西洋薬との「合わせ技」も可能
心療内科でも力を発揮する漢方薬
ながうしクリニック
(佐倉市/ユーカリが丘駅)
最終更新日:2021/10/12


東洋医学において、体の疲れや不調と心の問題は同源のものとされている。漢方を語るときのキーワードである自己治癒力も、単に病気をはね返す力であるだけでなく、次々と襲うストレスにも負けない、ポジティブな感情に不可欠なエネルギーなのだ。全身の諸症状から心療内科の領域でも活用されている漢方薬治療について、「ながうしクリニック」の長牛慶順院長に聞いた。
(取材日2015年12月10日)
目次
ゆっくりとした体質改善から、即効性を求める治療まで対応可能
- Q漢方薬が持つ西洋薬とは異なる特徴について教えてください。
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A
▲体のバランスと自己治癒力を取り戻していく
すべての漢方薬に共通する考え方は、体の中の調子が悪いところを狙って働きかけるのではなく、体全体の仕組みのバランスを整え、人が本来持っている自己治癒力を取り戻すことで、症状からの回復をめざす、ということです。そのため、西洋医学では血液などの検査から病気を特定し、対象となる臓器に作用する薬を投与するのに対し、東洋医学では、まず患者さんの体型や体質、気質などに着目し、その方のタイプに適した漢方薬を処方します。いわば漢方薬は患者さん個々の体質などの特徴に合わせたオーダーメイド治療の手段なのです。以上に加え、診察では発症後の期間や、幼少期からの健康状態などもお聞きし、薬を決める参考にします。
- Q「漢方薬に副作用はない」というのは本当ですか?
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A
▲漢方薬は患者さんに合わせたオーダーメイドの薬
ないと頭から信じ込むのは正しくないですね。漢方薬にはさまざまな効能を持つ生薬がミックスされていますが、例えば、その中の甘草という生薬を一定量以上、長期にわたって飲み続けると、血液中のカリウム濃度が下がり、不整脈や内分泌系の病気を引き起す恐れがあります。このため、該当する薬を処方する際は事前にご説明するのはもちろん、服用中も定期的に血液検査を行い、低カリウムの状態になっていないかを確認します。こうして常に患者さんの体と相談しながら、悪影響が出ないように生薬の配合や量を細かく調整することも、オーダーメイド治療の一環です。それが結果的に、副作用が少ないという認識につながっているのではないでしょうか。
- Q漢方薬の服薬が適している症状にはどんなものがありますか?
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A
▲漢方薬は様々な症状に対応する
だるい、疲れやすい、食欲不振などの元気が出ない状態や、頭痛、肩こり、冷え性などの慢性的な諸症状が挙げられますが、私は患者さんに、漢方薬は全身のさまざまな症状に対応していますよとご説明しています。当院の専門である心療内科・精神科の範囲でも、不安、焦燥感、不眠などは、気持ちを静める働きのある漢方薬で改善も期待できます。ただし、いくら汎用性が高いといえども、万能薬ではありません。例えば、待合室で順番を待つことも困難なほどの重い精神病や、心の問題以外でも、早期に入院や手術が必要な病気などの場合、漢方薬での治療は難しいと言わざるをえません。診察を受けられる方であれば、大抵の症状に効果が期待できるとお考えください。
- Q漢方薬は長く服用しないと効果は期待できないのでしょうか?
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A
▲漢方薬の中には即効性が期待できるものも
まず申し上げたいのは、効果が緩やかなのは、漢方薬の持ち味だということです。最初に話した体のバランスを整えること──体質改善は、ダイエットと同じでゆっくりと時間をかけて行うことが望ましいので、穏やかに、少しずつ効いていくほうが適しています。しかし一方で、あまり知られていないことですが、即効性を考えた漢方薬もちゃんと存在します。例えば、パニック障害などの患者さんに処方する漢方薬は、大体2週間以内の服用で症状の緩和が期待できます。ただ、改善がみられたとしても継続して飲んでいただく必要があります。
- Q心療内科で漢方薬を使うメリットについて教えてください。
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A
▲漢方薬は患者さんのメリットが大きい
一番は、西洋薬と漢方薬を併用することで、患者さんに安心感を与えられることだと思います。例えば、気分が落ち込むという訴えに対し、漢方薬で治療できるのは軽い症状までなので、重い症状の場合には西洋薬の使用も選択肢に入ってきます。ところが、患者さんの中には、抗うつ剤と口にしただけで拒否反応を示すほど、西洋薬を嫌う方が少なくありません。そこには西洋医学への誤解もあるでしょうが、このような場合、漢方薬との「合わせ技」にすることで、精神安定剤など、依存症が心配される薬の量を減らすことができます。つまり、抑うつ気分に対して処方する薬の一部を漢方薬に置き換えるわけです。これで治療を断念しないで済むのなら、患者さんのメリットは大きいと思いますね。