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一瀬 浩隆 院長の独自取材記事

あい訪問歯科クリニック

(豊橋市/豊橋駅)

最終更新日:2019/08/28

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「あい訪問歯科クリニック」は、豊橋市を中心とする訪問歯科専門医院。院長の一瀬浩隆先生は、2011年の東日本大震災で医療ボランティアとして活動し、その後、気仙沼の病院に勤務。その経験から「摂食嚥下障害(口から食べる機能の障害)の診療」に力を入れるようになり、一般的な歯科医師から高齢者を中心に診る訪問専門に方針を切り替えた。改めて知識を深め、誤嚥性肺炎の防止や経口摂食のトレーニングを行い、高齢患者に再び食べる喜びを与えている。要介護の高齢者を中心に患者の自宅で歯科診療を行う傍ら、自身の震災ボランティアでの経験を伝える活動も行っている。「食べるという観点から日本の医療を変えていけたら」と語る気鋭の歯科医師は、ひとのつながりを大切にする温かな人間だった。
(取材日2016年12月19日)

「食べる」ことから医療を変えていきたい

訪問歯科専門のクリニックを開業したきっかけは東日本大震災だと伺いました。

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はい。震災が起きた2011年当時、関東の歯科医院に勤務しており、私自身も帰宅困難者になったんです。また出身が静岡県浜松市で海が近い土地柄だったこともあり、震災後、「東北でボランティアを」という気持ちになり、気仙沼で医療ボランティアとして看護師や管理栄養士など多職種の人たちとチームを組んで治療にあたったんです。そこで「きちんと口から食べる」ことの重要性を知り、「摂食嚥下」という分野の勉強を始めて今に至ります。豊橋は母方の親戚がいて縁があったり、こちらの歯科医師会に所属できることになったりといろいろなタイミングが合って、2016年9月に開業しました。

東日本大震災の医療ボランティアの活動を通して感じたことや得たものは?

震災前まで、私は主にインプラントや矯正、審美歯科などに携わっていて、歯科医療の最先端を学んでいたつもりでした。ところが被災者の方々が求めていたのは、もっと切実なことでした。寝たきりの高齢者が、今生きるために、口から物を食べられるか食べられないかの判断が必要なのに、私はその判断ができなかったのです。多職種連携のチームの人から、「この方、口から食べられますかね?」と問われても、私は自信を持って答えられない状態でした。それまで学んできたことは、なんと狭い範囲のことだったのだろうとショックでしたね。そんな時に「摂食嚥下」の分野で国内屈指の実力者の看護師の方に出会い、その方が所属する神奈川県厚木市の病院に2年間、毎週のように通って一から学ばせていただきました。

「口から食べる」取り組みとは、何でしょう?

患者さんの「最後まで口からおいしく食べたい」という願いや希望を支える取り組み全般のことです。在宅医療、介護施設やリハビリ施設、病院など設幅広い連携も必要です。具体的な訓練では、特に「食べ物の形態」「食べさせ方」「食べる姿勢」の3点が重要で、関係各所と連携を取りながらトレーニングしていきます。時には、患者さんの生活や環境までも整えないといけません。「食べる」というのは、人の尊厳、生きる意欲、生きるための権利。食べられるようになると、表情がものすごく変わります。例えば、認知症の人が適切な訓練で食べられるようになると、お顔の印象が大きく変化します。初めはミキサー食しか口にできない状態から、食べられるようになると、刺身が食べたいとかお肉が食べたいとかラーメンが食べたいとか、いろいろな欲求が出て来て、生きることに前向きになるのです。

被災地での医療ボランティアを経て、豊橋でめざすことは?

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震災後の東北での経験で、「食べる」とか「医療」に対する考え方が大きく変わりました。もともと開業の意思はあったので、震災前は地域で評判が良く、格好良いと思われる歯科医院をつくろうという考えていました。それが今では食べることから医療を変えたいというアプローチに変化し、地域の医療や社会を良くしたいと強く思うようになっています。それが、ひいては日本の医療を良くすることだと信じています。東北地方はもともと医療資源が多くありませんでしたが、豊橋は医療・福祉施設も人材も多くいるはずです。そのような医療資源を活用していきたいですね。

難しいことに燃えるアグレッシブな姿勢で壁を越える

診療で大切にしていることは何ですか?

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まずは患者さんにしっかり説明して納得していただいてから治療を進めるようにしています。私は必要な場合は、歯を抜くことも選びます。その時にもなぜ歯を抜かなくてはいけないかを丁寧に説明し、もちろん抜かなくていい歯は抜きません。他にも、治療期間はどのくらいか、麻酔は使うのか使わないのか、金額的なことも、とにかくあらゆることをお伝えします。それから、どんなに治療困難な患者さんでも「とにかく今の状態よりも良くしたい」という思いで全力で取り組みます。ひとりでは上手く食べられない患者さんでも、食事介助の際の体の角度やポジショニングを微妙に変えてみたり試行錯誤することで、驚くほどきちんと食べられるようになったということもありました。また、患者さんの症状に合わせて専門の医院をご紹介することも大切な役割だと考えています。

今、特に力を入れている診療はありますか?

摂食嚥下はもちろん、歯を削ったり差し歯をしたり、基本は外来と同じように何でもやります。豊橋では入れ歯治療のニーズが高く、結果的に多くなっていますね。入れ歯をつくる際は質の高い素材を用いて、基本的に保険診療でつくっています。この素材は型を取ることが難しく、それを訪問でやるのは結構大変です。でも条件がよくない中で、いかに技術を最大限発揮して良いものをつくるかという姿勢で取り組んでいます。実際に、20年振りに入れ歯をしたという方でも、煎餅を食べられるようになったと喜んでくれました。それを見て、介護施設の人とケアマネージャーさんはびっくりしてましたね。他にも、90歳を超えてあまり食べる力が残っていないと考えられていた患者さんに、きちんと義歯をつくってあげると咀嚼ができるようになったというケースもありました。

思い出深い患者とのエピソードを教えてください。

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病気で寝たきりの男性で、いろいろな病院を転々として「食べられない」と診断され、管で栄養を摂っていた患者さんがおられました。訪問して診療すると口の中はボロボロ。もともと歯科診療が嫌いで、恐怖心をお持ちでした。私にも管理栄養士にも、なかなか打ち解けてくれない状況でした。それまで歯を抜かれた経験もない方だったので、とにかく患者さんが痛みを感じないように、慎重に麻酔をして抜歯。そうすると徐々に心を開いてくださり、最終的には三食食べられるようになって管を抜くこともできました。絶対に諦めず、どうすればその患者さんが食べられるようになるかを真剣に考えて取り組まなければならないと改めて強く心に刻んだ出来事でした。

患者の能力を引き出し、食べられる口へ

歯科医師を志したきっかけについて教えてください。

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父親が歯科医師だったので、長男の私は何の疑いもなく後を継ごうと思っていましたね。そして小さい頃からプラモデルや切り絵など、こまかい作業が好きだったので、歯科医師という職業はもともと向いているとも感じます。

先生にとって口腔ケアとは何ですか?

歯磨きだけでなく、その人の口腔の機能を生かすような訓練も併用するのが、口腔ケアだと思います。単に口をきれいにするのではなく、「食べられる口」をつくること。それは誤嚥性肺炎の予防にもつながります。そういう口腔ケアをしながら、舌の動きが良くなった、ある程度口腔の粘膜の動きも良かったという場合、では次にこの患者さんはうがいをすことはできないか、手が動くなら自分で歯を磨くことはできないか、というレベルまで診ることも大切です。要は口腔ケアは歯科医師が単にやってあげるだけのことではなく、患者さん自身ができることを引き出すこと。そして、さらに食べるということにつなげないといけないと思います。

最後に、今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

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今は訪問診療だけですが、医療ボランティア時代と同様、今後は施設や病院、多職種の人たちと連携して、各所で患者さんをつなぎながら、地域の医療のスキルアップ・ボトムアップをしていきたいです。訪問歯科はまだまだメジャーではありませんが、今後ますます必要性が高まり、幅広い可能性を秘めた分野です。患者さんご自身やご家族、医療関係者の方も、気兼ねなくご相談いただければうれしいです。

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