廣瀬 久益 理事長、廣瀬 圭太 院長の独自取材記事
新宿OP廣瀬クリニック
(新宿区/若松河田駅)
最終更新日:2021/10/12

若松河田駅から徒歩5分、地下1階、地上4階のビル。廣瀬久益(ひさよし)理事長と息子の廣瀬圭太院長の他、複数医師が在籍し診療を行う「新宿OP廣瀬クリニック」だ。不安障害やうつ病、アルコール依存症などさまざまな精神的な悩みに対し、運動療法や栄養指導を取り入れながら自然治癒力を引き出す心の治療を実践。一人ひとりの症状、性格や価値観、そして生活習慣などに合った治療計画を患者とともに見いだしていく。そのスタイルに行き着いた経緯や、オンライン診療導入の背景など、2人が語る言葉にはあふれんばかりの患者への想いが感じられた。
(取材日2020年8月3日)
薬だけに頼らない根本治療を、オンライン診療でも実践
新型コロナウイルス感染拡大に際して、診療現場では何か変化はありましたか?

【廣瀬理事長】「生活不活発病」の兆候が見られる方が増えている印象です。活動量が下がることで心身能力が低下し、倦怠感と意欲減退を来す病気で、災害時の避難生活で多発します。コロナ禍も条件が似ており、恐怖心をうまく消化できない中高生の年代は特に注意が必要です。家にこもって気分が落ち込み、いざ学校が再開すると行けないという子どもは少なくありません。
【圭太院長】社会に不安が蔓延し、活動が制限される中、あらゆる面で生活スタイルの変化が求められています。当院では院内感染予防の観点からも、オンライン診療をより積極的に活用しており、現在は半数近くの患者さんがご自宅で診療を受けておられます。密集を避けられるほか、診療や会計待ちの時間緩和など、直接来院される患者さんにも大きなメリットがあります。
オンライン診療は以前から導入されていたのですか?
【廣瀬理事長】全国でも導入事例のほとんどない頃に始めましたから、草分け的存在といえるでしょうか。当院の医療圏は、北は北海道から南は九州までで、旅費を含む負担が大きい。その負担を軽減したいという思いもあって、遠隔診療を導入しました。
【圭太院長】例えば、パニック障害で電車に乗れない方や、ひきこもりの状況にある方も、自宅にいながら治療を受けられます。へき地の医療機関の不足や、高齢ドライバーによる自動車事故の解決の一助になるかもしれません。これからの医療の在り方の一つとして、オンライン診療には大きな可能性を感じています。
「薬だけに頼らない」という治療方針を掲げておられます。

【圭太院長】薬は補助的存在と考え、患者さんが本来持つ自然治癒力を引き上げる治療を実践しています。体にできた傷は患者さんが自分の力で治すことを基本としますよね。心の問題も同じ。私たちがすべきことは、患者さん自身が病気を乗り越えるのをお手伝いすることです。当院ではそのような方法を、患者さんとともに考えてきました。
【廣瀬理事長】マニュアルに則って診断を下し、薬を選び、副作用が出たら減らす、効かなければ増やす。このように診断と薬だけで治そうというのは無理があることに気づきました。医学的常識ではあり得なくても、一度患者さんの話をよく聞いてみる。すると、教科書には載っていない新しい物事の考え方にたどり着き、その方に合った治療方法が見つかることがある。どこまでも「患者さんが教科書」です。
精神面だけでなく、身体面も診る治療に強み
自然治癒力はどうやって引き上げるのですか?

【廣瀬理事長】第一に、食事、運動、睡眠など生き物として基本的な要素を整えることです。食事に関しては、鉄、ビタミン、ミネラル不足や、逆に炭水化物の取り過ぎが精神疾患につながることがあります。鉄剤やビタミン剤を提案したり、日々の食生活を見直したりします。また、当院は地下1階にキックボクシングのジムを併設し、開業当初から運動療法をプログラムに取り入れてきました。長年悩んできた症状が運動によって改善につながるケースは珍しくありませんね。日常的な運動習慣については、歩くなら2時間、走るなら10分かけて汗を出して、あとの20分は汗を絞り出すように走る、といった具体的なアドバイスを行います。
では、薬はどのように取り入れるのでしょう。
【圭太院長】薬は回復に向けて効果が期待できる手段でもありますから、処方する際は知識と経験をもとに、目的や減薬の方法などをしっかり説明します。しかし、どれだけ私たちが良いと思う薬でも、服用するのは患者さんです。毎回きちんと内服することの大変さはもちろん、お薬を飲むこと・飲まないことへの不安などを理解しながら、ともに治療を進めていく必要があります。ですので当院では、初診時からお薬なしで治療方針を立てていく方もいますし、他院でお薬の治療を終えてから診察にいらっしゃる方もいます。
お二人は精神科の医師でありながら、総合内科的な視点もお持ちですね。

【廣瀬理事長】大学を出た後、精神科の病院で合併症病棟を担当しました。患者さんには身体疾患もあり、診療の半分は内科系の処置でしたから、幅広い知識が身につきました。同時に注目していたのが、アルコール依存症の治療。アルコール依存症は家族の関わりが大きいため、患者さんと家族を対象にした集団精神療法も行っていました。当時、北関東にこの分野の専門家が少なく、僕が一手に担う中で、生い立ち、家族、社会と病気との関係を診る機会が毎日のようにありました。これが当院の治療のベースになっています。
【圭太院長】僕は大学卒業後、あえて内科やERで勤めました。特にERは、体調が悪いからとにかく診てほしいという方が集まる場所。総合的な診断力、対応力が問われます。おかげでメンタルの不調を訴える方を前にしても、精神面に原因があるという前提ではなく、フラットに診ることができ、もちろん身体的な不調にも落ち着いて対応できます。
受容と理解の姿勢で、患者にとっての理解者になる
なぜ精神科の医師を志したのでしょうか?

【廣瀬理事長】僕はもともと哲学青年で、「人間らしく生きるとは?」をテーマにしていました。人の心理や精神はとても複雑。だからみんな困っている。その中で幸せに生きるための援助、それも体だけでなく精神的なサポートができればと考え、精神科を選びました。精神科は、患者さんの人生そのものに関わることができます。その方の病気に一緒に付き合うことで、経験できることがある。それもまた醍醐味ですね。
【圭太院長】精神科の医師になろうと小さな頃から思っていました。やはり父の存在が大きいですね。僕が小学校の時に父が茨城に開業しましたが、診療所は自宅のすぐ近くでしたから、医療はとても身近でした。医師になってからは、この仕事の素晴らしさを感じる毎日です。
診療において大切にしていることは何ですか?
【廣瀬理事長】暴言を吐く患者さんがいても、表現するのが苦手なだけかもしれないし、ずっと一人ぼっちで生きてきて頑なになっているのかもしれない。ただ、来院したことには必ず意味がある。だから広い心で受け止め、丁寧な問診を通じて理解していくこと、歩み寄ることを大切にしています。診療はなるべく頻回に行うこと、次回診療は1ヵ月を超えないことを原則にしています。「間延び診察・効果の薄い診察」を予防するためです。
【圭太院長】「患者さんの生活についてよく聞くように」と、父によく言われたものです。今、何がつらいのか、どんなことを求めているのか、を知ることはもちろん、普段の生活ぶりまで把握できて初めて、その方に合った治療を展開できるんですよね。あとは、体の不調が精神的な原因によるものなら、そのことを受け入れやすいような説明も心がけています。
最後に読者へのメッセージをお願いします。

【廣瀬理事長】初めて受診する方はもちろん、治療を始めたけれどなかなか改善せず困っている方も当院は歓迎です。さまざまな選択肢から一緒に最適な治療方法を見つけましょう。大切なのは、諦めないこと。気軽な気持ちでご相談いただければ幸いです。
【圭太院長】うつ病の約4分の3以上が受診しないといわれています。うつ病は時に家庭崩壊、失職、自殺と悲しい結末になることもあります。ご自身が抱えるつらさに対して、自分が悪い、自分の問題は些細なことだ、どうせ良くならないと考えて、一人で頑張っている方、受診を迷っている方にも、受診していただきたいです。オンライン診療の活用に加え、電子カルテや新しい予約システムの導入により、受診環境が飛躍的に改善しました。多くの困難と不安が存在するこんな時代だからこそ、患者さんが治療を諦めずに済むような環境づくりに力を入れていきます。