池田 衣里 院長の独自取材記事
えがおクリニック
(港区/広尾駅)
最終更新日:2025/07/03

東京・港区南麻布にある「えがおクリニック」は、ペインクリニック科をメインに一般内科の診療も行う診療所として、開業8年目を迎える。東京メトロ日比谷線・広尾駅から徒歩2分と好アクセス。インバウンドの観光客をはじめ、国際色豊かなエリアにあり、有栖川宮記念公園の豊かな緑が周囲を彩る。池田衣里(いけだ・えり)院長は麻酔科で長く研鑽を積み、神経ブロック注射など痛みの緩和に精通するベテラン医師。原因不明のものを含めて全身のさまざまな痛みの診療にあたり、豊富な治療メニューと率直かつ気さくな応対で、患者が明るく活力に満ちた生活を取り戻せるよう努めている。「患者さんの選択を何より尊重したい」と語る池田院長に、クリニックの現況や治療の実際、理想とする「ピンピンコロリ」への思いなどを聞いた。
(取材日2025年6月6日)
麻酔科の知識と経験を生かした神経ブロック注射が得意
クリニックの紹介をお願いします。

当院は2017年11月に開業しました。元は広尾駅の西側にあり、電車をご利用の患者さんにはやや遠かったため、より駅近の物件を探して2023年12月に今の場所へ移転してきました。院内はややコンパクトになりましたが、患者さんは通いやすくなったと思います。クリニックの名称には記載していませんが当院はペインクリニック科です。私は日本麻酔科学会麻酔科専門医であり、文字どおり「痛み」に関する診療をメインに行っています。また、痛みへの対応の他に一般内科の診療もしていて、風邪などで近所からお越しになる患者さんも多いですね。
ペインクリニック科ではどのような症状を診てもらえますか?
当院で目立つ症状としては、腰痛、頭痛、膝痛、帯状疱疹による神経痛、肩凝りなどで、中には原因不明の痛みを訴える患者さんもいらっしゃいます。整形外科や一般的な内科では診断が難しい、線維筋痛症やCRPS(複合性局所疼痛症候群)などの特殊な慢性疾患の治療も行っています。ペインクリニック科だからといって重度の痛みだけが対象ではありません。例えば肩凝りの場合も、痛みが肩の周辺だけでなく頭痛にまで及んでいるなど、割と重い苦痛を抱える方が受診される傾向にあります。
整形外科とペインクリニック科の違いを詳しく教えてください。

整形外科が主に骨や関節の痛みを診るのに対し、ペインクリニック科は先ほどお話ししたとおり、全身のさまざまな部位で発生する痛みについて、より幅広く診療を行っています。特徴的なのは、神経ブロック注射の取り扱いです。整形外科でもブロック注射は行われていますが、私たち麻酔科出身のペインクリニック科の医師によるブロック注射は少し違います。全身の痛みが対象なだけに注射の方法もバリエーションが多く、エコー(超音波)を同時に使うことでより適切な神経ブロックが可能です。なお、エコーを使用する目的はあくまで精密さの向上にありますが、当院では患者さんにもエコーの画像を一緒に見てもらうことがあります。患者さんが画像から直接情報を読み取ることは難しいかもしれませんが、注射の過程を視覚的に体験することにより、治療に対してポジティブになってくれたらと思っています。
日常生活に支障がないような痛みのコントロールを
神経ブロック注射は、何回も打たないといけないでしょうか?

急性の痛みか慢性の痛みかによっても異なります。よく患者さんにお話しするのですが、慢性痛は少なくとも痛みを抱えてきた期間と同じくらいの治療期間が必要です。急性痛も、例えばぎっくり腰の痛みは早ければ1ヵ月程度、重症であれば2〜3ヵ月通ってもまだ痛みが引かないことも。いずれにせよ、治療をしても痛みは必ずしもゼロになりません。病院に行けばすっかり治ると期待して受診される患者さんもいますが、そういう方には「過度な期待をすると、かえってつらくなりますよ」と初めにお伝えしています。大事なのは、痛みを日常生活に支障が出ないレベルに抑えられるよう、治療によってコントロールすることなのです。
ペインクリニック科は、保険診療ですか?
当院の治療は、保険診療の範囲内で行っています。電話や受付で保険は使えますかと尋ねる患者さんをたまに見かけますが、どうやら当院の雰囲気から、自由診療メインのクリニックという印象があるようです。あるいはまだ、ペインクリニック科の認知が広まっていない影響もあるかもしれません。しかし事実は逆で、痛みの緩和については保険診療の治療を重視しています。
他の医療機関から患者さんの紹介を受けることもありますか?

整形外科の先生からご紹介いただく患者さんもいますし、難しい症例だと大学病院から紹介されることもあります。最近では、小児の患者さんが増えてきています。その場合は、ほぼCRPSによるものです。手や足が動かなくなってしまい、病院でさまざまな検査をしたけれど治療が進まないから診てほしい、という依頼が時々あります。そういうお子さんには、状態にもよりますができる限り注射は避けたいので、症状に応じて漢方薬を出したり、ご家族にも参加いただいて痛みの感じ方の指導を行ったりもします。また、患部に近赤外線を当てるレーザー治療も適宜取り入れています。1回10分で済み、照射中に痛みを感じることはまずないため、お子さんでも安心して受けていただけます。
患者の痛みと憂うつな気分も考慮した治療を提供したい
診療中の患者さんとの接し方で、意識していることはありますか?

患者さんが普段どのような生活をしているか知りたくて、差し支えのない範囲でよくお話を伺っています。痛みがある毎日が続くと気分が落ち込み、うつ状態のようになる方も少なくありません。それには睡眠が足りないとか仕事で壁にぶつかっているとか、人それぞれ異なる事情が関係していることもあるでしょう。そうした外的な要因も含め、患者さんの苦痛と憂うつな気分に関係しているさまざまなものを総合的に見て、治療方針を組み立てていくことが私にとってとても大事なのです。そのため世間話のような会話が多くなることもありますが、時には思わぬ発見もあって「家族の介護が忙しいから、中腰の姿勢が増えている」といった重要情報が飛び出したりもします。何にせよ、来院時はつらそうな表情だった患者さんが帰る時には”えがお”になっている、その瞬間を見ることができたなら、私にとってこの仕事の何よりの喜びであり、励みにもなります。
ところで、先生が医師を志したきっかけについて教えてください。
まだ幼稚園に通っていた頃に斜視の手術を受けたことがあり、看護師さんたちに優しくしてもらえたことが強く印象に残りました。この経験を共有していた母から、将来の職業として医療の道を勧められたのです。医学部に進んでからは「人を救う」という使命感に燃えるというより、とにかく学ぶことが楽しかったですね。研修医の頃はたくさん勉強しなければならず、働き方改革が進んでいる今の医療現場とはまったく異なる環境でのハードな毎日でしたが、それらを無事に乗り越え、自分の好きなことを職業にできていることを本当に良かったと思っています。
最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

私にとっては健康を保ちながら「ピンピンコロリ」で人生を閉じられることが理想です。患者さんがそのように充実した人生を歩めるように最善を尽くすことが、医療の役割だと考えています。例えば、貧血が進んだ高齢の患者さんがいて、貧血だけを治療するのか、その原因を根本から治療していくのか、患者さん本人に選んでもらうとしましょう。正解はありません。その患者さんが「もう検査したくない」「もし重大な病気が見つかっても今は元気だから、貴重な時間を無駄にしたくない」と選択したとしても、ピンピンコロリの精神にかなっています。私たち医療者は、あらゆる治療の選択肢を提示する役割がありますが、患者さんは誰に流されることなく、ご自身で治療を選んでほしい。知りたいこと、わからないことがあれば、いつでもご相談ください。お待ちしています。