永井 正浩 院長の独自取材記事
永井循環器内科医院
(坂出市/坂出駅)
最終更新日:2024/07/05

坂出インターチェンジから車で約5分。坂出市中心部から南へ向かった、緑の多い住宅街に「永井循環器内科医院」はある。院長の永井正浩先生は川崎医科大学を卒業後、岡山大学病院や基幹病院で専門的な治療を多く経験。父が開業した整形外科医院跡をリフォームし、2015年に循環器を専門とする医院としてスタートした。10周年を目前に控えた現在は多職種のスタッフらとともに、心疾患に苦しむ多くの患者たちを支え続けている。「このエリアから、心疾患の再発患者さんを一人でも減らしたいんです」と語る永井院長に、長年携わってきた循環器疾患の治療や、香川県内でも数少ない心臓リハビリテーションの取り組みについて話を聞いた。
(取材日2024年5月2日)
循環器内科でさまざまな疾患の治療を経験
医師を志したきっかけを教えてください。

父が、整形外科の医師だったんです。体の痛みを訴えていた患者さんが、治療後には「ありがとう」と言って帰って行かれる、そういう場面を子どもの頃から見ていて、「いい仕事だな」と思ったことが医師をめざしたきっかけです。大学はお向かいの岡山県にある、川崎医科大学に進学しました。家から近く、兄も同じ大学へ行っていたことが大きいですが、大学へ見学に行った時に、勉強以外のことも自由に学んでいる雰囲気が感じられ、社会性を学べるのではと考えたことも理由の一つです。
卒業後はどういったご経歴を積まれたのですか。
岡山県南東部の中核病院である、岡山医療センターで勤務を始めました。最初は整形外科を希望していましたが、一人の先生と出会ってからは、「循環器内科に進みたい」と考えるようになりました。その先生は肺高血圧症の研究でよく知られた方で、海外の医師も学びに来るほどだったんです。肺高血圧症は、心臓から肺に出ていく血管の圧が高くなることで血液の循環が悪くなる病気なんですが、まだ治療手段がないといわれています。患者は、10代や20代の女性が多いことも特徴です。「自分よりも若い人たちが、手立てもなく亡くなってしまう。手立てがないのなら、自分がつくるという思いでこの分野を研究している」。先生のその考え方に心を動かされて、この先生のもとで学べる循環器内科に進もうと決めたんです。岡山医療センターを退職した後は、岡山大学病院や複数の基幹病院での勤務を経て、2013年に地元・坂出市へ戻りました。
開業のきっかけを教えてください。

地元に戻ってからは、兄が父から受け継いだ整形外科医院で、内科医として働いていました。広く内科全般を診ることは、それまで循環器メインで診察をしていた僕にとっては未知の領域も多く、まさに勉強の連続。消化器内科など、専門外の領域に関しては他の医療機関も紹介しながら、幅広い疾患の診療にあたっていました。その後、整形外科医院が近隣に移転をすることになったので、建物はそのままに、循環器専門の医院として2015年に開業。僕の好きなやわらかなピンク色に合うよう内装のトーンを変えつつ、整形外科時代のテーマカラーだった緑色も残しました。2階は整形外科時代と同じく病床となっていますが、内科では看取りをすることもあるため、落ち着いて過ごせる木目調の壁紙の個室も準備しています。さらに個別のリハビリテーションプログラムなどを組み合わせた、重度認知症患者向けのデイケアも開始しました。
心臓リハビリテーションで地域の心疾患患者をサポート
心臓リハビリテーションに注力されているそうですが、これはどんな取り組みなのでしょうか。

狭心症や心筋梗塞などの病名がついている方、心臓弁膜症で手術をした方、心不全を繰り返す方、動脈瘤などで大がかりな血管の治療を受けた方を対象に、運動療法や生活習慣の見直し、薬の調整までトータルで取り組みながら、病気の再発予防を図るのが心臓リハビリテーションです。僕が勤務医として過ごしてきた岡山市、福山市、広島市圏内の病院では、心臓リハビリテーションは当たり前に行われていたんですね。ところが香川県では、特に外来で心臓リハビリテーションを行っているところが少ないんです。心疾患の患者さんの長期予防、生命予後の改善を図るためには、今のところ心臓リハビリテーション以外にないと考えているので、当院でも「やるしかない」という思いで立ち上げました。動脈硬化疾患が気になる方は、いつでも相談してください。
運動療法では、具体的にはどのようなことを行いますか?
整形外科や脳神経外科における従来の運動療法では、動かなくなった、動きが鈍くなった部分の可動範囲を改善に導くトレーニングを行います。一方、心臓リハビリテーションでは、心臓から遠い筋肉を鍛えることを目的とした運動を中心に行います。自転車をこいだり、歩いたりといった「攻めるリハビリテーション」、つまりは、基本的に体力づくりなんです。心肺機能の向上や、筋力アップをめざしたリハビリテーションを行うところが、他のリハビリテーションとの大きな違いだと思います。
心臓リハビリテーションは、多職種のスタッフで取り組まれていると聞きました。

パートタイムの方まで含めると、スタッフは総勢で40人近くいます。職種は看護師、理学療法士、管理栄養士、臨床検査技師、臨床工学技士、作業療法士、公認心理師と幅広いですね。例えば生活習慣の見直しが必要な患者さんの場合、看護師であれば、僕がなかなか聞けない患者さん個人の生活スタイルや、内服薬の管理、ご家族との関わりまで細かく聞き出してくれます。管理栄養士は、「こういう栄養バランスを考えてください」と、具体的な食事のアドバイスをすることができます。そして理学療法士は、運動中に「こうやって動いてください」と、はっきりと指示を出せますよね。医師である僕の目線だけでなく、いろいろな目線からトータルで患者さんの生活を見直すことができるのが、多職種連携のメリットだと思います。
心疾患の再発患者を減らしたい
こちらに来られる患者さんの症状は、どういったものが多いですか。

主訴としては動悸、息切れ、ふらつきなどが多いです。ご年齢でいうと、40代以上の方が主な層になります。インターネットを見て来られる方が多く、坂出市をはじめ、お隣の丸亀市からも患者さんはいらっしゃいますね。当院のすぐそばには、兄が院長を務める整形外科医院がありますので、そちらとの連携も行っています。足が腫れて整形外科に来られた患者さんが、深部静脈血栓症や心不全などの循環器疾患を疑われて、当院を紹介されるといった具合です。逆に、「胸が痛い」「足がしびれる、歩くと足が痛い」などと訴えて当院に来院された患者さんに、肋骨や筋肉の問題が疑われた場合は、整形外科につなげるときもあります。「とにかく痛みを抑えたい」という方には、もう一人の兄が診療するペインクリニックも紹介しています。
先生の目標や、診療のモットーを伺いたいです。
近隣の医療機関の医師が、「坂出は心筋梗塞の罹患者が減った」と実感できるぐらい循環器内科の受診を浸透させて、地域に貢献することが僕の一つの目標です。診察室でのモットーは、「いち患者、いち笑顔」ですね。心臓を患っている方は、さまざまなことを気にする方が多いのか、うつ病を合併しやすいともいわれています。ですので、当院の診察室に来られた時だけでも、患者さんには安心して笑っていただきたいなと思っています。
最後に今後の展望と、読者へのメッセージをお願いします。

心臓リハビリテーションをもっともっと普及させることで、心筋梗塞や心不全の再発入院の患者さんを、一人でも減らしていきたいと願っています。僕が今、心臓リハビリテーションに関して相談している相手は、東京で積極的に新しい取り組みをしている先輩医師です。これからも情報交換を欠かさず、常に新しい知見を取り入れていければ、香川県にはまだないクリニックにできるのではと考えています。リハビリテーションは楽しくないと続きませんから、患者さんには当院でのリハビリテーションを楽しんでいただきたいです。当院も患者さんのモチベーションを上げられるよう、努力を続けます。「忙しくて受診の時間がない」という声も聞きますが、健康よりも大切な仕事はありません。そして、心も体も健康でないと、いい仕事はできません。気になる症状があれば後回しにせず、まずはクリニックを受診していただきたいと思います。