荒田 浩久 院長の独自取材記事
荒田内科クリニック
(川崎市中原区/新丸子駅)
最終更新日:2021/10/12
新丸子駅から2分。駅前の便利な場所でありながらも騒がしくはなく、近隣にはマンションも多いという住み心地の良さそうな地域に「荒田内科クリニック」は位置している。内科と循環器内科の診療を行う荒田浩久院長は、近隣の総合病院での11年間にもわたる勤務を経て同院を開院した。外観は黒を基調にした落ち着いた雰囲気を醸し出しているが、中に入ると白を中心にした内装の柔らかさが院内を包む。荒田院長は、院の外で植物に水をやっていれば「きれいな花ですね」、休日に出勤していれば「今日はお休みなのにどうしたんですか」と気軽に声をかけてくれる町の人たちの明るさが好きだという。診療に対しての考え方を聞いた。
(取材日2016年6月9日)
専門分野の外にも関心を持つようになった修業時代
医師になるきっかけは何でしたか?
父は耳鼻科の勤務医で、私が通う小学校の校医もしていました。ただ、最初は自分の就く職業として、医者は敬遠していたんです。なぜなら、父は忙しく、休日にどこかに連れていってくれることもあまりありませんでした。また緊急時に備えて自宅待機する宅直の役目も回ってきて、学校から帰っても「今、お父さんは眠っているから、外で遊んできなさい」なんて言われることがよくありまして(笑)。でも、中学、高校と年齢を重ねるうちに、友達が父に診てもらったと感謝していたり、父がたまに「昨日は大変だったけれど患者さんの病状が良くなってほっとした」と言ったりするのを聞くと、医師の仕事もいいなと実感するようになったんです。そして次第に、自分も医療の道をめざしたくなりました。
循環器内科の専門を深めたプロセスはどのようなものでしたか?
循環器を専門にしたのは、これからの医師は心電図が読めた方が良いという父の勧めに対し、大学時代の実習を経てそのとおりだと感じたからです。循環器内科の専門家となるべく、狭心症や心不全などの現場で症例を重ねました。ただ、研修医の時に印象的だったのは、専門の外にも興味を持つことの大切さだったんです。ついていた教授の方針から、私は当時、専門外の診療にも積極的に関わったのですが、例えば、ネフローゼ(高度の蛋白尿により低蛋白血症をきたす腎臓疾患群)ならステロイドを中心とする薬物療法と食事療法ですが、細かな微調整の仕方は、腎臓内科の先生にお話を聞かないと難しいなど、専門外の知識の浅さを痛感しました。「分野どうしをつなぎ、連携を促す存在も必要だろう」「専門を深めると同時に、他科とのやりとりに開かれている医師でありたい」と思うようになったんです。
循環器内科の技術の進歩が目ざましい時期を、現場で目撃された面もあっただろうと想像します。
私は大学の医局では狭心症や心筋梗塞の研究に従事していました。15分ほど血液の流れが止まると一時的に心肺機能が低下する状態を動物実験を通して研究し、3日ほどで元の状態に戻るというデータを得て、学会で発表したこともあったのです。当時は血管の中に細い管(カテーテル)を入れた検査や治療が一般化しておらず、血液の流れが止まった状態を治療する方法はほぼありませんでした。しかし、カテーテル治療ができるようになり、血液の流れが止まった後も回復が見込めるようになると、患者さんたちはやはり3日ほどで元の状態に回復していったのです。基礎研究で調べていたデータは後に臨床で生きるものなのだな、と医療の進化に関わることの醍醐味を実感しました。
開院のきっかけは「説明がわかりやすいという経験」
開業を決めた理由は何でしたか?
11年間、関東労災病院で急性期医療に携われたことにを誇りに持っています。そして、より地域医療に貢献したいと思い、今までとやや違う角度で診療できればと考えるようになりました。患者さんによく喜ばれた「説明がわかりやすい」という言葉が鍵になる気がしたのです。研修時代の話で触れたように、私は他の分野にも興味を抱き、関東労災病院では異なる科の先生どうしをつなぐ窓口にもなりました。そんな総合的なコミュニケーションを含んだ診察を行えるのではないかな、と。動脈硬化の説明にしても、お題目で終わることと現実味の伴う理解を促すことでは、患者さんのその後の生活習慣への影響が違う、と常日頃から感じてきました。よりそうした診療に力を入れていこうと、開業を考えたわけです。
知識を丁寧に伝えることも重要な医療活動の1つだ、という事ですか?
はい。関東労災病院にいた頃には、毎月開かれる「高血圧教室」という集まりで話をさせてもらっていました。話し手は月ごとに違うんです。医師、看護師、薬剤師、栄養士、検査技師、理学療法士などがそれぞれ生活習慣病の予防の糧となるような話をします。話し手が1周したら、次の月は最初に戻ってやり直し、患者さんはいつからでも参加できるというものでした。この時に重要だったのは、長い期間イベントに通ってもらう中で高血圧への意識を保ち続けてもらうことなんです。説明を1回で済ませては忘れるのも早いかもしれませんから。話し合う時間そのものを大事にして、健康に対する配慮を継続させるというこの時の試みに近い診療も行いたいですね。
例えば、動脈硬化の説明はどうされているのですか?
血管内にコレステロールが付着して硬くなるというのがよくある言い方でしょう。しかし、そのままでは「そうですか」で終わり。私なら、循環器の図鑑を開き、コレステロールがどう血管の内側にたまり続けるかをお見せします。え、こんなに血の通る道をふさぐんですか、などと「付着する」という中立的な言葉では想像できない状態もわかるわけです。さらに、健康で柔らかい血管と硬くなった血管の両方の模型に触れていただき、硬さの違いに驚いてもらいます。すると、血管の幅が狭くなった箇所にカテーテルを入れて広げる治療も、この硬さではやりづらいだろうとすぐ理解できるわけです。続けて、洗い物を想像してくださいとも話します。お皿に油汚れをつけて何日も放置したら、硬くなってこびりついて、落ちにくいですよね、動脈硬化もその状態です、と。いろんな角度でイメージをしてもらって理解していただいております。
発熱した際は、頭よりも頸動脈を冷やしてほしい
新丸子という地域で開院されて、ご状況はいかがですか?
循環器内科については75歳から85歳までの患者さんが多いですね。勤務医時代から、特にご高齢の患者さんは自家用車よりも電車やバスを乗り継いで来られる割合が高いと実感していたので、駅近くのこの場所を選んだのです。内科では、風邪の訴えが多いですね。ただし、自覚症状と病気の内容にズレがある時も出てきます。最近でも、ご自分では風邪と思われていたある患者さんのお薬手帳を拝見したところ、毎年同じ季節にクリニックに行っているとわかりました。これはアレルギーなのでは、とそのためのお薬をお出ししたところ調子が良くなったのです。勤務医時代に、急性アルコール中毒で病院に搬送される中には、心筋梗塞の方も多く混ざっていたのを目の当たりにしたように、よくお話を聞いて病状をつきとめていきたいと思っています。
お忙しいと思いますが、息抜きでされている趣味などはありますか?
夜間や休日も含め、急性期医療の前線で診療する期間が10年以上も続いたので、息抜きになるような趣味を持てていないというのが正直なところです。ゴルフクラブも、もう長い間、家で眠ったままです(笑)
最後に、健康に暮らすためのヒントをお聞かせください。
具体的に言えば、発熱した時は頭より首を冷やすといいですよ。頸動脈を通る血液の温度が下がり、涼しく感じられますから。薬に関しては、特に生活習慣病の際には、あくまでも習慣を改善する補助のようなものと思っていただきたいです。薬は体質によって効く、効かないが出ます。いきなり強い薬では危険だから、初めはやや弱めで様子を見るのです。わざと弱くするわけではなく、安全のために必要なのですね。ですから、用法と用量はお守りください。多ければ、濃ければ効くわけではありません。例えば、うがい薬を濃くし過ぎて口の中の粘膜を傷つけてしまう方もおられます。殺菌能力を高めても、口の中の弱い粘膜を痛めるわけです。そうしたもったいない状況に陥らないよう配慮して、どうぞ、日々を健やかにお過ごしください。