藤原 正三 院長の独自取材記事
湘南台スマイルクリニック
(藤沢市/湘南台駅)
最終更新日:2022/03/16

精神科と内科が連携しながら在宅医療を行う「湘南台スマイルクリニック」の藤原正三院長。もともとは大学病院で救急医療に携わっていたが、在宅で診療が可能な症状の患者が病院に運ばれてくることに疑問を感じ、自ら在宅医療に取り組むようになったという。在宅療養の高齢患者の多くは認知症を含めた精神疾患も併発しているケースも多いことから、精神科と内科が連携した在宅医療を行うようになった。「精神科医師の診療を受けることでご本人も落ち着き、ご家族の負担を減らすことにつながれば、在宅療養の質を大きく向上させることができると思うのです」と院長は語る。飾り気のない気さくな語り口の中にも、患者や地域のために貢献したいとの強い理念が感じられる。そんな藤原院長に診療の特徴や在宅医療への想いを聞いた。
(取材日2022年1月20日)
24時間体制で精神科と内科が連携して在宅医療を行う
まず、こちらのクリニックについて教えてください。

当院は、精神科と内科が連携して訪問診療や24時間体制の往診など在宅医療を通して患者さんをサポートしている「在宅療養支援診療所」です。在宅療養している方の多くはご高齢で、認知症を含めた精神疾患もみられますので、内科に加えて精神科の医師も含めた訪問診療を積極的に行い、在宅療養の質を大きく向上させたいと考えて2016年に開業しました。そしてスタッフも増えて手狭になったことから、2019年にこちらへ移転しました。院内では、完全予約制で精神科の外来診療も行っています。
こちらが行う在宅医療には、どのような特徴や強みがありますか。
精神科と内科の医師、看護師がチームとして一人の患者さんをサポートしていることです。最初の訪問はどちらが伺うかは患者さんの症状次第で、精神科と内科が交互に対応することもできます。認知症の方に身体合併症が起きたり、他の病気の方で認知機能が低下したりというような場合には連携して診療を行います。常勤の医師5人をはじめ、非常勤も含めて毎日6人〜8人の医師が対応しています。ご自宅や入居されている施設には医師と看護師がペアで伺いますので現場でこまやかに対応していくことが可能ですし、24時間体制で「呼ばれたら、すぐ伺う」ことも意識して努めています。また、薬剤師が在籍しているのも特徴で、その場でのお薬のお渡しだけでなく、調剤薬局との連携もスムーズです。さらに褥瘡(じょくそう)の治療を専門とする医師と看護師による褥瘡チームがあるのも強みですね。
在宅医療に取り組むことになった経緯を教えてください。

大学病院の救命救急センターに勤めていた時に、運ばれてくる高齢の患者さんを診て「ご自宅にいたままでも提供できる医療があったのでは?」と感じることがありました。他にも、患者さんの病状や状態を普段からご家族に説明できていれば、容態が急変したとしても、すぐに救急車を呼ぶ判断ではなく、他の判断ができたかもしれないと感じたことも。そうした疑問が重なり、次第に「自分が在宅医療の現場に入ってなんとかしていきたい」と思うようになり、開業に至ったのです。もともと私は警察官を経て医学部に入ったため、人の役に立ちたいという気持ちは特に強かったのかもしれません。また、救急医療に長く携わっていたので、専門分野だけでなく患者さんの全身状態を見ながら治療を行うことも経験してきました。その経験から患者さんの体の不調に早く気づき、適切に診断や治療を行っていくための能力は十分に養えたと思っています。
オーダーメイド医療で患者や家族の気持ちに寄り添う
在宅医療のどういった面で精神科の診療が強みになるのでしょう?

ご高齢の方の場合、内科的な疾患の他に認知症を併発されている方が多いため、精神科のニーズは高いです。ですが精神科の診療も得意とする在宅医療を行うクリニックは少なく、「認知症がコントロールできれば在宅療養も可能」という方も病院に入院していただいたままになってしまっていることも多いのが現状です。そうした課題の解決の糸口として、精神科の医師が認知症の診療をすることで認知症症状のコントロールができれば、ご自宅での在宅医療に切り替えられますし、ご本人の気持ちも落ち着き、そして在宅療養に携わるご家族の負担も減らせると思うんです。暴れてしまうため在宅でも病気の治療がうまく進められず、入院先にもあてがないといった難しいケースも、原因は何か、在宅で診ていけるのか、病院での入院治療が必要かなどを精神科の医師が介入してフォローしていければ、在宅でも医療を受けていただけるようになると思います。
内科診療にはどのような特徴がありますか。
高齢の患者さんは、さまざまな病気を併発されることが多いですし、体の抵抗力が弱まっていると重症化の可能性も高いです。熱が出た、嘔吐したといった体調の変化から、肺炎や膀胱炎の兆候はないか、重い病気が隠れていないかなどを診断するのも内科医師の役割です。当院では、ハンディーの超音波検査装置も導入しています。サイズは大きくないですが、診断には十分な力を発揮しています。ご家族にも画像を見ていただき、具体的に説明することで患者さんの状況を理解しやすくなるメリットもあります。病院への紹介が必要な場合も、現場でしっかり診断してから患者さんをお送りしますので、病院での受け入れもスムーズかと思います。
先生の診療方針について聞かせてください。

在宅医療を必要とするご本人やご家族の、治療や命に対する考え方は多種多様です。さまざまな価値観を受け止め、話し合いながら一緒に治療していく「オーダーメイド医療」が重要と考えています。時には医学的な正しさとは違う道を選ぶことも必要です。胃ろうなどで栄養を保つのが医学的には正解でも、ご本人やご家族が「口から食べたい」「食べさせたい」と希望されるのなら、肺炎や窒息のリスクを説明した上で、食べていただくことも考えます。逆に希望されない治療は行わない場合もありますし、現場で声をお聞きすることが何よりも大切なことだと考えています。ですから、私は最初に患者さんやご家族とお会いしたとき、「ご自分の家なのですから、ご希望はなんでも話してください」とお伝えするんですよ。
患者が安心し、家族も満足できるような在宅医療を
在宅医療に取り組む先生の想いを聞かせてください。

患者さんを最期の時まで診ていくことを信条としていますので、私に診てほしい、看取ってほしいという患者さんの場合、休日でも駆けつけることがあります、やはり主治医としては患者さんやご家族の様子が気になります。医学的な面だけでなく、家族背景や経済的な環境まで鑑みて診療を継続していくことが在宅医療の難しさです。一方で私は法医学教室で学んだ経験もあり、今でも検案を行うこともあります。結局は患者さんのため、地域のために貢献するというのが私の基本的な想いなんです。組織としては、そのマインドを共有して浸透させていくのが難しいところだと思いますが、幸い、当院の医師やスタッフはよく理解して頑張ってくれています。人に恵まれていると感謝しています。
今後、どのような展望がありますか。
当院の取り組みが認められてきたのか、近隣の病院からの患者さんをご紹介いただくことが増えてきました。精神科と内科が連携した在宅医療を普及させるためには、同じマインドを持った医師、看護師、スタッフの力がもっと必要になります。在宅医療への想いが強く、愛のある人が参加してくれると、在宅での療養を求める患者さんやご家族の希望をもっとかなえられると思います。その第一歩として、2022年春には海老名市に分院ができる予定です。また在宅で医療が受けられない患者さんにも手を差し伸べて、安心して最期の時までを過ごしていただけるような環境をつくっていく取り組みもしていきたいですね。
最後に読者へのメッセージをお願いします。

当院の医療は「諦めの悪い医療」です。そもそも在宅医療は衛生管理、機材、ケアをする人材などの条件が病院とは大きく異なり、医学的な正解を完全に実行するのは難しいものですが、もう病院では施す治療がないと言われた方でも何か、またご自分の口から食事を召し上がることができるようになる方法がないか、症状が軽快されることがないか、と考えながら診療に向き合っています。一方でご自分のベッドで静かに最期を迎えることも、ご本人にもご家族にとっても大切なこと。これからも、常に患者さんが自分の家族だったらどうするかを考えながら、患者さんとご家族に満足していただける医療をご提供したいと思います。