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水野 昭夫 院長の独自取材記事

大空クリニック

(宮崎市/宮崎駅)

最終更新日:2021/12/01

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宮崎市内大淀川河畔。ホテルやマンションが建ち並ぶエリアにある「大空クリニック」。精神科と内科を掲げる同院の水野昭夫院長は、心の病気を抱える患者とその家族を50年以上にわたって支えてきた。クリニックでの診療に加え、家族から離れ自立しようとする患者のための『自立支援アパート』という拠点づくりにも力を注いでいる。また家に引きこもって病院へ行こうとしない患者や説得のできない家族の場合には全国どこへでも足を運び説得。患者や家族と話し込み、納得の上、クリニック隣のアパートに住みこんでもらう。「デイケア、訪問看護などの治療を通して交流範囲が広がり、この空間は大きな家族と感じられるようになる」という。人を包み込むように話す水野院長に患者とその家族の向き合い方や心がけていることについて話を聞いた。

(取材日2021年9月21日)

引きこもりで悩む人の自宅に訪問し、解決の糸口を探る

精神科と内科が診療科目ですが、どのような患者さんが多いですか?

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心の病を抱える患者さんが中心です。その中でも特に、引きこもりの子どもが多いですね。適応障害と思われるケースが少なくありませんが、その原因として双極性障害(躁うつ病)や発達障害が疑われる場合もありますし、あるいは家族関係のトラブルからという場合もあります。また統合失調症の方もいらっしゃいます。他には老人性の認知症の患者さんも診ています。

引きこもりで悩む人のために、直接家まで足を運ぶことも多いと伺いました。

そうなんです。話はまだ勤務医をしていた頃にまでさかのぼります。思春期の子ども、家族とのトラブルの多い子どもを診ていたのですが、往診に行くと、診察室では全然見えなかったことが見えることに気づいたのです。そうした年代の子どもの場合、原因は本人より家族にある場合が多いからなんですね。家まで行ってみると、家族間の関係がよく見えてきます。診察室の中だけで向き合うより、何倍も見えてくるものがあるのだなということがよくわかりました。それが往診や自宅訪問に力を入れるようになった始まりです。引きこもりの問題を考えるとき、一番大事なことは家族が変わることなのです。とはいえ、家族全員が変わるとなるとなかなか難しく、そのためにも第三者の関わりが必要だと考えています。それでも変わらないとなれば、本人が家族から離れ、家族以外の人間とのつながりをつくっていくことが大切でしょう。

家族と離れて暮らす患者さんを支援されているそうですね。

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患者さんが自立して生活できるようにとの思いから、自立支援のためのアパートを設立しました。当クリニックでは、そこに住んでいる方々に対して、治療の一環として、院内で行うデイケアに参加していただいたり、必要に応じて訪問看護を行ったりしています。デイケアでは、誰もが楽しめるスポーツや、新聞の活用、近隣への外出、講師を招いての織物教室など、さまざまなプログラムを日替わりで毎日行っています。

子どもと向き合う際に大切なのは、じっくり待つこと

相談を受けた際に、心がけていることは何でしょうか。

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まずは本人が話し始めるのを待つことが大切です。ご家族の方は解決を急ぐ場合が多いですが、「もっとゆっくりいきましょう」と話をします。初めから子どもに対して強く出たら絶対いけません。ただ、だらだらと放置するのはもっとよくないです。引きこもりの相談は全国からいただきます。遠方でも直接伺うようにしていますので、「家まで来てくれるとは思わなかった」という方は多いです。時には僕から「泊めてほしい」と言います。当初は嫌がる方もいらっしゃいますが泊まることはすごく大きな力になるのです。そのことによって僕を信頼してくれるのが早くなりますからね。「全部見られたのでこの人には何も隠せない」となり、親のほうが変わりやすくなりますし、この先生には演技が通じないと感じるのでしょう。診察室ではどうしても格好をつけてしまいがちですが家ではそういうわけにいきません。ですから直接出向き家族の中に入っていくことが重要なのです。

家族から離れて来る方もいらっしゃるのですか?

そうですね。数回の訪問のうちに、「そちらに行きたい」と言って実際に来てくれる子がいます。その一方で、3年間僕が通っていっても、まだ来ない子もいます。ただそれでも、家で僕を待ってくれてはいるんです。以前は、例えば本人を強制的に連れて来るようなこともありましたが、今はそういうことはしていません。その方の様子によって、自殺の可能性があるなど緊急性が高いとなれば、クリニックへ連れてくることもありますが、基本的にはなるべく来てほしいけれど、来られない子はそれで仕方ないと考えて訪問をしています。僕自身が年を取ったということもあるかもしれませんし、最近はあまり強引なことはしたくないなという気持ちがあります。

思い出に残っている患者さんも多いでしょうね。

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いっぱいいますよ。近々、会おうということになっているお子さんもその一人です。4年前くらいにこちらに来た患者さんなのですが、今では大学に入って今度卒業を迎えます。その後は大学院に進もうと考えているそうです。実は彼のご兄弟も患者さんで今や大学生です。そんな2人から、「先生に最近会っていないから、久しぶりに会いたい」と声をかけてきてくれて。患者さんから「先生のおかげだから、ぜひまた会いたい」と言ってもらえたらうれしいですよね。そうやって顔を合わせることもまた治療の一環だと思っています。あと、トイレに閉じこもったお子さんがいて強引にドアを開けたこともあり、その結果、話し始めたお子さんもいます。そのお子さんは「あの時あれだけのことをしてもらえていなかったら今の自分はいない」と言ってくれました。

管理しすぎない、自由を束縛せずに生活しながら治療

本を読んだことがきっかけで、医師をめざしたと聞きました。

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そうなんです。船医として世界を回遊した「航海記」の本を読んで、医者になったら世界旅行ができるなあという、最初は軽い気持ちでした(笑)。ただ医学部に進んでから、進路に悩んだ時期があったんです。作家や哲学者になりたいとか、あるいは全然違って天文学者になるのもいいなとも思いを巡らせ、いろいろ気持ちは揺れました。結局はそのまま卒業し、1年間だけ医療刑務所に勤めてから、私自身も船医になって世界を周る船に乗ったんですよ。タンカーに乗ったり、ヨーロッパ航路の船で地球一周したりして、なかなかできない経験をしました。船長が僕のことを気に入ってくれたのか、よく部屋まで遊びに来てくれたのもいい思い出です。

昨今、引きこもりの増加、長期化が顕著になっていますが、感じていらっしゃることはありますか?

子どもの頃からの引きこもりが、40歳や50歳になっても続くという点については、「少子家族」ということも大きく関わっていると思います。昔であれば家族の中に子どもが7~8人いたのが、現代では2~3人の少人数に減って、一人っ子も珍しくありません。それと同時に、社会が管理的になりすぎているようにも感じています。いい大学に行ってから就職しないといけない、という親からのプレッシャーが強くかかりますし、うまくいかなければ一つの大きな傷になるでしょう。そうするとその心を治すのはなかなか簡単ではありません。このような社会環境の変化の問題はあると思いますね。

今後の展望について、お聞かせください。

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精神科というと、どうしても過剰な管理をしがちにみられています。僕はそうではなく、無理に入院させず、薬や管理を最小限に抑え、患者さんが自由を拘束されずに生活しながら治療できるような拠点をつくりたいと思っています。管理しすぎると治療にならないどころか、かえって悪くなってしまいますから。また、ご本人に加え、家族の方々も一緒に住める場所にできたらいいですね。これまで僕が行ってきた治療や自立支援の考え方は、著書にもまとめてきましたが、もっと普及させていきたいですし、そのためにも「自立支援家族村」と称する拠点づくりを進めていきたいと思っています。

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