郡山 晴喜 院長の独自取材記事
ホームクリニックみまた
(北諸県郡三股町/三股駅)
最終更新日:2024/09/27
三股駅から徒歩8分の場所にある「ホームクリニックみまた」は、外来診療を行いながら訪問診療に力を入れるクリニック。もともと三股町の地域住民に長く親しまれてきた山下医院を、2016年に郡山晴喜院長が継承開業、2018年に「ホームクリニックみまた」に改称した。「山下医院は母方の実家で、夏休みのたびに遊びに来たなじみのある場所。当時は産婦人科で、私自身もそこで生まれたんですよ」と郡山院長。和やかなインタビューの中で郡山院長が何度も口にしたのは「支える」という言葉だ。自分が先頭に立つのではなく、患者さんとその家族を支え、同院のスタッフや地域の多職種を支えること。それが自身の役割だと話す。未来の地域医療を支えるために、若手の育成にも力を注ぐ郡山院長に、クリニックや在宅医療についてじっくりと話を聞いた。
(取材日2024年7月22日)
「外来+訪問診療」で患者とつながり続けるクリニック
まずはクリニックの特徴を教えてください。
もともと三股町で祖父が開業し、叔父が引き継いだ「山下医院」を、私が2016年に継承開業しました。「ホームクリニックみまた」と名前を変えて、内科、呼吸器内科の外来診療と訪問診療を行っています。午前中は外来診療、午後は訪問診療が基本で、訪問診療がかなりの割合を占めていますね。通院が難しい方のご自宅や入居されている介護施設に月1~2回訪問し、患者さんやご家族とお話をしながら診察をしたり、処方箋を出したりします。もし、発熱や痛みなどの病状の変化があった時には、お電話をいただければ臨時で往診もできます。地域の訪問看護ステーションや在宅療養支援診療所と連携し、ご自宅や介護施設での看取りにも対応しています。
どのような患者さんが多いですか?
高齢で通院が難しい方が多いですね。病院で治療を受けて退院後も医療処置が必要なケースや、介護施設への訪問診療もかなり多いです。また、普段は外来診療に通っている方が体調を崩して来られなくなった時の往診にも対応しています。さらに、ゆくゆくは訪問診療で自宅での看取りを希望しているけれども、今は元気だから外来に通院してもらっているというケースにも応じています。家族が通院に付き添うのが難しいケースも、訪問診療を取り入れることで負担を減らすことができると思います。
患者さんの状況や希望に合わせて柔軟に対応されているんですね。
ご本人やご家族がどのような医療を求めるかは人それぞれ違いますから、こちらがご希望に合わせるようにしています。これは当院が外来診療と訪問診療の両方を行っている強みだと思います。訪問診療専門のクリニックもありますが、当院はもともと地域に根差していた山下医院を継承しているので、外来診療とどちらも対応しています。地域住民の利便性という点からも、外来診療は必要だと考えています。訪問診療は三股町・都城市ほぼ全域で対応していますので、まずはお気軽にご相談ください。ケアマネジャーや入院されている病院の地域連携室から、つないでもらうこともできます。
患者と家族に寄り添い、自宅での看取りを支える
できれば自宅で看取りたいけれど不安だというご家族も多いと思います。
ご本人やご家族の不安は当然で、自宅での看取りに対するハードルは相当高いのだと感じています。そこは、まだまだ訪問診療や自宅での看取りのありようが十分に知られていないということなので、もっと広めていきたいと思っていますね。実際は自宅で点滴もできますし、胃ろうや尿管カテーテルの管理もできます。酸素療法をしている人や人工呼吸器を使っている人もいます。ご家族にお願いするケアもありますが、24時間365日、医師や訪問看護師に連絡が取れる体制が整っています。不安なことやわからないことがあれば、いつでもすぐに聞くことができますから、意外と在宅でもできることは多いですよ。もし在宅でやってみて、やっぱり無理だったというときには、病院や施設に戻るという方法もありますから、まずはご相談していただければと思います。
自宅での看取りにおいて大切にされていることは何でしょうか?
ご本人の気持ちを大切にしています。認知症の患者さんでも何もわからないわけではありません。ご本人ならどう思われるか、ご本人の気持ちをくみ取ることを考えます。例えば自宅で終末期を迎えたときに、毎日点滴を受けたいですかと聞くと、ご本人は受けたくないと言う。私たちとしても患者さんの負担になるので、できれば避けたい。一方、ご家族は、少しでも長く生きられるなら点滴をしてほしいと望まれることもあり得ます。その狭間で悩むんですね。私たちも、少しでも長生きするために何でもしてあげたいというご家族の気持ちがとてもよくわかります。ただ、終末期を迎えた場合には、点滴をするかしないかよりも、もっと大事なことがあると気づいていただくことが大切ではないかと考えています。
具体的にはどのように対応されているのですか。
まずはご家族の思いをじっくりお聞きします。その上で「ご本人ならどう思われるでしょう」と投げかけて、「この人はこういうふうに考える人でした」などと、話が広がるようにしています。その場ですぐ答えを導くのではなく、時間をかけて考えてもらうんですね。患者さんがじきに亡くなることが頭ではわかっていても、状態の悪化を受け止められないご家族はたくさんいらっしゃいます。それが普通のことだと思います。私たちは時間をかけてコミュニケーションを取りながら、看取りを受け入れられるように支えていきます。また、終末期になると何をしてあげたらいいかわからず、戸惑うご家族も多いので、「声をかけてあげてください」「体をさすってあげると、穏やかに過ごせますよ」など、ご家族ができることをお伝えするようにしています。
つながりを大切に、地域医療の担い手を育てたい
院外で、先生や看護師さんが“野菜”を売る活動をしていると伺いましたが、これはどういうものですか?
私たちが町内の公民館などで野菜を売る試みで、三股町社会福祉協議会の提案で始めたものです。地域の中には体調が悪くても受診しない方がいらっしゃって、そういう方は訪問診療のご相談も遅くなりやすいのです。そこで、地域の方々と私たちが直に接する機会を持つことで、医療を身近に感じてもらえればと考えて、クリニックの外での活動も積極的に行っています。地域の方から何か提案されたときには、よくわからなくても、とりあえず一緒にやってみようという気持ちでいます(笑)。
地域の皆さんとのつながりを大切にされているんですね。
当院の理念は「地域とつながる、私たち」です。地域の患者さんやご家族はもちろん、地域の医療機関、訪問看護師や薬剤師、施設職員など多職種とのつながりを大切にしています。理念の中の「私たち」は、当院の受付事務や看護師、医療クラーク(医療事務作業補助者)などスタッフ全員を指しています。小さなクリニックは医師が指示してスタッフは実行するだけというふうになりがちですが、当院ではスタッフ一人ひとりが地域の皆さんとつながって、いろいろなことに挑戦してほしい。外来でも訪問診療でも、私だけが患者さんやご家族と話をするのではなくて、スタッフも積極的に話をしてほしい。そうすることで、患者さんやご家族は安心できますし、支えになると思うんですよ。当院のスタッフはそれを実践してくれているので、普段は私は後ろで見守っているだけです。スタッフの活動を支えるのが私の役割だと思っています。
最後に今後の展望を教えてください。
地域医療の担い手をもっと増やしたいと考えており、宮崎大学医学部や都城市内の看護学校の学生の研修を受け入れています。現在、宮崎県内には在宅医療を専門とする医師を育てる機関がなく、在宅医療に興味がある学生でも県外に出てしまう。将来的には地元で在宅医療を担う医師を育てたいというのが目標ですね。在宅医療はコミュニケーションが大事なので、人と話をするのが好きな人は向いていると思います。私自身、呼吸器を専門に学んだ後に在宅医療の道に入ったので、興味のある人はキャリアの途中からでも、ぜひチャレンジしてほしいですね。