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中島 一光 院長の独自取材記事

いきいき在宅クリニック

(大府市/大府駅)

最終更新日:2020/04/01

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「いきいき在宅クリニック」は、「看取りまでできる在宅医療の推進こそ自身の使命」と語る中島一光院長が開院したクリニックだ。目の前には「あいち健康の森公園」があり、待合室から臨むのどかな風景が患者や家族の心を和ませてくれる。診療だけでなく、24時間365日いつでも連絡の取れる体制を作り上げるなど、地域で生活する患者にとって安心して頼れる存在。長年の経験から「命をより輝かせるには最期を迎える覚悟をすることが大切だ」と語る中島院長の、在宅医療にかける思いとは何か、詳しく話を聞いた。
(取材日2017年1月10日)

一人ひとりの命を輝かせることが最大のテーマ

クリニックという感じのしない、ゆったりとした待合室ですね。

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明るい空間づくりを意識しました。当院には在宅ホスピスケアを受ける、死と向き合っている方々がいらっしゃいます。クリニックに来ることがやすらぎになるよう、待ち時間も穏やかに過ごせるような雰囲気にしたいという思いがありました。患者さんやご家族との相談などには、堅苦しくならないよう待合室の一角のソファースペースを使います。待合室から続くテラスやキッチンスペースがあって、患者さんやご家族との交流、ボランティアの方々とのイベントなどにも利用しています。

クリニックを開院したきっかけを教えてください。

きっかけは国が在宅医療の推進に舵を切ったことです。国立長寿医療研究センターに勤めていた私は、病院の内側から在宅医療推進を考えていました。ところが24時間365日患者さんを支えてもらえる体制は簡単にできるものではなく。ならば自分が率先してやるしかないと使命を感じ、意を決して病院を飛び出したわけです。その後、東京で在宅医療・終末期医療の修業を積んでいたのですが、ある日、東海市で長年在宅診療に携わっていた「内科伊藤医院」の伊藤光保先生から1本の電話を受けました。不治の病となった自分の後任になってほしいと。お役に立てるのなら、と大急ぎで大府市に戻りクリニックを開院しました。そして1年あまり経過した2016年2月、現在の場所に移転し、東海市と大府市を中心に訪問診療しています。最近ではケアマネジャーさんや薬局、美容院などで当院を知ったという方も増えてきました。

在宅医療、とりわけ終末期医療に注力するようになった理由は何ですか?

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今でも忘れられない光景があります。医師不足に悩む病院へ応援で出向いた時、ほとんど意識も無く人工呼吸器と胃ろうを装着された患者さんたちを目にしました。何年も同じ状態で、家族もお見舞に来られないとのこと。機械的に呼吸させ、栄養が送り込まれる。いったい人間の命とは何なのでしょう。患者さんが望んでいれば、人工呼吸も胃ろうも命をつなぐ大切な手段です。しかし、ただ機械的に命を永らえている状態は、果たして幸せなのでしょうか。命が大切であることは言うまでもありませんが、命の長さよりも大切なものはないのでしょうか。あの時の光景は、そう考える大きなきっかけとなりました。人は必ず死を迎えます。その死を受け入れる覚悟、命の“質”、終末期における人としての尊厳、これらは医師の私にとって、とても大きなテーマです。

最期を受け止め、生を見つめる

医師を志されたのはいつ頃のことですか?

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小学校の卒業文集に「医者になる」と書いたのが最初ですね。人の役に立つ仕事をしたいと考えていましたが、特に当時放映していたテレビドラマのセリフ「医者は人間である前に医者だ」が幼心に衝撃的で胸に響いたのを覚えています。一体、医者とはどんな仕事なのだろう、と。そんな思い出もあって、医学の道へ進むことを決めました。名古屋大学医学部を卒業後は、お世話になった先輩の影響もあり、呼吸器内科を専門とすることに。呼吸器疾患による息苦しさや不安感は、当事者でないとわからない、なかなか共感しづらい感覚です。それを丁寧な対話を通して理解しようとする先輩の姿に、医師として胸を打たれました。呼吸器内科にはそういった寄り添う医療に長けている先輩が多い、そんな風にも感じています。

対話は在宅医療でも重要となるのではありませんか?

そうですね。在宅医療開始前に、じっくり時間をかけて患者さんやご家族とお話をします。医療は、誰よりもまず患者さんご本人のためにあるもの。患者さんとご家族の思いが同じではないことも度々ありますが、最も助けを必要としているのは患者さんご本人です。終末期の患者さんは、残念ながら病気を治すことが難しいです。しかし重要なのは「迫り来る死と向き合い、どう生きるか」。治すことばかりに執着して患者さんをいたずらに引き留めるのではなく、治らない病気とどう向き合い、過ごすのかを一緒に考えること。そしてご家族の思いにも配慮しつつ、あくまでも患者さんご本人にスポットライトを当てて、希望する過ごし方を"黒子"としてサポートする、それが私たちの役割です。患者さんの思いを尊重しながら進める医療、これが医療の原点ですから。

生の限界と向き合うからこそ生き生きと過ごせる。何だか不思議ですね。

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残りの命に限りがあると受け入れることで、自然とその後の生が輝くのです。例えば、私たちはどの患者さんにも穏やかに時を過ごしてもらいたいと思い、苦痛をしっかり取る約束をします。特にがんによる苦痛は、症状が軽いうちから医療用麻薬などを用いて適切にコントロールし、最期まで穏やかに過ごせるようにすることで、患者さんには「これからどうしたいのか」を考える余裕が生まれ、実際に行動できるようになります。残り少なくなった命だからこそ自分の思うように過ごしてほしい、それが私たちの願いです。かけがえのない時間を親しい人と住み慣れた場所で過ごし、穏やかな死を迎えること。これが死を受け入れたからこそできる、本当に “生きる”ということなのだと思います。

希望すればだれでも自宅で最期を迎えられる世の中へ

クリニック開院から3年目を迎えますが、大切にしていることは何ですか?

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思いを一つにして患者さんと向き合うため、毎朝時間をかけてカンファレンスを行っています。例えば看護師が一人で患者さんのご自宅を訪問中、さまざまな判断を迫られる場面もあります。看護師も立派な専門職です。その都度私に確認を取っていたら、“いつでも頼れる存在”とは言えません。私の医師としての考え方を常に共有し、24時間365日現場で迅速かつ適切に判断できるようにする。この流れが在宅医療ではとても重要なのです。また在宅医療では、薬剤師やケアマネジャー、介護ヘルパーや行政など、多職種の連携が要となるため、お互いにそれぞれの立場を理解し助け合うことも大切です。今年のモットーは「和」。「和を以て貴しとなす」という日本人の心、大和の和、調和の和、和解の和。人生、仕事、さまざまな場面で、お互いを思いやる医療をめざしていきたいと考えています。今はまだ種まきの時期。これから在宅医療の大きな枝葉を広げていきます。

中島院長は講演会に参加されるなど情報発信にも精力的ですね。

24時間365日看取りまで行う在宅医療に携わる医師はまだ多くありません。在宅医療の現状や情報を正しく提供することは、現場に立つ私たちの大切な役割です。私が講演会に出向く他、横江看護部長も看護師の立場から講演や執筆・書籍の監修など、情報発信をしてくれています。患者さんには「家でも安心して最期まで療養できるんだ」と知っていただき、医療者には「自分にもできるのでは、やってみたい」と思ってくれる方が増えてくれたら、本当にうれしいですね。医療の原点に立ち返り、日本のどこであっても「看取りまでできる在宅医療」という選択肢を選べるようにする。これが私たちのめざすゴールです。

読者へメッセージをお願いします。

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ご自宅でご家族や親しい友人、ペットとも一緒に最期の時を迎えられる。そのような幸せな最期の迎え方も選択肢の一つとしてあることを思い出してほしいと思います。小さいお子さんに家族の死を見せることをためらわれる方もいらっしゃいますが、私はぜひ立ち会い、目にしてほしいと考えています。先人の安らかな最期を目にすることは、死を越えた先にある、残された方たちの生に、大きくつながっています。死は決してネガティブではありません。死について考えることは、タブーどころか最期の時の迎え方も含めて「生き方」を考えることなのです。このことを知っていただき、自分の望む生き方と最期の迎え方を考えていただけたら、と思います。

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