山下 達久 院長の独自取材記事
からすま五条・やましたクリニック
(京都市下京区/五条駅)
最終更新日:2023/06/08
京都市営地下鉄烏丸線・五条駅の2番出口前のビル3階にある「からすま五条・やましたクリニック」。緑色のチョウのロゴマークが目を引くが、山下達久院長によると、古代ギリシャ語で「心」を表す「プシュケー」にはチョウという意味もあり、さらに幼虫とさなぎも加え、心の成長・発達を表したそうだ。同院は、2017年の開院以来、心療内科・児童精神科・精神科の診療を行い、特に子どもの心のケアに注力してきた。医師による診察・治療のほか、臨床心理士による心理療法、カウンセリング、さらには医師と保護者が話をしている間に子供どもの相手を看護師が行い、その際の子どもの様子を医師に報告するなど、スタッフ一丸となって患者をサポートする。山下院長に、クリニックの診療から、精神医療を取り巻く課題まで、幅広く話を聞いた。
(取材日2023年5月11日)
発達障害やグレーゾーンには早めのサポートが大切
医師としての歩みをお聞かせください。
精神科医として、京都府立医科大学附属病院や国立舞鶴病院で、思春期・青年期の精神疾患、摂食障害などの心身症の治療、不登校、ひきこもりなどの不適応に対するサポートを行い、京都府立医科大学で後進の育成にも携わりました。2008年からは京都府立こども発達支援センターで、発達障害の子どもたちの年齢や障害に応じた総合的な療育に注力しました。その中で、公的医療機関ならではの良さを感じると同時に、すぐに支援が届けられないもどかしさも感じていました。そこで、もっと迅速な支援につながる町のクリニックの必要性を感じましたが、京都には児童精神科を標榜するクリニックが少なかったため、2017年に当院を開業しました。地域の患者さんの受け皿になるとともに、自分の取り組みを通じて児童精神科を診るクリニックが増えてほしい、そんな思いもありましたが、ここ数年で少しずつ増えてきています。
どのような患者さんが多く受診されていますか?
当院では年齢を問わず、精神疾患や心身症の診断・治療に対応しますが、やはり子どもの患者さんが多く、20歳未満の患者さんが約7割を占めます。近年の傾向としては、不登校やひきこもりのお悩みで来院するケースが増えていますね。30年ほど前、不登校は医療機関で診察する対象と考えられていましたが、一度、教育的なサポートに重きが置かれるようになってからは、ほかの精神疾患の合併症がないと診察しなくなりました。ところが、発達障害が認知されるにつれ、不登校に発達障害が関わっているのであれば、根底にある特性を診る必要性があるという認識が高まってきたんです。
発達障害やグレーゾーンという言葉が一般的になってきたように思います。
自閉症やADHDなどの発達障害について、まだ十分に理解されているとは言えないまでも、認識は高まり、子育てで感じる困難について調べるうちに、早い段階で発達障害の情報に突き当たるケースが増えていると思います。かつては受診をためらうご家族も多かったけれど、「子どもの特性を早く知って、子どもに合わせた育児ができる」という考えが広まり、積極的に受診してくださる方も増えています。難しいのが、発達障害の症状が見られるものの確定診断には至らないグレーゾーンです。発達障害のように診断と支援につながらず、家族や学校でも対応に困ってしまう。子ども自身は、周囲の無理解や度重なるストレスで二次障害といって精神疾患を発症したり、ひきこもりになったりすることも少なくありません。児童期に早く気づいてサポートすることで、思春期の二次障害を防ぐことが大切です。
さまざまな可能性を考えて丁寧な診察を
発達障害の子どもを持つ親にアドバイスをお願いします。
発達障害の場合に生じる発育の凹凸は見た目にわかりにくいことも多く、周りからは理解してもらいづらいため、「なんでこんなことができないの?」「やればできるんだから」と、頑張りを強要してしまいがちです。でも、子ども自身はどうしようもない「やりづらさ」を感じているかもしれません。また、子どもと過ごす時間が長いお母さんが「どこかおかしい」と感じているのに対し、お父さんは治療の必要性を感じないなど、家族間でも温度差が見られることもあります。でも、家族みんながお子さんの特性を知り、どう接したらいいかを学ぶことは、とても大切。もちろん毎回でなくて構いませんから、お父さんも、おじいさん、おばあさんも、ご家族に診察に同行していただき、わからないことはどんどん質問していただきたいです。適切な診断のもとでサポートすることで解決していくこともあるので、ご家族の理解と協力は欠かせないんです。
子どもが受診したがらないときは、どうしたらいいでしょう。
お子さんが自分の困り事を自覚していない場合や、認めたくない場合に受診を促しても、「病気じゃないのに行きたくない」とかたくなになってしまうでしょう。お子さんの不安に思う気持ちをくみ取ることが大切です。よほど緊急の場合でなければ、無理強いはせずに、まずはご家族が相談にいらしていただければいいと思います。そして、「相談できる場所があるんだよ」「先生はこんな話をしていたよ。こんな場所だったよ」と伝えてみてください。すると、「行ってみようかな」と言ってくれる子も意外と多いんです。お子さんの不安を取り除き、心の準備をしてもらうことが必要なんですね。
患者さんと接する際に心がけていることを教えてください。
先入観を持たずに丁寧に診察することです。例えば、不安や抑うつ症状、不眠など、不適応の症状が現れたとき、本人の性格的な問題なのか、特性の問題なのか、それとも家族や人間関係の問題なのか、さまざまな可能性を考え、丹念に診ていきます。「家族の問題に違いない」と決めつけたり、特性の問題だと早合点したりすると、本質を見逃してしまうことがあるので、注意が必要です。経過を見ながら、さまざまな可能性を検討していくと、最終的に見えなかったことが見えてくるんです。
多業種によるサポート体制を構築したい
新型コロナウイルス感染症流行がメンタルヘルスに与えた影響についてお聞かせください。
これまでに経験したことのない状況でしたから、社会全般に多大な影響を及ぼしましたが、緊急事態宣言で学校に行けず、家にこもりがちの生活は子どもたちにとって大きなストレスになりました。それまで、子どものストレスというと、家庭の問題よりも、学校での人間関係などの対外的なものが可視化されやすかったのですが、新型コロナウイルス感染症流行下では外での対人関係が制限される一方、親御さんも在宅勤務になるなど、家族との関係がより密接なものになりました。その結果、家族が抱える葛藤や問題が浮き彫りになったり、息苦しさを感じたりして、ストレス反応が引き起こされたんですね。その一方で、感染症流行下で進められたリモート学習が、新型コロナウイルス感染症の収束後も不登校の子どもたちの在宅学習に活用できないか、というように、新たな支援や教育環境について考える機運にもなったと思います。
今後の展望をお聞かせください。
クリニックが起点となって、大学病院や行政、支援機関、教育機関などと連携を構築し、患者さんをサポートする活動を展開したいと考えています。それぞれが個別に対応していては、ニーズに応えられません。互いにうまく役割分担しながら、診断、治療、療養、心理的ケア、長期的なフォローなど、継続的に多角的に支援していきたいです。それから、子どもや思春期、青年期の患者さんのケアをしやすい環境づくりや、発達障害などの理解を促す啓発活動に取り組み、後輩の精神科の先生方とともに頑張っていきたいですね。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
多様化が叫ばれながらも、周囲と同じでいることが求められたり、SNSやAIなどテクノロジーの進歩により、かつてはなかったようなストレスが生まれたり、現代社会は子どもも大人もさまざまなストレスにさらされています。ストレスが多い時代だからこそ、心のケアは大切です。体のかかりつけ医を持つように、家族の誰かが心のバランスを崩したら相談できる、心のかかりつけ医も持ってほしいと思います。当院でも、一人でも多くの家族のサポートができるように頑張ります。どうぞ一人で苦しまず、まずはご相談ください。