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家田 秀明 院長の独自取材記事

みずほ在宅支援クリニック

(名古屋市瑞穂区/瑞穂運動場西駅)

最終更新日:2021/10/12

家田秀明院長 みずほ在宅支援クリニック main

瑞穂運動場西にある「みずほ在宅支援クリニック」は2017年、家田秀明院長が開業した。在宅訪問診療を基軸とし、看護師とともに訪問するのは重症度の高い患者がほとんどで、終末期のがん患者の看取りまでを行う。また、緩和ケアやがん相談支援では、患者と介護に関わる全員が納得し、安らかな死を迎えるための援助に力を注ぐ。「地域の在宅ケアのボトムアップを図っていき、自宅や施設どこにいても病院と同レベルの医療を提供することが課題」と話す家田院長から在宅医療への思いを聞いた。

(取材日2019年5月30日)

在宅訪問診療を柱に緩和ケア、がん相談支援に力を注ぐ

クリニックの特徴を教えてください。

家田秀明院長 みずほ在宅支援クリニック1

在宅訪問診療が当クリニックの専門です。重症度の高い方を中心に診ていますので、がん患者の方が全体の3割ほど、慢性疾患、神経難病などの方を合わせると7~8割が症状の重い方となっています。在宅訪問が専門と言っても、施設を順番にまわるのではなくて、患者さんの自宅や入居されている施設に関わらず、重症度の高い方を優先に診ていくというスタイルです。瑞穂区、熱田区を中心に活動しており、その中で、多くの患者さんの看取りにも携わっています。

開業に至った経緯について教えてください。

名古屋掖済会病院に勤務をしていた頃、終末期がん患者さんの緩和ケア病棟の開設に関わり、緩和ケアを20年以上やってきました。最近は、長期入院よりも1~2ヵ月で在宅復帰をめざすという流れがあり、入院しながら治療していた方が、退院されると治療がとぎれとぎれになってしまい落ち着いて診療することが難しくなってきています。それで、自力で病院に通うことが難しい患者さんには、開業医の先生に在宅診療を依頼するのですが、痛みの緩和に必要な麻薬取扱者免許を持っていないなど、末期がんの痛みのコントロールが難しいのもあり、なかなかやっていただける先生が少なかったんです。困ったなあと思っていた時に、それなら自分が在宅医療を受ける側にまわろうかと考え、開業に至りました。

開業にはどんな思いがありましたか?

家田秀明院長 みずほ在宅支援クリニック2

開業前の7年間、寝たきりの母を看病しながら勤務していました。おむつ替えや体位変換、食事の世話などを自分でやっていましたので、母の看病と看取りの中で多くのことを学びました。もう1つは、父が心筋梗塞で亡くなったんですが、亡くなる前には延命措置や病院での治療をしないでという要望を聞いていました。私もそれに同意していながら、苦しがっている姿を見て入院をさせたんです。延命措置が施され苦しい状況で亡くなっていった父に対し、希望をかなえてあげられなかった、悪いことをしてしまったと後悔しました。またその時、母も父の最期を看取りたかったのに、母は動けず父の最後を看取ることができなくて、ずっと母から責められていたんですね。そんな両親との経験が在宅医療を始めるにあたって非常に生かされています。赤ちゃんが生まれてくるのと同じように、看取りは濃厚なとても大事な時間だと思います。

患者と介護に関わる皆が納得し、過ごす看取りの時間

看取り医療で大事にされていることは何でしょうか?

家田秀明院長 みずほ在宅支援クリニック3

ご本人の意志をできるだけ尊重するということです。よくあるのは医師は満足だが患者さんが満足していない治療。医師がこうしたほうがいいと思っていても患者さんが治療を拒否されていて、うまく症状を取り切れなくて悪化してしまうこともありますから。ですので、話し合いをした上でその人にとって、本当にいい展開をしていくにはどうしたらいいかを常に考えています。ご本人、ご家族、ご友人、医療者、福祉のヘルパーさんも含めて、介護に関わっている全員が納得し、生きていてよかった、これで死を迎えてもいいと思えるような満足感を得られる方向性を見つけていくということを大切にしています。そんなACP(アドバンス・ケア・プランニング)を立てていくことが「緩和ケア」なんです。

緩和ケアに注目されたきっかけを教えてください。

私は消化器内科を専門に選びましたが、研修医の時に膵臓がんの末期の方の治療に関わったのがきっかけです。当時は膵臓の治療法がほとんどなく、ベッドサイドでその患者さんを見ながら何もしてあげられない状況だったんですね。痛みを和らげるモルヒネ剤は最終的な鎮静目的で使うという認識があり、控えられていました。膵臓がんの患者さんの苦しみを何とかしないといけないと感じ、それから名古屋大学の膵臓グループに入り勉強しました。後に消化器の治療をしながら研究よりも臨床がやりたかったので名古屋掖済会病院に移ったんですが、最初の当直の時に肺がんの呼吸困難で亡くなられる方の担当になり、患者さんのご家族を呼んだ際に、泣きながら何とかしてくださいと言われても何もできない自分がいて……。緩和ケアの重要性に気づき、終末期のがん患者さんの呼吸困難やがん疼痛など基本的な苦しみをまず取ることから力を注いでいきました。

終末期がん患者さんへの相談支援も行っているそうですね。

家田秀明院長 みずほ在宅支援クリニック4

終末期に差しかかってきたときに、痛みを取るだけでなく心のケアまで行うことが大切です。そのため、ご本人を含めご家族の相談にも乗っています。また、薬で痛みや苦しみが楽になってくると、取り切れない根幹にあるものが患者さんから出てきます。それがスピリチュアルペインといって、その人を形づくっているものが揺るがされるような痛みを指します。顕在意識では語りきれない奥にある悩みや表面に出ないことまでも早く知って、内面のケアをしていく必要があります。そのアプローチの一つとして、カウンセリングや催眠療法を活用し、死への恐れや不安をどうやって解消していくかに取り組んでいきます。納得し、いい意味での諦めを得ていただいて、残りの時間を有意義に過ごす方法に切り替えていき、魂の安永を願うことが緩和ケアへのポリシーでもあるんです。

勉強会を開催し地域の在宅医療のボトムアップをめざす

ケアに関わる医療従事者向けにも活動されているそうですね。

家田秀明院長 みずほ在宅支援クリニック5

地域貢献の一つとして、「メディカルカフェ」を月に1回企画しています。これは、医療者に向けて、緩和ケアのノウハウや在宅医療のテクニック、今後の在宅医療の展開などの講演をし、地域の在宅医療のボトムアップを図っていく勉強会です。医師会の地域包括ケアを推進してくださっている事務スタッフの方や、訪問看護ステーションの所長さんなど、地域の中でキーマンとなるような方が参加してくださいます。講師は、私も年に1~2回はしますが、この前は地域で頑張っている薬剤師の先生にお話をしていただきました。緩和ケア病棟に勤務していた頃、在宅診療を患者さんにご紹介する時、どうしても医療の質が下がってしまうことを危惧した経験があります。在宅ケアを受ける患者さんには、病院と同じような状況を維持していただく必要があるし、病院以上に在宅訪問ケアが充実できるようにすることが大事だと思っています。

在宅ケアの質を上げるために、めざしていることは何ですか?

まずは、病院や在宅ケアの多職種チーム、ご家族との連携です。点滴にしても私がするのでなく、訪問看護師にお願いしたり、ご家族に点滴の介助をしていただけるよう医療技術を提供して、ご家族がサポートできる体制をつくることもボトムアップになると思います。今、名古屋市では、独りもしくは高齢者夫婦だけという世帯が6割ほどと聞きます。その中でがん患者さんを家庭で受け入れていくのはなかなか難しく、施設での医療が増える一方です。施設での医療や看取りは、家族との関わりが少なくなりご本人が孤立化するなどケアの質が下がってしまうケースもあります。施設に訪問する私たち医師や看護師ができるだけ社会の風を通すような形で、閉鎖的になっている雰囲気を払拭し、病院と同じような医療を提供することをめざしています。

今後の展望を教えてください。

家田秀明院長 みずほ在宅支援クリニック6

在宅医療は、地域に浸透してきていると感じます。ただ、ご家族にとって介護は大変なことですし、居住環境が十分でないところでは、どうしても施設に預ける必要がある場合もあります。療養場所が施設になったとしても質をいかに担保できるかというのがこれからの課題だと考えます。自宅でも施設でもどこにいても質の高い在宅医療と緩和ケアを展開したいですから。得てして、ご本人、医師、家族それぞれの満足だけに限られてしまうと、誰かが不満足を感じてしまいますので、ACPをしっかり立て、関わっているみんなが納得できるような医療を行っていきたいと思います。

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