞いた。
(取材日2022年11月21日)
「とにかく患者のもとに足を運ぶ」をモットーに
まずはこちらに開院した理由と訪問地域、診療体制について教えてください。

川崎は私の地元なんです。私はここで生まれ育ち、近くに住んでいる方々にお世話になってきましたから、恩返しというと大げさに聞こえるかもしれませんが、医師として少しでも地域に還元したいなと思ったんです。私の祖父は私が生まれる30年ほど前からここでタバコ屋を営んでいて、私も小学生の頃から店番をしていましたから、患者さんやご家族の中には顔見知りの方もいらっしゃいます。そういう方々の力になれているのはうれしいことです。現在当院の訪問診療範囲は川崎市の幸区と川崎区、中原区、横浜市の鶴見区と神奈川区、港北区、そして東京の大田区です。スタッフ体制としては私の他に非常勤医師が6人、常勤の看護師が4人、運転や物品の管理などを担うドクターサポートが3人、事務員が4人で、そして訪問カーを3台用意しています。訪問診療は私と看護師、ドクターサポートの3人で訪問することが多いですね。
現在はどんな患者さんに対して訪問診療を行っているのでしょう。
当院の患者さんの8割がご自宅にお住まいの方で、残りの2割は有料老人ホームやグループホームなどの施設に入所している方です。患者さんとしては認知症や末期がんに限らず、神経難病や生活習慣病などでADL(日常生活動作)が低下してしまった方々もいらっしゃいます。訪問診療で行う診療は、外来で行えることとほとんど差はないと思います。当院では検査にも一通り対応しており、採血、採尿、各種培養検査、心電図検査、血液ガス検査、エコーなどを行っています。胃ろうの管を交換する際に、胃粘膜の状態などをチェックできる内視鏡検査も可能です。最近は皮膚や爪を削って特殊な薬品に漬け、顕微鏡で確認することで爪白癬等の早期発見がめざせる検査も実施できるようになりました。当院の武器の一つがスピードだと思っているので、速やかに診断してすぐに治療に取りかれるような検査があれば、今後も積極的に導入していきたいと考えています。
開業以来、先生はどんなクリニックをめざしてきたのでしょう?

患者さんとご家族から頼りにされるクリニックでありたいです。そのために私が意識して行っているのは、とにかく足を運ぶこと。当院は365日24時間対応できる体制を整えていますので、どんな時間であっても患者さんから緊急連絡があったら、まずは訪問して診察をするように努めています。そして患者さんやご家族にわかりやすく説明することを大切にしています。在宅で療養される方は、多くの不安を抱えていらっしゃいます。ちょっとしたことでもお話しすると、不安げな患者さんやご家族の顔がパッと明るくなる瞬間があって。私たちが携わることによって、少しでも安心して過ごしてもらえるように常に考えています。
浪人、就職を経て「背水の陣」で医学部受験に再挑戦
実際に患者さんのもとへ足を運ばないとわからないこともあるのでしょうね。

そうですね。訪問診療の場合、患者さんのご家族から「お母さんがいつもと違う」というような連絡をもらうことがあります。意識ははっきりしているけれど、ご飯が食べられないとか、熱があるようだとか、そういったことですね。そんな場合は、やはり実際に患者さんのお宅に伺います。実際に目で見て、体に触れなければ本当の様子がわかりませんからね。医師が診療することで呼吸の状態や脈拍などご家族には判断が難しい状態に気づけますし、例えば、熱があって呼吸の状態が悪ければ、肺炎の疑いが高いので、入院できる病院をご案内することができます。特に肺炎は高齢者がかかりやすく、かつ亡くなりやすい病気ですから、おかしいなと思ったら電話で済ませずにすぐに医師が診療することが大事です。患者さんやご家族が大したことではないと考えているようなちょっとした症状でも、実は重篤な症状だったというケースもありますから。
先生はなぜ医師を志したのでしょうか。
医師をめざした兄に影響を受けました。兄は私が幼稚園生の頃に親に医師になりたいと伝えて予備校に通い始め、私も後を追うように医師をめざすようになりました。しかし、私は結局理系の大学へ進み、商社に就職をしました。商社で仕事をする中で、仕事は面白いですし、評価もされていたのですが、何だか燃え切れていない自分もいたんです。結局私は幼い頃からの夢を思い起こして再び予備校に通い、翌年、試験に合格しました。当時は26歳でまさに背水の陣で臨みましたから、現役の頃とはまた違った覚悟がありました。そして夢をかなえ、医師になった今、当時商社で働き学んだことが生かされる場面も多いので、良い経験をしたなと思います。
そして、勤務医を続ける中で在宅医療に関心を持ったわけですね。

ええ。私は北里大学の医学部を卒業した後、川崎幸病院などで主に内視鏡の検査や治療を行いました。開業した先生から「手伝ってほしい」と相談された時は在宅医療の実際なんてまったく知りませんでしたが、やってみるとこれが非常に面白かったのです。患者さんに病院に来てもらっての外来診療とはまた違った魅力がありました。次第に在宅医療のほうに携わりたいと思うようになったのです。
地域や多職種の仲間と協力して在宅医療の質を高めたい
在宅医療の魅力とは具体的にどんなものなのでしょうか。

患者さんの生活が見えて、健康へのアドバイスをより具体的にできることですね。患者さんのご自宅に伺うと、病院では知られなかったさまざまなことがわかるんです。食事はレトルト中心か、ご家族が作っているか、薬はしっかりと飲んでいるか、ご家族との関係はどうかなど。それに、外来よりも接する時間が長いですし、患者さんご自身も自宅にいてリラックスしているからか主訴以外の生活に関することもいろいろと教えてくださいます。自分で見たこと、患者さんから聞いたことを踏まえて、患者さんがご自宅で楽しく過ごせるためにはどうすればいいかを考えるのが好きなんですね。
在宅医療・訪問診療を検討している方へ、アドバイスはありますか?
まだまだ訪問診療について知識がない方が多いという印象を受けます。制度を知らないばかりに利用できないという環境は、患者さんにとって良くありませんよね。ですから当院は、訪問診療について気軽に相談できる存在でもありたいと思っています。今すぐに訪問診療を必要としていなくても、「いざとなったらここにお願いしよう」と思えるだけでも安心していただけるでしょう。訪問診療の仕組みや費用のことをもっと皆さんに知っていただけるように、できる限り情報発信もしていきたいと思っています。知っていただくことで、訪問診療がいざというときに患者さんやご家族を支える選択肢の一つになればうれしいです。
最後に、読者へのメッセージと今後の展望をお聞かせください。

在宅医療を行う中でうれしい瞬間は、「お願いして良かった」などと人伝いに、間接的に患者さんやご家族の声を聞けた時です。もちろん直接お聞きするものうれしいですが、間接的に聞くと、本心が聞けたような気がしますね。今後も一つ一つのことを親身に丁寧に積み重ねていき、こういった喜びの声を多く聞けるとうれしく思います。在宅医療はまだまだ担い手が少ないのが課題。複数の医師で協力し合うことで全体的な医療の質も高まりますから、同じ志を持つ先生ともっと出会っていきたいですね。また、訪問診療は地域の訪問看護ステーションやケアマネジャーさんなど、多職種のスタッフが連携して一人の患者さんを支えていくチーム医療ですから、チームワークも重視して進めてていきたいです。これからも患者さんやご家族が、より安心して、幸せに過ごせるような仕組みをつくれるよう尽力していきたいと思います。