松波 達也 理事長の独自取材記事
耳鼻咽喉科まつなみクリニック
(京都市北区/北大路駅)
最終更新日:2026/07/07
「聞き間違いは難聴の始まり。まだ大丈夫、ではないんです」。やわらかな物腰で語る言葉の奥に、強い使命感がにじむ。北大路駅から徒歩1分の「耳鼻咽喉科まつなみクリニック」の松波達也理事長は、大学病院や関連病院で難聴治療を担当し、中耳手術に力を注いできたエキスパートだ。手術をしても聞こえが戻らない患者や、手術の対象とならない加齢性難聴の患者の聞こえをその後も支えたいという思いから開業し、聴力検査からフィッティング、アフターケアまでを院内で完結する補聴器の外来を構築。言語聴覚士を含むスタッフとのチーム医療で、聞こえに悩む患者に寄り添い続けている。コンクリートと木材が調和した上質な院内で、難聴と認知症の関係の啓発や日帰り・短期滞在手術への取り組みなど、診療にかける思いをじっくり聞いた。
(取材日2026年6月18日)
手術のその後に応える一貫した補聴器の外来
先生のこれまでの歩みと、開業に至った経緯をお聞かせください。

大学病院や関連病院では難聴治療を担当し、主に中耳手術に携わっていました。耳の手術は私にとって一番力を発揮できる分野ですが、手術をしても聞こえの回復が難しい患者さんはいらっしゃいます。また手術では治らない加齢性難聴の患者さんもいらっしゃいます。そうした方のその後を大きな病院ではなかなかフォローしきれないもどかしさを、勤務医時代にずっと感じていました。開業すれば、手術後のケアや補聴器の提供を通じて聞こえを取り戻すためのお手伝いを長く続けられる。その思いが開業の原動力になりましたね。京都府立医科大学に入局してから約15年間、各地の関連施設で耳鼻咽喉科全般の治療に携わった後、2012年に地元である京都で開業しました。縁があって生まれ育った土地で開業できたことを、とても幸せに思っています。
クリニックの診療体制や対応範囲について教えてください。
現在医師は私を含めて3人で、全員が京都府立医科大学の同じ医局の出身です。同じ教育を受けてきた仲間ですので、治療方針の意思統一を図りやすいのは大きな強みだと感じています。スタッフには看護師や言語聴覚士、受付、診療補助のメンバーがいて、それぞれの専門性を生かしながら診療にあたる体制です。診療は耳・鼻・喉の一般的な疾患から、アレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎の手術、睡眠時無呼吸の治療まで幅広く対応しています。鼻の手術は開業以来ほぼ毎週行っており、近隣の病院に365日1床を確保しているため、日帰りだけでなく短期滞在手術にも対応できます。開業当初から手術室経験のある看護師が在籍してくれていますので、安全面でも安定した体制を維持できていると思います。
補聴器の外来はどのような体制を整えていますか。

当院は聴力検査から補聴器のフィッティング、アフターフォローまでを一貫して院内で完結できる体制を整えています。補聴器専用室を設けて必要な機器も備えました。この体制を整えた最大の理由は、補聴器を買ったけれど結局使えなかったという患者さんが本当に多かったことです。十分な説明もフィッティングもないまま高額な補聴器を購入してしまう方の多さに驚きました。そうした方たちにより良い生活を送ってほしいと思ったのが、このオールインワンの補聴器の外来を始めた出発点です。
聞き間違いは難聴のサイン。認知症との関係にも注目を
補聴器の外来で、患者さんにまず伝えていることはありますか。

大切にしているのは補聴器の正しい使い方と、難聴の正しい理解の2点です。難聴というと「まったく聞こえなくなること」だと思っている方が多いのですが、実は聞き間違いこそが難聴の始まりなんです。「聞き間違いはするけれど、聞こえてるからまだ大丈夫」とおっしゃる方がとても多いのですが、実はもう難聴は始まっているんですよとお伝えしています。仕組みとしては、高い音から聞こえにくくなることで、子音の聞き取りが難しくなります。例えば「さかな」が「あかな」に聞こえるようなことが起きるのですね。ご本人よりご家族のほうが先に変化に気づいていることが多いので、周りの人に尋ねてみるのもいいですね。
その聞き間違いを放置してしまうと、どうなるのでしょうか。
認知症の修正可能なリスク因子の中で、難聴は第一位だといわれています。なぜかというと、例えば「ご飯ですよ」と呼ばれても、こもって聞こえると「何を言われたのかな?」とまず考えますよね。夕方だし、台所から声がかかったからご飯かな、と毎回会話が推理ゲームのようになります。脳が使えるエネルギーには限りがあるとされていて、聞き取りの推測にばかり消費されると、考えて行動するために使うエネルギーが足りなくなる。その繰り返しが認知症のリスクを高めるといわれています。つまり、難聴の方はいつも聞くことにエネルギーを割きすぎて、常に脳が疲れている状態なんです。認知症だと思われていた方が、調べてみたら難聴だったというケースも少なくありません。聞こえで悩み続けるのではなく、しっかり音を届けることが大切だと知っていただけたら幸いです。
実際に補聴器を使い始めるにあたって、知っておくべきことはありますか。

補聴器は眼鏡とは違い、つけた瞬間から快適に聞こえるものではありません。慣れるまでにおよそ3ヵ月かかります。よく山登りに例えるのですが、つけ始めて少しずつ慣れてきて、気づいたら手放せなくなっている。そういう工程を経るものなので、最初の調整がとても重要です。当院では期間をあえて限定せず、納得がいくまで何回でもフィッティングを行います。補聴器は決して安いものではありませんから、患者さんとの信頼関係がなければ成り立ちません。使わないままたんすの肥やしになるくらいなら買わないほうがいいと、私は率直にお伝えしています。買って終わりではなく、買った以上は必ず日々の暮らしに役立てていただきたい。それが当院の補聴器の外来のモットーです。
「一人じゃない」安心感をチームで届けたい
初めて補聴器を検討される方へのサポートについて教えてください。

1人の患者さんに補聴器を届けるまでには、さまざまなステップがあります。まず看護師や医師が生活の情報を集め、言語聴覚士が聴力検査を行います。その上で月1回、休診日に4人を上限とした補聴器相談会を開いています。ここで私が改めて難聴と補聴器について詳しくお話しし、直後に言語聴覚士が聞き取りを行うと、先ほどお話ししたような聞き間違いがその場で確認できます。さらに事前データをもとに調整した補聴器を試しにつけていただき、クリニック前の道路に出て鳥のさえずりや車の音を一緒に聞く体験もします。こうした機会を設け、心の準備ができたかを確認してから、補聴器の外来へ進むという流れです。独居の高齢の方も多いですから、一人じゃないよという安心感をチーム全体で届けたいと思っています。
そうした体制を支えるスタッフの皆さんについてお聞かせください。
当院には現在、言語聴覚士が3人在籍しています。補聴器のフィッティングはもちろん、日々の聴力検査やめまいの検査でも聴覚の専門家として高い精度で対応してくれています。開業して4、5年目頃に補聴器の知識を持った言語聴覚士が入職してくれたことがきっかけで、二人三脚で補聴器の外来を立ち上げました。看護師にも聴力検査の教育を行い、チーム全体の底上げを図っています。さらに、補聴器メーカーや他院の言語聴覚士との情報交換も日常的に行い、新しい技術や機器の知識を常にアップデートするよう心がけています。
今後の展望と、読者へのメッセージをお願いします。

今後は海外の新しい調整器具なども積極的に取り入れて、フィッティングの精度をさらに高めていきたいと考えています。ありがたいことに補聴器の外来へのご希望が多く、言語聴覚士と相談しながら少しでも多くの方に対応できる体制づくりを進めているところです。また、皆さんにお伝えしたいのは、65歳を超えたら一度耳鼻咽喉科で聴力検査を受けてほしいということです。「80歳で30デシベルのひそひそ話が聞こえる状態を保ちましょう」という8030運動も推進されています。健康診断のようなつもりで、少しでも聞きづらいかなと感じたら気軽に受けていただければと思います。聞こえに不安がある方もあまり心配なさらず、まずは今の状態を確認するところから始めてみてください。

