松本 伸治 院長の独自取材記事
松本クリニック
(八尾市/近鉄八尾駅)
最終更新日:2025/06/06

地域の人々の生活に寄り添い、温かい医療を届けることをモットーとする「松本クリニック」。在宅医療と外来診療に対応し、特に在宅医療では、多職種と連携を図りながら、患者とその家族へのきめ細かなサポートに努めている。院長を務める松本伸治先生は、病気を患った実父の介護をきっかけに、医療者と介護者の両視点から患者に寄り添うようになったという。「医師は天職」と穏やかに語る松本院長に、同院の取り組みや、在宅医療と介護の連携を重視する理由、患者とその家族への思い、そして今後の展望について語ってもらった。
(取材日2025年5月19日)
患者とその家族に寄り添い、幅広い選択肢を提案する
先生のご経歴を教えてください。

もともと工学部を卒業したのですが、決まっていた就職を取りやめ、医師をめざして和歌山県立医科大学に入学しました。卒業後、初めて担当した患者さんが初期の肝臓がんで、手術後、すぐに退院できる見込みだったのですが、術後に肝不全を起こし亡くなられたのです。それから消化器外科、特に肝臓外科を専門に診ていきたいと考えるようになりました。私が研修医の頃、父が病気と診断されたこともあり、地元の大阪に戻って、肝臓外科分野で実績のある先生がおられた八尾市立病院に勤務することになりました。そしてその流れで同院と関連が深い大阪大学消化器外科に入局しました。
その後、ご自身の家族の体験から外科から内科へ転科されたのですね。
はい、父の症状は徐々に進行していき、在宅医療を受ける側になったのです。私自身が患者の家族として、母と一緒に介護する立場ともなりました。そのため患者さんを在宅療養に送り出す医師の視点でだけではなく、介護側の気持ちもある程度理解し、緩和ケアにも携わるようになりました。そうしているうちに、自分の気持ちがだんだん在宅医療へと傾き、外科から内科に転科して実地経験を積んで、そして当院を開業しました。当初は雑居ビルの一室で在宅医療専門クリニックからスタートしましたが、健康寿命を延ばすためのサポートも重要だと感じて、2015年に移転して在宅医療と外来診療を行うことになりました。
クリニックの概要をお聞かせください。

当院は、在宅医療・外来診療を行っています。また、がん治療のご相談なども受けつけており、街のかかりつけ医として患者さんを支えていくことを使命としています。外来は、緩和ケア、内科、外科、整形外科、リハビリテーションをはじめ、東洋医学の長所を生かした漢方内科も扱っています。生活習慣病の方や整形外科的な疾患の方、その両方を抱えている方、リハビリテーションのために来られる方など、さまざまな疾患の方が来院されます。緩和ケアの外来は、在宅医療を受けるほどではないけれども緩和ケアが必要な人に対して、定期的に通院していただきながら、疼痛緩和をはじめさまざまなケアを行っています。また休日や夜間に何かあった時に24時間対応できるように、当グループの訪問看護ステーションと連携しているのも強みの一つです。
健康的な長生きをめざすエイジングケアの相談も
睡眠時無呼吸症候群のオンライン診療を開始されたそうですね。

実は僕自身が睡眠時無呼吸症候群で、気道を広げて睡眠中の無呼吸を防止するため、空気を鼻から気道に送り込むCPAP治療を行っています。睡眠時無呼吸症候群の潜在患者数は日本で約600万人ともいわれていますが、治療を受けている人はあまり多くありません。睡眠時無呼吸症候群を放置していると突然死のリスクが高まります。太った成人男性がなりやすいイメージもありますが、まったくそんなことはなく、日本人は骨格の問題などで若い方や女性、痩せ型の人も多いです。また、家族やパートナーにいびきが気になると指摘されている人やいびきの最中にピタッと音が止み、再びいびきが出るのも典型的な症状で治療が必要です。とはいえ、働き盛りの人にとって通院は難しいと思います。ですが2024年からCPAPのオンライン治療が認められたこともあり、当院でも開始しました。自宅や職場など都合の良い場所からご相談ください。
エイジングケアについて教えてください。
当院では、健康的な長生きをめざすエイジングケアの相談にも乗っています。金属が酸化によってさびつくように、体も年齢を重ねることで酸化していきます。そうすると老化を早めたり、さまざまな病気を引き起こしたりする原因になるといわれています。このような老化に伴う諸症状に対して、一人ひとりが健康的な状態を長く保ち続けられるようサポートできればと思っています。
がん治療に関してもご相談を受けられることがあるとお伺いしました。

がん治療に対して、標準治療はやり尽くしたけれど、効果が見られず悩んでいる患者さんやご家族からの相談を受けることが増えています。「何か他にできることはないか」という切実な声を前に、医師として応えたいという想いが強くなりました。そうした声を受け、選択肢を広げる医療の可能性を探る中で、保険診療ではカバーしきれない治療や、新たなアプローチに目を向ける必要性を感じています。どんな治療であっても、「患者さんの望む未来を一緒に模索すること」が医療の原点であり、その姿勢を大切にしています。
患者と家族に安心を。介護との連携を重視した在宅医療
こちらの在宅医療の特徴について教えてください。

当院の在宅医療では、医療面・介護面ともに必要な体制が整っていることが特徴です。まず、常勤医師は私1人ですが、脳神経内科、麻酔科とペインクリニック、内科と放射線科、消化器外科をそれぞれ専門とする非常勤医師がいます。さらに私自身が介護を行っていた経験から、在宅の現場では訪問看護師や訪問リハビリテーション、ケアマネジャー、訪問介護士などの存在が非常に重要だと感じ、同じグループの同一建物内に、訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所のほか、看護小規模多機能型居宅介護施設も開設しました。そして当グループでは、多職種が1ヵ所に集まっているため、スタッフ全員が情報を共有しやすく連携を図れるのがメリットです。患者さんだけではなくそのご家族も一緒に見ないと、在宅医療は続けることができませんので、患者さんがより快適に過ごせて、ご家族にも負担の少ない在宅医療の提供に努めています。
診療時に心がけていることはありますか?
在宅医療においては患者さんだけではなく、患者さんを日々支えているご家族も含めてサポートしていくというスタンスでお付き合いしていますので、ご家族のお話にもしっかり耳を傾けるよう心がけています。そして病気だけを診るのではなく、その人の生活や環境を見て、何が良いのかを考えるようにしています。医師としてベストだと思うことが、必ずしもその方やご家族にとってのベストではありません。ですから、選択肢はできるだけ多く示して、僕はこれが良いと思いますという話はしつつも、「あなたやご家族はどれが良いですか?」と一緒に考えさせていただきます。患者さんの生活に寄り添った医療を届けたいという思いは昔から変わらずに持ち続けています。
今後の展望をお聞かせください。

これからもっと少子高齢化が進んでいくことが予測されるため、地域で支えていかないといけないと強く感じています。そのためにまずは、当グループ内だけではなく、他の訪問看護ステーションや外部のケアマネジャーなどとの連携が必要です。情報共有ツールをうまく使いながら、より患者さんとご家族のためになることに取り組んでいきたいと思います。そしてもう一つは、行政を巻き込んだシステム作りですね。地域包括ケアシステムの重要性は数年前ぐらいからいわれだしてはいますが、実際どこまで稼働しているのかなと思います。今後は行政も巻き込んで、クリニックやグループ単体ではなく、その垣根を越えて地域が連携する必要があると思っています。うまく稼働している地域もあるので、ここでも実現すべく取り組んでいきたいですね。