放生 勲 院長の独自取材記事
こまえクリニック
(狛江市/狛江駅)
最終更新日:2022/04/01
東京都狛江市、小田急線や南武線沿線のみにとどまらず、幅広い地域で不妊に悩む人に寄り添ったサポートをしているのが、放生勲(ほうじょう・いさお)院長の「こまえクリニック」だ。放生院長は、1999年5月の開院翌年より、内科の医師としての診療も続けながら数多くの不妊に悩む女性たちと向き合い、妊娠のサポートをしてきた。最大の特徴は「自然な妊娠を引き出すためのフォローアップ」を主軸としていること。赤ちゃんを望みながらなかなかできずに「不妊治療」へと足を踏み入れ、そのまま迷子になってしまった人に、不妊治療は妊娠のための選択肢の一つに過ぎないことを伝え続けてきた。人工授精、体外受精まで進みながら妊娠できずにいた人の相談・フォローアップを行っているという放生院長に、同院の診療について詳しく聞いた。
(取材日2022年3月16日)
自身の経験をきっかけに、不妊に悩む人と向き合う
まずは、先生が不妊に悩む方と向き合い始めた理由から教えてください。
そもそもの始まりは、私自身が夫婦で不妊治療を受けていた際の「違和感」の記憶です。当時の産婦人科の待合室には、妊婦さんと不妊に悩む人が一緒に詰め込まれていて、幸せと悲しみが混在している感覚でした。そして、私たちをはじめとした不妊の患者を包む空気はどんよりとよどんで、ほとんど動いていないように感じたのです。不安、焦り、プレッシャー……。そんなたくさんのストレスを抱えながら臨む不妊治療とは、いったい何だろうと考えました。不妊治療が不妊の患者の視野を狭め、不妊の状態をかえって悪化させる、いわば「不妊治療不妊」ともいうべき状態があるのではないか……。こうした思いを端緒として、一人でも多くの人の助けになれたらと、クリニックのホームページに「不妊でお悩みの方へ」の一ページを載せたのです。これが原点でした。
その後、不妊相談専用のサイトも立ち上げられたのですね。
ホームページを見て、一人の女性が「人工授精まで受けたけど、妊娠に至らなかった」と連絡をくれました。話を聞いているうちに、その方が言ったのです。「人工授精をもう一度受ける勇気が出ない」と。それで、通院していただくようにしました。現在、当院では基礎体温表を見てアドバイスを行い、自然妊娠に導くという方法を主軸に置いています。人工授精まで進んでいた方でも、こうしたやり方で妊娠をめざせるのです。この方との出会いが、私が不妊に悩む方の相談相手としての立ち位置から一歩進んで、積極的な治療へと足を踏み入れるきっかけになりました。そこで、不妊治療に携わってこられた看護師さんやドクターにアドバイスをいただきながら、カウンセリングのサイトとして「不妊ルーム」を立ち上げたのです。
やはり、不妊治療で結果が出ない方からの相談が多いのでしょうか。
何らかの不妊治療を続けているけれども良い結果が出ずに疲れてしまった方、自然妊娠で今のところ授かっていないが不妊治療に踏み出す勇気はない方からの相談が多いですね。これまで数多くの女性たちと向き合う中で気づいたのは、相談に来る方のほとんどは悩みに悩みぬいた結果、ラビリンスに迷い込んで抜け出せなくなっているということ。当院の役割は、そうした皆さんが迷宮から抜け出し、次の一歩を踏み出すためのベースキャンプなのではないかと思っています。「気持ちが楽になった」「展望が開けた」と感じていただけることがカウンセリングのゴールと考えています。
オリジナルの基礎体温表とメソッドで妊娠のサポートを
具体的には、どのように治療を進めていくのでしょう。
当院においての三種の神器は、「基礎体温表」「婦人体温計」「排卵日検査薬」。そして、漢方薬を積極的に使うところに特徴があります。中でも重要なのは、基礎体温表です。「基礎体温表をつけていますか」と聞くと、ほとんどの方が「つけています」とおっしゃると思いますが、実際にはつけることだけが目的になっているケースが少なくありません。基礎体温表は、気軽な気持ちでつけて、活用することが大切。当院では、4ヵ月分の月経、性交、薬の服用履歴、受診履歴を1枚で確認できるオリジナルの基礎体温表を作成し、記入していただくようにしています。基礎体温表をきちんとつけると、夫婦の状態、卵巣の状態が「見える化」され、治療や指導の成果がはっきりわかります。このデータと、排卵日検査薬で予測した排卵日を参考にして性交の機会を増やしていただくことで、妊娠へと近づけていきます。
漢方薬は、どのような役割を担うのですか。
漢方薬には大学時代から興味があり、研究を続けてきました。東洋医学では病気を体の「ゆがみ」ととらえ、そのゆがみを正すために漢方を用います。不妊症は、西洋医学でいうエビデンスが少ない領域ですから、体のゆがみを正してコンディションを整えていくのに適していると私は考えています。これまでの経験上、黄体機能不全の人や、排卵障害が疑われるケースには、漢方が適していることがわかりました。漢方薬の処方と、タイミングの指導だけで十分なケースも多くあります。ただし、薬である以上は副作用が出る場合があり、すべての人に有用というわけではないため、医師の指導に基づいて服用してください。当院では、健康保険適用の漢方薬を処方しますので、経済的な負担も軽減できます。
体の状態を漢方で調整していきつつ、ツールを活用するということですね。
近年は結婚年齢の上昇とともに妊活を始める年齢も上がり、これまでの手法だけではカバーしきれないケースも出てきました。そこで新たに3つの要素に着目しています。1つ目は、亜鉛と銅のバランス。低亜鉛血症の方には亜鉛製剤の処方を行い、卵子の成熟に欠かせない亜鉛と銅のバランスを整え、妊娠につながりやすい状態へと導いていきます。2つ目は、甲状腺ホルモン。甲状腺ホルモンは元気の源ホルモンとも呼ばれ、卵巣の機能を活発化する働きがあります。3つ目は、ビタミンD。日本人にはビタミンD欠乏症の人が多いといわれるのですが、ビタミンDは生殖にとても重要なのです。この3つを当院では、卵巣のコンディショニングとして重要視しています。こうした治療のことを当院では「卵巣セラピー」と呼んでおります。
ステップアップだけが不妊治療ではない
IVF(体外受精)についてお聞かせください。
体外受精は、不妊治療の最終段階。ここまで上ってくると、「あとは頂上をめざして上りつづけるしかない」と思ってしまいがちです。ところが、体外受精をやめ、タイミング法に立ち戻ることで良い結果が望めるケースが少なからずあるのです。不妊治療はステップアップすればいいわけではなく、状況によってはステップダウンが有用なケースも多々あることを知っていただきたいのです。ステップアップしても結果につながらない、ストレスを感じる、といったときは気軽にセカンドオピニオンを求めてください。一方で、体外受精が最善の選択肢と考えられる場合もあります。体外受精は高額ですので、エントリーする前に、ぜひともご相談に来ていただきたいですね。
超音波検査にも力を入れていると伺ったのですが……。
当院には内診台はなく、排卵が近い時期に腹部超音波検査で卵胞の大きさを確かめ、性交のタイミングを指導します。内診台が苦手で受診が憂鬱な方も多いと思いますが、腹部超音波検査ならおなかの上からエコーを当てるだけですから肉体的にも精神的にもほとんど負担がありません。当院の超音波検査を担当する技師は女性で、専門性の高い技術を生かして乳がんチェックも行っています。乳がんは妊娠適齢期の女性にも多い病気。妊娠はしたものの、病気を見落としていて育児と治療を両立せざるを得なくなる方を一人でも減らすために、定期的にチェックして早期発見に努めてほしいと思っています。半年に一度、乳がんチェックを行えば早期発見の確率が高まることが望めますから、お気軽にご依頼ください。
最後に、今後の展望をお聞かせいただけますか。
不妊治療を検討している方や、不妊治療からステップダウンを望む方のためのベースキャンプとして、妊娠力を高めるお手伝いをしていきたいと思っています。卵巣の中の卵子は水槽の中の金魚のようなもの。水槽のコンディショニングを行うことによって、金魚は生き生きと泳ぐことができます。卵巣を元気にし、生活の質を高めて、神様の「贈り物」を待ちましょう。コンビニのように気軽に受診できるクリニックをめざしています。妊活・不妊カウンセリングに関心をお持ちの方は、お気軽にお越しください。