善本 知広 院長の独自取材記事
大阪西梅田クリニック
(大阪市北区/西梅田駅)
最終更新日:2025/04/23

再開発が進む大阪・梅田。大阪駅の真新しくなった西口を出て、高架沿いに数分歩いたビルの3階に「大阪西梅田クリニック」はある。このクリニックは、もともとは治験専門の医療施設だったが、糖尿病のエキスパートである山崎義光名誉院長が就任し、クリニックとして生活習慣病の診察を開始。そして、2025年1月に、これまで受診科目にはなかったアレルギーを専門とする善本知広院長が就任した。研究分野で目覚ましい業績を上げている善本先生だが、その根底には「研究成果を患者さんに還元したい」という熱い思いがあった。優しい笑顔と穏やかな語り口が印象的な善本院長に、これまでの道のりや、医療人としての原点、今後地域医療で実践していきたいことなどを尋ねた。
(取材日2025年3月25日)
臨床の経験をもとに研究分野で活躍
善本先生が医療を志したきっかけを教えてください。

兵庫医科大学に入学した当初から免疫学を研究したくて免疫学の研究室に出入りしていました。しかし実際に患者さんと接さずに研究することに違和感を抱き、卒業間近になって内科学の研究室に入局することを決めました。そこはアレルギー・免疫疾患以外の、呼吸器や消化器などすべての内科疾患を治療する、今でいう総合内科でした。そこで臨床を7年学んだ後、念願の免疫学に移籍したのですが、当時は免疫を調整する物質サイトカインのさまざまな種類が相次いで発見され、ノーベル医学賞受賞者の本庶佑先生らがそれらの遺伝子構造の解明に成功していた時期でした。私はサイトカインの一つIL-4の発見者である米国・国立衛生研究所のポール先生の研究室に幸運にも留学する機会を得て、さらに幸運なことに最初の研究で、生体内でIL-4を生み出す細胞を発見しました。私の研究成果はさまざまな科学学術誌に掲載されました。
その後兵庫医科大学に戻られていますね?
ポール先生からは5年間留学を延長してほしいと言われたのが、ちょうど1995年でした。私の実家は神戸なんです。1月にあの阪神・淡路大震災が起きて、幸い家族は無事だったのですが、親族に被害があり、兵庫医科大学も大きな被害を受けました。大学から戻ってきてほしいと頼まれ、その春にやむなく帰国したんです。しかしまたまた幸運なことに、兵庫医科大学では新しいサイトカインIL-18が発見されて、私は免疫学研究室でIL-18を中心にアレルギーの研究を続けることができました。IL-18の発見を基盤に先端医学研究所も設立され、私は2009年にアレルギー疾患研究部門の教授に就任しました。
先端医療研究所ではどんな研究をされていたのですか?

さまざまなアレルギー疾患のモデルマウスを作成して、発症メカニズムの解明と治療法の開発に取り組みました。その一つが、乳児が皮膚を介して食物アレルギーを発症するメカニズムの解明です。また、スギ花粉症は日本の国民病になっていますが、私たちはIL-18の兄弟分子であるIL-33が花粉症の発症に必須のサイトカインであることを発見しました。この研究成果はテレビでも取り上げられ、IL-33に対する抗体を用いた治験が現在行われています。このようなスギ花粉症を含むアレルギー性鼻炎の研究を進めることで、花粉症を「アトピー型アレルギー鼻炎」「鼻粘膜のみ陽性反応が出る局所性アレルギー性鼻炎」「アトピー体質でないヒトに発症する鼻炎」の3つに分類できることを明らかにし、さらに大気汚染物質PM2.5による花粉症悪化のメカニズムと治療法の発見、花粉症発症を抑制する新しい分子CST1の発見へとつなげました。
先生は幸運だったとおっしゃいますが、何か秘密があるのでは?
研究所には全国から耳鼻咽喉科の医師、眼科の医師、小児科の医師たちが集まって一緒に研究に取り組んでくれたことが大きかったですね。それに私は仕事をしていても、寝ていても、アイデアが次から次へと湧いてくるんです。臨床の現場に出て患者さんを実際に治療して、患者さんからこんなことになったとお話を聞いていると、研究のテーマになるんじゃないかと思いつくことがありますね。
研究成果を患者に還元する
先生はなぜ西梅田クリニックの院長に就任されることになったのですか?

よく「Clinic to Bench(臨床から基礎研究へ)」といわれます。このBenchとは実験台などのことで、病気の発症メカニズムを研究で明らかにするという意味なのですが、私はさらに研究成果を患者さんに還元すること「Clinic to Bench and Back」が重要だと思っています。医師として、患者さんの診察と治療をしたいと思って、2018年から臨床の現場に戻りました。その後新型コロナウイルス感染症の流行によって、総合病院での勤務は想像を絶する激務となりましたが、実際に内科の医師として患者さんを診察し、治療する喜びをあらためて痛感することができたのです。花粉症や喘息、呼吸器疾患の患者さんに、わかりやすい説明を心がけ、先進の治療法を提供してきました。そして2025年には縁があってお声がけをいただき、大阪西梅田クリニックの院長に就任いたしました。
このクリニックで先生はどんな治療を行われていますか?
今までこのクリニックでは対応が難しかった私の専門分野のアレルギー疾患と呼吸器疾患を診ています。例えばアレルギー性鼻炎には、スギ花粉などの季節性のものと、ダニなどの通年性のものがあります。先ほど話をしたような、局所性アレルギー性鼻炎もあれば、黄砂やPM2.5が原因のアトピー体質でないヒトに発症する鼻炎もあります。またスギ花粉のアレルゲンとトマトのアレルゲンは似ていて、そうした食物によって起きる花粉食物アレルギー症候群や、花粉皮膚炎もあります。それらを私は患者さんにイラストや図を使ってわかりやすく説明しています。治療には抗ヒスタミン剤や点鼻ステロイドなどを使うことになるのですが、患者さんに適したものを選択することが大切です。抗ヒスタミン剤でも、成分の強弱や眠気も強いもの、眠気が少ないものなどがあるので、それらを患者さんの要望に合わせて処方するようにもしています。
クリニックの今後の展望はどうでしょうか?

糖尿病の専門家である前院長の山崎先生が始められた糖尿病や生活習慣病の診察は大切に行っていきます。専門の先生もいらっしゃいますが、私も内科の医師として経験がありますから、糖尿病や生活習慣病を診ることもできます。それに加えて、新しくアレルギー疾患や呼吸器疾患の診察を始めたことを、もっと多くの方に知っていただきたいと思っています。というのも、このエリアにはアレルギーを扱うクリニックがあまりないそうなので、困ってらっしゃる方もいると思うのです。オフィス街なので、お勤めで忙しい方も多いでしょうが、ぜひ受診しにいらしてください。
体の弱かった自分だから患者の話に耳を傾ける
先生の医療人としてのモットーを教えてください。

患者さんの話を聞くことが一番大事だと思っています。診察中にパソコンの画面ばかり見て患者さんの話を聞かないようなドクターではいけません。実は私も体が弱くて、子どもの頃に小児まひにかかった後遺症で、今も右手右足に少しまひが残っています。その影響もあるのか、小学生の時から将来は野口英世先生のようになりたいと思っていました。自分自身が入院をし、体が不自由だったこともあって、患者さんに寄り添った治療がいかに大切で必要であるか、実感としてわかっています。今の私は、研究者・医療人として培った知識や経験を患者さんに還元したいと思っています。このクリニックに来て何が良かったかというと、じっくりと患者さんを診療できることですね。
寝ていてもアイデアが湧くという先生のオフの過ごし方は?
休みの日にはよく釣りに行きます。須磨の海で船釣りですね。2月、3月はメバルをよく釣りましたし、これから4月になったらマダイの季節ですね。あと、長年の趣味としては、17年前からアルトサックスを続けています。
読者へのメッセージをどうぞ。

大阪西梅田クリニックが新しく変わったことをお伝えしたいです。山崎先生が築かれた糖尿病内科に、アレルギー、呼吸器という診療科目が加わりました。この近くのオフィス街にお勤めの皆さんがお昼休みに来られるよう13時まで診療を受けつけていますので、お困りの方はぜひいらしてください。病態をチェックして、丁寧に病気の説明をして、患者さんお一人お一人に合った治療を提供いたします。