横山 哲夫 院長の独自取材記事
YYキッズクリニック
(西東京市/保谷駅)
最終更新日:2025/06/19

ワイワイはしゃぐ子どもたちのイラストが目印の「YYキッズクリニック」。魚の帽子をかぶった横山哲夫院長を見て、心奪われない子はいないだろう。胸元には鳥のピンバッジ、足元のスリッパには人気のキャラクターが定番スタイル。時々、電車をモチーフにした時計をしていることもある。「ハピネスをめざす医療」をモットーとする横山院長ならではの工夫だが、子どもを楽しませたいだけではない。その奥にある「子どもを泣かせて診療の質を落としてはならない」という医療者としての信念は揺らぐことがない。親の不安にもしっかりと寄り添いながらどのような診療を行っているのか、明るい院内で詳しく話を聞いた。
(取材日2025年3月14日/情報更新日2025年5月17日)
子どもを楽しませながら質の高い医療を追求する
先生の全身に子どもの興味を引く工夫がたくさん隠れていますね。

僕はまず、子どもとじゃれて反応を見るのを大事にしているんですよ。本人への問診は難しいので、具合の悪さを調べるには遊ぶのが一番なんです。子どもは自分の状態を言葉で表すことはできませんが、嘘はつきませんし、見栄も張らず素直に反応してくれますからね。また、裸にしての診察にもこだわっています。発疹があるかどうか、呼吸に異常がないかどうか、体ほどいろいろなことを教えてくれるものはありません。洋服をたくし上げるのでは胸を圧迫してしまいますし、洋服の上から聴診器を当てても衣擦れでじゃまな音が入ってしまうこともあります。おなかを直接触るのも有用ですが、泣いてしまっては正しい情報を得られないので、いかに泣かせないかにも全力で取り組んでいます。
子どもを泣かせないことはとても大事なのですね。
泣かせなければ聴診器で心臓の音もよく拾えますし、診察の質を落とさないために欠かせません。泣いてしまうのを避けるために、できれば待合室で前もってある程度脱衣して、何かをはおってお待ちいただければと思っています。ただ、最近は着衣したままの診察を望む親御さんも多いですね。もちろん、思春期に入りかけたお子さんはまた違いますが、小さな子はいかにして裸で泣かせずに診療できるかが鍵なんです。だから、僕は子どもが診察室に入ってきたら頭に聴診器を当てるところから始めるんですよ。お子さんでも親御さんでも、どんなに機嫌が悪くても、1回はニコッとさせることを目標にしています。
親御さんの笑顔への配慮もあるのは心強いですね。

小児科医の仕事は大きく分けて2つあると考えています。ひとつは医療、もうひとつは子どもたちがきちんと社会人に育つように親御さんに協力することです。医療では子どもの病態をしっかりと見て、必要があれば投薬などの治療をします。「とにかく弱っている子どもに何かをしてあげたい」と心を痛めている親に、薬という手段を与えて時間稼ぎをしているといってもいいかもしれません。子どもたちは自らの力で治っていきますが、その間の親御さんの不安に寄り添うのも僕らの仕事です。お子さんの病状、必要な治療、数日後にどうなる可能性があるのかなどを丁寧に説明します。もし、今夜悪くなったらこうしなさいというアドバイスをすることもありますね。
コロナ禍や倫理観低下による感染症流行に懸念
最近、気になっている症状はありますか。

この頃、複数の感染症が同時に流行しているのが気になっています。新型コロナウイルス、インフルエンザ、溶連菌、RS、ヒトメタニューモウイルス、アデノウィルス、胃腸炎、すべての患者さんがいるというのは、これまでになかったことです。以前は6月から7月によく見られた手足口病も6月から11月までずっと出現しています。感染症の旬がなくなったといってもいいかもしれません。コロナ禍のマスク生活で免疫を獲得する機会を失った影響が出ているのでしょう。もちろん、今後とも密閉空間ではマスクを着用して欲しいですが、戸外では外すようにしてはいかがでしょうか。一方、子どもが感染症に罹患していても「やりたいことをやらせたい」とイベントに出席させてしまうなど、親御さんの倫理観低下も関係しているようにも感じています。
これまで数多くの親子を見てきて思うことはありますか。
最近の親御さんは子どもの下僕になっているケースがあるんですよ。ぜーぜーして苦しいときの吸入などの処置でも「子どもが嫌がることはしないでください」という方も……。少しつらくても先々のためにしなくてはいけないことも教えられる大人であって欲しいと思います。僕はお子さんが間違ったことをしていたら、親御さんの前でも注意するようにしているんです。親御さんを叩き続けているお子さんのことも、きちんと叱りました。本当は親子で解決して欲しいことなのですが、だめなものをだめといえない方もめずらしくありません。また、赤ちゃんの頃からスマホを見せてあやしている方が多いのも気になっています。デジタルコンテンツはすぐに答えをくれるので想像力を育みません。人間の感性を衰えさせ、無礼にするようにも思います。
親はどのような心構えで子どもと接したらよいのでしょうか。

子どもの友達まではよくても下僕にまでなってはいけません。「子どもに嫌われたくない」という気持ちを優先させるばかりではなく、将来、誇りを持って生きていけるように考えてあげてください。誇りがあれば「人間としてこれはやってはいけない」というのが見えてくるはずです。会津藩の什の掟「ならぬものはならぬ」も、根底にあるのは武士としての誇りですしね。その子なりの誇りをもたせていただければと思います。まずは「ありがとう」「ごめんなさい」そして「あなたすごいね」という相手を尊敬する言葉を自然にいえるようにということを心がけて、お子さんと接してみてはいかがでしょうか。
子どもを怒れない世代の悩みも親身になって寄り添う
ところで、先生はなぜ医師になったのですか。

子どもの頃は野球選手を夢見ていました。でも、木場で呉服屋を営んでいた父に「医師ならば商売人のように人に頭を下げなくてすむ」と勧められたんです。そんな父は生粋の江戸っ子で気に入らないお客さんの接客はしないなど、医師よりもよほど自由人でしたけれども(笑)。小児科を選んだのは、大学生の頃に塾講師のアルバイトをしていて、子どもとの純粋な付き合いがとにかく楽しかったからです。小児科医になってすぐはどんな難病のお子さんでも「何としてでも救うぞ」と全力でした。ところが、重篤な後遺症でご家族が大変な思いをしているのを目の当たりにすることもあり……。「命を大切にする」とはどういうことなのか。今も考え続けているテーマでもあります。
お忙しい毎日ですが休日はどうお過ごしですか。
時々、野球を楽しむなどしています。勤務医時代は病院のチームも作ったこともありましたが、今は町の少年野球チームの熟年メンバーに入れてもらっています。長年、この町で診療にあたってきて、今ではすっかり地域に溶け込めているのはうれしいですね。また、旅行も好きなので、時間ができたらお気に入りの安曇野にあるとある美術館に行きたいと思っています。雄大な北アルプスを一望できるスペースに椅子があり、そこでのんびりと読書をするのが好きなんです。歴史小説を読むことが多いですね。
最後に読者へのメッセージをお願いします。

なかなか叱れない世代、𠮟り方がわからない世代が親になるのは大変なことかもしれません。もし、子育てに迷うことがあったら「三つ子の魂百まで」という言葉を思い出してください。僕自身、3歳頃までに祖父母に「嘘をつくな」「苦あれば楽あり、楽あれば苦あり。まず苦労をしろ」と何度もいわれたことが、今も人としてのベースになっています。とくに3歳までは手をかけ目をかけ、叱るべきタイミングを逃さないようにしましょう。きちんと愛情があれば、どんなに叱られても親を嫌いになる子どもはいません。子どもの見本となり、誇りと倫理観を与えるのが親の仕事です。時々は悪い見本でも構いませんが、つねに悪いというのではだめです。これからもご家族の近くで困難を乗り越えていく過程を見守り、子どもたちの健やかな成長を支えていきたいと思っています。