適切な診断と適度な運動で
耳のめまいの克服・予防をめざす
船曳耳鼻咽喉科・めまいクリニック
(神戸市灘区/六甲道駅)
最終更新日:2025/01/09


- 保険診療
本人は症状を感じていても、なかなか周りの人に理解してもらえないことの多い「めまい」。実は一言でめまいと言っても、その種類や原因はさまざま。耳の病気によるものか、脳の病気によるものか、それ以外の全身疾患が関係しているのか、正確な診断をつけることが重要である。今回話をしてくれたのは、長年めまいを専門的に診療してきた「船曳耳鼻咽喉科・めまいクリニック」の船曳和雄院長。めまいの原因の6~7割を占めるというBPPV(良性発作性頭位めまい症)では、眼球の動きを見て三半規管に迷いこんだ耳石(じせき)を元の位置に戻す方法でめまいの解消をめざす治療を得意とし、めまいで苦しむ多くの患者に救いの手を差し伸べてきた。BPPVやメニエール病の診断・治療・予防についてさらに詳しく聞いた。
(取材日2022年1月6日)
目次
若い女性に多いめまい。大半は体のバランスを保つ三半規管の異常が原因。適切な診断が改善への近道
- Qめまいにはどのような種類がありますか?
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A
▲めまいの原因が耳の異常かどうかを聴力検査で調べる
大きく分けて3種類あります。1つは「回転性のめまい」で、自分自身や自分の周りがぐるぐる回っているような感覚が生じます。吐き気や嘔吐などのほかに、耳が聞こえづらくなるといった症状が出ることもあり、こうした回転性のめまいは耳の異常によって起こりやすいとされています。2つ目は「浮動性のめまい」。体がふわふわした感じでふらつく、まっすぐ歩けないといった感覚のめまいです。頭痛やしびれ、運動麻痺などの神経性の症状が現れることもあり、脳の病気が疑われます。3つ目は「立ちくらみのようなめまい」。目の前が真っ暗になる、血の気が引いていくようなめまいで、血圧の変動に関係する全身性の疾患が原因として考えられます。
- Qめまいはなぜ、どのような原因で起こるのでしょうか?
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A
▲ゴーグルで視覚情報を遮断した状態で目の動きを観察・解析する
特に多いBPPV(良性発作性頭位めまい症)は、耳石器から剥がれ落ちた耳石(炭酸カルシウムの粉)が三半規管の中に入り込み、それが動くことで平衡感覚が乱されてめまいが起こります。耳石は寝ている間に三半規管のほうへ移動しやすく、朝起きたときや頭を動かしたときにめまいが起こるのが特徴です。続いて多いメニエール病は、内耳を満たしている内リンパ液が過剰になることでめまいが起こり、耳鳴りや難聴を伴うこともあります。これは、ストレスに起因すると考えられています。ほかにも片頭痛に関連しためまいや、肩凝り、前庭神経炎などさまざまな原因が考えられ、脳梗塞や脳卒中など脳の異常に起因する場合もあります。
- Q診断はどのように行いますか?
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A
▲どこに原因があるのかをわかりやすく説明
問診では「いつ何をしていた時に、どんなめまいが起こり、その後どのような経過をたどったのか」を伺い、どのようなめまいか正確に把握します。BPPVなのか、それともメニエール病や脳の病気なのか鑑別するため、最近ストレスを抱えるような出来事がなかったか、頭痛や手足のしびれの症状がないかなども確認します。検査は一般的な聴力検査に加え、頭位眼振検査を行います。これは赤外線カメラがついたゴーグルのような装置を10分ほどつけて、頭がどの位置に傾いたときに眼振と呼ばれる異常な目の動きが現れるか、を調べる検査です。進歩した機器の導入により目の動きを瞬時にデータ化することで、従来よりも精密な診断が可能となりました。
- Q診断された場合の治療方法を教えてください。
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A
▲精密な中耳・内耳形態の評価が可能な頭部用エックス線CT装置
BPPVの場合は、めまいの最中の眼球の動きを観察し、三半規管のどこに耳石が迷い込んでいるかを判定。三半規管の構造をイメージしながら、耳石を元の耳石器に戻すため理学療法を行います。通常、剥がれ落ちた耳石はもともと耳石の入っていた耳石器の周辺に存在する暗細胞によって自然に吸収されますが、低い枕の使用や、同じ姿勢での長時間作業により、重力で耳石が三半規管のほうへ移動し塊になりやすくなります。枕を高くする、朝起きた時に左右に寝返り運動をする、長時間の作業時は定期的に体を動かすことが予防につながります。一方メニエール病の治療では、睡眠・飲水・運動の3つを意識し、生活習慣を見直すことが、改善への近道です。
- Qめまいを予防する方法はありますか?
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A
▲長年めまいについて熱心に研究・治療を行ってきた船曳院長
BPPVやメニエール病など、耳が原因で起こるめまいの大半は、安静に過ごすよりも積極的に体を動かすことが予防や再発防止につながります。人間の体は耳や目がセンサーとなり、筋肉の動きとともにすべての情報を脳で集めて、バランスが保たれています。大まかな動きは主に耳の三半規管が、細かい動きは目が察知しますが、それぞれの守備範囲は重なり合っており、柔軟な働きをします。例えば、片方の耳が悪くなってももう一方の耳や目が補い、本来とは違う形で集まってきた情報も脳がうまく調整して、体のバランスが図られます。ですから、じっとしているよりも動けば動くほど、脳の調節機能が促進され、リハビリテーションにつながるのです。