横林 賢一 院長の独自取材記事
ほーむけあクリニック
(広島市中区/南区役所前駅)
最終更新日:2024/11/29

南区役所前駅から徒歩7分の国道2号沿いに立つ「ほーむけあクリニック」。患者だけでなく地域の人が自由に利用できるコミュニティースペースを備えるなど、良い意味で医療機関らしくないクリニックだ。院長の横林賢一先生は、年齢や病気を問わず家族を丸ごと診る「家庭医療」のスペシャリストである。「患者さんの『心の笑顔』を実現することを特に重視し、そのために何ができるかを考えて日々診療にあたっています」と優しく語る。診療の際には、ただ病気を診るだけでなく、一人ひとりの生活まで踏まえてこまやかにサポートしている。また、人と人のつながりを重要視する「社会的処方」の考えを特に大切にする。温かで気さくな横林院長に、専門とする家庭医療やクリニックの特徴について詳しく話を聞いた。
(取材日2024年7月26日)
家族を丸ごと診る「家庭医療」を専門に幅広く診療する
良い意味で医療機関らしくないクリニックですね。

当院は「家庭医療」を専門に、地域の方々の健康をサポートすることをめざしています。赤ちゃんから高齢者まで幅広い年代の方のさまざまな相談に乗り、家族を丸ごと診るのが、家庭医療を専門とする医師の役割です。アメリカの家庭医療の医師のキャッチフレーズは「あなたの専門医」なのですが、これは何でも診るという意味ではなく、どんな相談にも乗るということです。専門的な治療が必要な場合は他の病院を紹介しますが、他院で治療をしていても引き続き相談に乗ります。また、病気を診るだけではなく、幅広い医療・介護サービスや社会的なつながりを提供しています。クリニック内のコミュニティースペース「Jaroカフェ」でイベントを開催したり、クリニックにキッチンカーを呼んで地域の人たちに憩いの時間をつくる活動も家庭医療の一部なんです。
なぜ先生は家庭医療を専門にされたのですか?
医師の道をめざしたのは、さまざまな人の人生に関わる仕事がしたかったからです。そのため、医師になるなら地域の方々に寄り添う「町医者」になりたいと思っていました。医学部を卒業後、勤めていた地域の中核病院に、家庭医療を専門とするアメリカの先生が講演にいらしたんです。先生の話を聞いて、初めて自分が取り組みたい医療に「家庭医療」という名前がついていることを知りました。家庭医療の「年齢や病気、臓器を問わず診療する」「病気だけでなく患者さんの生活まで丸ごと診る」といった点が私に合っていました。例えば、ご高齢の方が腰が痛い場合、お仏壇のお参りなど普段の生活にも支障を来します。家庭医療では、ただ痛みを診るだけでなく、生活にどう影響するかまで考えてサポートする必要があります。そうした患者さんとの向き合い方に感銘を受けました。
家庭医療の分野で多くの経験を積まれているのですね。

家庭医療を専門とするために国内外で学びました。東京で家庭医療を専門とする医師を養成するプログラムがスタートした際には、上京しトレーニングを受けました。また、1ヵ月ほどアメリカに渡り、家庭医療を学んだ経験もあります。その後、2010年に母校の広島大学に戻り、家庭医療を学ぶプログラムを立ち上げ、責任者として指導にあたりました。ここ広島で家庭医療を広めていくためには、医学生が必ず通る大学病院に家庭医療の教育体制をつくり、まずは医学生に知ってもらうことが大切だと考えたんです。現在も、大学で指導にあたるとともに、当院でも医学生を受け入れています。
人と人のつながりを重んじる「社会的処方」でサポート
院内にコミュニティースペース「Jaroカフェ」を作ったのはなぜでしょうか。

「人は人とのつながりを持つことで健康で笑顔になれる」と考え、大学勤務時代に医学生とともに、医療者と地域の方々が交流する団体を立ち上げたことがきっかけです。その後、自信をもって“つながり”を提供し続けていきたいという思いを深め、開業前に米国ハーバード大学公衆衛生大学院(HSPH)に研究員として留学。ソーシャルキャピタルや行動経済学を専門とする医師のもとで学ぶ中、人とつながることが社会格差の影響を和らげ、健康的な生活を支える大切な要素であることを確信しました。クリニック開業に伴い、「Jaroカフェ」と名づけた常設のコミュニティースペースを開設。地域の皆さまが気軽に集い、交流できるよう、無料健康相談を行う「まちの保健室」のほか、「認知症カフェ」「子ども食堂」「離乳食教室」などを開催し、憩いの場としてお役に立てることをめざしています。
リンクワーカーという職種の方も活躍されているそうですね。
イギリスでは数多くのリンクワーカーが活躍していますが、日本ではまだ珍しいかもしれません。「リンク」には「つなぐ」という意味があります。ですから「リンクワーカー」は「つなぎ人」になり、「人と人」「人と何か」をつなぐことを専門にしています。薬を処方するのではなく、社会資源を提供する「社会的処方」という考え方に関連した職種ですね。例えば、産後うつに悩むお母さんに、離乳食教室やベビーマッサージ教室を案内するのも社会的処方の一つです。そこで他のお母さんたちとつながることが、悩みの解消につながることもあるんです。そのため、当院ではリンクワーカーによる患者さんへのケアを積極的に導入しています。
他にも、広めのキッズスペースや多数の診察室など設備にこだわっていらっしゃいますね。

楽しく遊ぶことはもちろん、お子さんもしっかり診療していることを肌で感じていただきたいと思い、広めのキッズスペースを設置。また、当院では6つの診察室を設けています。従来とは異なり、診察室で患者さんにお待ちいただき、医師や看護師が各部屋に行くスタイルを採用しているためです。アメリカで家庭医療のクリニックを実際に見てきたのですが、これが標準スタイルでした。個室なので、小さいお子さんや認知症の方など待合室で待つのが難しい患者さんやご家族も安心していただけると思います。さらに、事前に看護師が話を聞けるため、医師は患者さんの表情をしっかり見て診療できる、感染症対策になるなど、多くのメリットがありますね。
めざすのは、一人ひとりの「心の笑顔」を実現すること
訪問診療の「ねがいのオーダーメイド」についても教えてください。

重い病気や障害ゆえに在宅療養されている患者さんも、「旅行したい」「孫の結婚式に参加したい」「家族とレストランに行きたい」といった願いを持っていらっしゃいます。しかし、口に出してはいけないと我慢している場合もあります。病気の有無や年齢に関わらず、「楽しい」という感情に変わりはありません。そこで、どんな状況でも患者さんの願いを応援したいと思い、「ねがいのオーダーメイド」というサービスを始めました。これまで外出が困難な患者さんの「京都にお芝居を見に行きたい」「居酒屋に行きたい」といった希望に応じてきました。看護師やリハビリテーションスタッフなどが連携して、皆さんの願いをかなえるためのお手伝いをしています。
一人ひとりに徹底的に寄り添われているのですね。
「いつのまにか笑顔、いつのまにか健康」が、当院のモットーです。それを実現するために、「10%にコミットする」ことを大切にしています。10%とは社会的少数者のことで、障害や病気がある方、子育て中の親御さん、介護をしている方、不登校のお子さん、1人で食事するお子さんなどが含まれています。そうした方々に、病気の有無に関わらず、心地良い状態になっていただくことが私たちの願いです。また、当院は入院病床も備え、介護者に休息を取っていただくためのレスパイト入院にも対応しています。設備の整った個室が中心ですので、安心してご利用いただけると思います。
最後に、先生が特に大切にしていることをお聞かせください。

特に大切にしているのは、患者さんの心を笑顔にすることです。当院の理念は「地域の皆さんの笑顔を健康面からサポートする」ですが、私が考えているのは、表面上の笑顔ではなく、心の笑顔です。それを実現することを特に重視し、そのために何ができるかを考えて日々診療にあたっています。とはいえ、あくまでも主人公は患者さんです。医療従事者の役割は大きい場合もあれば小さい場合もありますが、患者さんと一緒に歩んでいく、いわば健康という作品をともにつくり上げるというイメージで診療にあたっています。もちろん、スタッフ全員同じ気持ちで、患者さんの笑顔をつくれるようサポートしています。笑顔を増やしていく積み重ねで、この街を元気にしていくことにつながればうれしいですね。