川西 輝明 院長の独自取材記事
肝臓クリニック札幌
(札幌市中央区/桑園駅)
最終更新日:2025/06/13

桑園駅から徒歩1分の「肝臓クリニック札幌」は、札幌でも数少ない肝臓専門のクリニックとして、精密な検査や良質な治療を提供している。肝臓病は自覚症状に乏しく、気づかぬうちに肝硬変や肝臓がんへ進行するリスクも高い。勤務医時代に診てきた多くの患者とその家族の悲しみの姿から「もうあの光景を繰り返したくない」と、院長の川西輝明先生はライフワークとして診療の合間に道内巡回肝臓がん検診を続けている。また、自身が25kgの減量に成功した経験をもとにしたユーモアを交えた栄養指導など、患者に親身に寄り添う姿も印象的だ。そんな川西院長に、じっくりと話を聞いた。
(取材日2025年4月22日)
肝臓は知らぬ間に病気が進行しかねない「沈黙の臓器」
医師になろうと思ったきっかけを教えてください。

医師を志したのは小学5年生の時。療養中だった親族のお見舞いがきっかけでした。「お医者さんになるのがいいんじゃないか」と言われ、過疎地で医師が足りない現状を聞き、子どもながらに「そういう人たちを助けたい」と熱い思いが湧き上がりました。大学卒業後、地域医療に力を注いでいる勤医協の病院で経験を積みました。配属された肝臓専門の病棟で、多くの患者さんが亡くなることに衝撃を受け、「肝臓病はこんなに悲惨な病気なのか」と初めて肝臓の体への影響の大きさを実感しました。しかし、肝臓領域は専門の医師も少なく人手不足だと知り、「これが私の担うべき使命かもしれない」と強く感じました。
肝臓にはどんな病気があるのでしょうか?
肝臓の病気には、肝炎、肝硬変、肝臓がん、脂肪肝などがあります。B型肝炎、C型肝炎、自己免疫性肝炎など慢性疾患がある場合、肝炎から肝硬変、肝臓がんへと進行していくため、患者さんとは10年、20年と家族のような長いお付き合いになります。B型C型のウイルス性肝炎には、以前は有用な薬も少なく、病気の進行を遅らせることしかできませんでした。現在では原因となるウイルスを抑えるための薬が出てくるなど、医師としてもずいぶん希望が持てるようになりました。肝臓は、代謝、解毒、栄養貯蔵など重要な機能を持っています。しかし「沈黙の臓器」と言われるように、気づかぬうちに病状が悪化してしまう臓器でもあります。こちらにいらっしゃる患者さんも、自覚症状はないけれど健康診断で肝臓関連の数値が悪いと指摘された方が大半です。早期発見・継続的な検査の重要性を、日々感じています。
肝臓検査はどのようなことをするのでしょうか?

まず問診と採血を行い、おなかの超音波検査の結果をもとに今後の治療方針や生活上の注意点について、患者さんと一緒に相談を行います。がんが見つかれば速やかに連携先の病院へ紹介しますし、外来通院が可能な肝臓病であれば当院での治療を行います。その中で必要が生じれば専門機関なども紹介します。初期の脂肪肝でも放置すると肝硬変や肝臓がんへ進行する可能性もあり、脂肪肝の初期の段階での予防的な介入がとても重要です。また、慢性肝疾患の場合は最低でも年2回の検査をお勧めしています。肝臓がんは若い患者さんが多いのも特徴です。勤務医時代には、患者さんの枕元で小さな子どもが「パパ死なないで」と泣いている姿や、患者さんの家族が涙をとめどなく流す姿を何度も見てきました。もうあのような光景は見たくない。その一心で、へき地を含めた北海道内を巡回し、肝臓がんの早期発見や予防につながるよう検診活動をライフワークとして続けています。
巡回肝臓がん検診で、へき地の患者にも検診の機会を
巡回肝臓がん検診は、医師の少ない地域ではとてもありがたいことですね。

体力的には大変ですが、肝臓がんや膵がんの早期発見にもつながる可能性があり、「来てくれて良かった」と喜んでいただけるのが何よりの励みです。月に1回、金曜の午後から出発して、土日を使って道内の各地を巡回しています。機材を車に積み、公民館や保健センターなどで検査設備を設置して検査します。利用者からの検診費用や支援してくれる方々からの会費や寄付で賄われ、患者さんの経済的負担にも配慮しています。スタッフも「肝臓がん検診に携わりたい」と集まった仲間ばかりで心強いですね。
こちらのクリニックの患者さんに多い疾患や、治療の特徴を教えてください。
本院では肝臓疾患を中心に消化器や内科全般も診療していますが、最も多い疾患は「脂肪肝」です。脂肪肝とは、肝細胞の中に脂肪が過剰にたまった状態のことを指します。肝臓は本来、食べ物から摂取した栄養を脂肪に変えて貯蔵する役割を持っていますが、摂取した栄養が過剰になると、どんどん脂肪が蓄積されてしまいます。脂質だけでなく、炭水化物やタンパク質も取りすぎれば脂肪に変わるため、何でも食べすぎれば脂肪肝の原因になるといえます。放っておくと脂肪肝は肝炎や肝硬変へと進行することもあります。薬による治療もありますが、当院ではまず生活改善を重視し、3ヵ月から6ヵ月ほどの食事へのアプローチをお勧めします。実は私自身も体重に悩み、試行錯誤の末に25kgの減量に成功した経験があります。だからこそ、患者さんにも現実的なアドバイスができているのかも知れません。「一緒に頑張りましょうね」と、寄り添える診療を大切にしています。
25kgの減量成功はすごいですね!

一時期、体重が128kgになったことがありました。身長も高く、学生時代は柔道をしていたので「大きいほうが強い」と思い込み、体重を増やすことに抵抗がなかったんです。でも、心房細動や痛風といった体の不調が出始めて「これはまずい」と減量を決意し、3年かけて25kg減らすことに成功しました。成功の秘訣は、食事の改善です。鍋物を中心に、野菜・肉・魚をバランス良くたっぷり食べました。そして、ご飯やパンなどの炭水化物を減らし、鶏胸肉や卵を主食代わりにするようにもしたんです。今も卵2個を主食にする食事は続けていて、カレーにもご飯を入れず卵の上に乗せて食べたりしています。食事回数自体を減らして1日1食、夜だけ食べる時期もありますが、すべて体調を見ながら調整しています。減量には向き不向きがありますし、極端になると逆に体を壊すこともありますので、一度お気軽にご相談ください。
丁寧な食事指導で、健康へ導く
患者さんの食事の指導は具体的にどんなことをするのでしょうか?

肝臓を守るためには薬よりもまず食事ということで、食事の大切さを初めに説明します。次に実際の食事内容ですが、患者さんに卵が食べられるかどうかをお聞きしています。卵アレルギーの方や苦手な方もいますからね。問題なければ、主食のご飯、パン、麺類などを1日1回以上、卵2個に置き換える食事を試してもらっています。主食の炭水化物は糖質として脂肪に変わりやすいためです。卵が苦手な方は、具だくさんのおみそ汁やおかずなどを主食の代用とするようアドバイスします。しかし、食事の改善の目的は体重や脂肪を落とすことではありません。肝臓の細胞をつくり直すことが目的です。体重減少に伴って細胞がより元気なものに替わっていくことが期待できます。それにより倦怠感や不眠、かゆみといったさまざまな症状からの解放が望める方もいるんですよ。
痩せるために運動を行う人も多いでしょうね。
運動が体に良いことは間違いないのですが、運動は「カロリー消費」を目的とするより、「筋肉を増やして肝臓を助ける」ために取り組む考え方のほうがいいと私は思います。筋肉には脂肪の前段階でもある糖質を、一時的にため込む働きがあります。筋肉量が多ければ、食べすぎてもまず筋肉に糖分が回るため、肝臓の負担が減ります。つまり、筋肉量が少ないと糖分がダイレクトに肝臓に行ってしまうんですね。その結果、脂肪肝が悪化してしまうことも考えられます。運動をすると「頑張ったから、ちょっとくらい食べてもいいよね」と思いがちですが、実はそれが太るきっかけにもなり得ます。だから「運動をすると痩せる」と思わず、「筋肉を育てることで肝臓を守るために運動を続ける」という意識づけが大切でしょう。
最後に読者へのメッセージをお願いします。

ライフワークの巡回肝臓がん検診活動などを通じて、今後もいろいろな人に自分の思いを伝えていきたいです。すべての人が元気で長生きできて、笑顔と感動にあふれる世の中になってほしいという願いを、皆さんと共有していきたいです。どんな些細なことでも遠慮なくご相談ください。元気で長生きするために当院をご活用いただければうれしいです。