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松尾 大志 院長の独自取材記事

マーガレットクリニック

(名古屋市天白区/平針駅)

最終更新日:2021/10/12

松尾大志院長 マーガレットクリニック main

在宅医療を中心に予約制の外来も行う「マーガレットクリニック」は、平針駅徒歩5分に位置する地域のコミュニティースペース「ほっと平針」の2階にある。障害者施設や子育て支援センターなどが入居するここは、「地域の方々の生活に寄り添い、信頼される医者になりたい」という地元出身の松尾大志院長の思いから選択。愛媛県の在宅医療専門クリニックで研鑽を積み、故郷に戻り2015年に開業。「地域貢献というとおこがましいですが、住み慣れた場所での療養を希望される患者さんの気持ちを尊重しながら質の高い在宅医療を提供していきたいと思っています」と話す松尾院長の言葉からは、在宅医療と真剣に向き合う誠実さが伝わってくる。在宅医療にかける思いや少子高齢化社会が直面する課題について語ってもらった。

(取材日2017年8月29日)

地域で信頼される町のかかりつけ医をめざして

まずは、在宅医療をめざすまでの経緯を教えてください。

松尾大志院長 マーガレットクリニック1

大学卒業後は、名古屋第一赤十字病院や名古屋医療センターなどで循環器内科や救急医療に携わり、先進医療や急性期医療を学びました。難しい治療に果敢に攻めていく医療の重要さを感じ、またそれがプロフェッショナルだとも思う反面、私には向いていないのではないかという気持ちも芽生えました。町のかかりつけ医をめざしていた私は、少し立ち止まって今後の方向性を見つめ直したいと考え、名古屋大学の大学院へ進みました。勤務医時代は当直などもあり落ち着いて将来を考える余裕がなかったのですが、振り返ればその頃にゆっくり地域医療を考える時間を持つことができたと思います。休日は、在宅医療専門のクリニックでアルバイトをしていましたが、同世代の医師たちと一緒に少子高齢化の時代、どういった医療が必要になるのかなどを議論するよい時間でしたね。そこで在宅医療に大きなやりがいを感じたことで、進む道が明確になりました。

在宅医療をめざすにあたって愛媛県に移り住んだそうですね。何がきっかけだったのですか?

今ある医療では、たくさんの患者さんを効率的に診ていく必要があるのは確かですが、効率化を図るあまり、多様性がなくなってパターン化しつつあります。何か違うという思いを抱えていた中、一冊の本と出会いました。その先生から医療人としての魂というか人間性を学びたいという気持ちになり、永井先生が理事長を勤める愛媛県の「医療法人ゆうの森 たんぽぽクリニック」に1年3ヵ月勤務させていただきました。大学院を中退し、家族を連れての決断でしたが、「たんぽぽクリニック」で在宅医療に必要な多くのことを学ばせていただき、とても貴重な経験を積むことができたと思っています。

その後、この地に開業したのはなぜでしょう?

松尾大志院長 マーガレットクリニック2

小学校卒業までは名東区と天白区で、中学高校を愛媛県で過ごした私ですが、ゆくゆくは故郷に戻り、地域の方に信頼される町医者になりたいと考えていました。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、国民の4人に1人が高齢者となる2025年まで、あと数年です。それまでに経験を積みながら地域に根付き、解決策を考えていきたいという思いもあり、この地に開業しました。誠実と信頼という花言葉を持つマーガレットは、天白区の花でもあります。地域の皆さまに信頼され、愛されるクリニックをめざしたクリニック名です。若手の私が言うのもおこがましいのですが、地域ぐるみで2025年問題について考えていければと思っています。

人と人として患者と向き合い、伴走者となる

高齢で意思の疎通の難しい患者さんも多いと思います。患者さんとはどのように向き合っていますか?

松尾大志院長 マーガレットクリニック3

医師というよりは、人と人として患者さんと向き合いたいと思っています。患者さんの意思を尊重しながら、「逃げませんよ。私たちは仲間ですよ」という意思を伝えることが大切。まだまだ完璧にできているわけではありませんが、たとえ話ができない患者さんであっても、その思いは感じ取っていただけるようにしています。勤務医時代に目の当たりにしたスペシャリストな先生方のチャレンジ精神は、今の私の在宅医療にも大きく影響していて、患者さんのソフトランディングに向けては手を抜きたくないし、努力を惜しまないようにしていかなければ自分の専門性はないと常に思っています。急性期医療を経験させていただいた中で学び得た精神ですね。また、がん末期の患者さんに対しては、「痛みを取って一緒に頑張りましょうね」というスタンスで接しているのですが、下から支えるというよりは、伴走しながらご家族も含めてのケアに努めています。

在宅医療をする中で先生が大切にしていることは何ですか?

これは、私がお世話になった先生の教えですが、「楽なように やりたいように 後悔しないように」という三つを大切にしています。在宅医療では病気自体を治すことはできませんが、症状を楽にすることは病院と同じようにできます。痛みが減り、楽になればやりたいことも出てくるでしょうから、患者さんの望むことは全力でバックアップします。そして、患者さんの心身状態が変化するたびに十分な選択肢を提示して自己決定のお手伝いをします。一生懸命に介護をしても、あの時ああしていればという後悔は出てくるもの。だからこそ、大事な局面では考えられるすべての選択肢を提示し、患者さんと家族にとって何が最善なのかを考える必要があります。私たち在宅専門の医師が病状や余命の予測をしっかりして、ご家族が説明に納得されたら患者さんが望む自然な看取りができると思います。

看取りから考えさせられることはありますか?

松尾大志院長 マーガレットクリニック4

看取りをさせていただいた患者さんからは、最期まで生きる力というか生命力を感じます。生ききっているんですね。昔はお孫さんたちも側にいて家族で看取ることで命の大切さを身近に感じていたのが、現代では死というものを遠ざけ、考える機会が減ってきているのかなと思います。かつての医療の中でよかった部分も取り戻す必要があるのかもしれません。現代医療がどんなに進んだとしても老いや死は避けられないものです。老いや病に対して抗うのではなく、どう向き合っていくのかを深く考える機会をいただいています。患者さんやご家族の人生に向き合うことで「人生とは何か」を学び、それを社会に還元していきたいと思っています。

2025年に向けて考えたい。地域全体で取り組む医療

在宅医療を受けるのは、具体的にどんな患者さんですか?

松尾大志院長 マーガレットクリニック5

通院ができない方、自宅療養を希望される方、がん末期で緩和ケアを必要とされる方、脳梗塞で身体機能が低下されてしまわれた方、神経難病や肺疾患などで呼吸器管理を必要とされる方、栄養や排せつなどの医療的管理を必要とされる方、認知症の方、最晩年をご自宅で過ごされたい方などです。呼吸管理では在宅酸素療法や人工呼吸療法など、栄養管理では胃ろう管理や経鼻経管栄養、在宅中心静脈栄養など、排せつ管理では膀胱留置カテーテル、自己導尿管理など、疼痛緩和では麻薬や鎮痛補助薬の処方など、さまざまな医療処置がご自宅で可能です。緊急時にも安心していただけるよう24時間365日対応できる体制をとっています。

訪問診療はどのような形で行っていますか? また、家族が不在のお宅ではどのように対応していますか?

患者さんの状態に応じてですが、月に2回以上、定期的に訪問しています。これにより、慢性疾患の管理と病気の早期発見や予防も可能になります。往診は、医師と看護師が同行し、医療と介護の多職種がチームを組んでサポートしています。ご家族が仕事などで不在のお宅では、訪問看護師に同席していただくこともあります。診療の記録をご自宅に置いていきますので、何かあれば後で相談できますし、気になっていることを事前にメモに残していただくなどして、コミュニケーションをとっています。

今後の展望について教えてください。

松尾大志院長 マーガレットクリニック6

先ほども少しお話ししましたが、2025年に自宅療養や要介護の人が増加するにあたって、在宅医療や介護など地域での包括的なケアの取り組みが急がれています。まだ認知度の低い在宅医療を講演会などを通じて地域の方々に広く知っていただきながら私も経験を積んでいきたいです。病院のベッドも足りなくなっている現状から、今後は施設も含めて病院以外のどこかで終末期を過ごすことになります。病院中心だった医療から在宅医や介護サービスが協力し合う地域ぐるみの医療へと移行していけるよう取り組んでいきたいですね。

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