岩野 歩 理事長の独自取材記事
コールメディカルクリニック福岡
(宗像市/赤間駅)
最終更新日:2026/05/14
福岡県宗像市、宗像コモン停留所から徒歩2分にある「コールメディカルクリニック福岡」。木目と黒を基調に緑を配した外観が落ち着いた印象を与える。岩野歩理事長は救命救急センターで10年、回復期リハビリテーションで3年、在宅医療で3年と、患者がたどる流れすべてを経験してから同院を開業。現在は地域医療を支えるべく、在宅医療に力を注いでいる。2026年3月より福津や古賀でも展開し、地域に根差した医療体制をさらに広げようと努めているそう。「ガスや水道と同じ、なくてはならないインフラでありたいんです」と朗らかな笑顔で語る岩野理事長に、地域医療にかける思いについて、じっくりと話を聞いた。
(取材日2026年1月23日)
救急・リハビリ・在宅を経験し、「生きる」に寄り添う
まずは先生のこれまでの歩みや、開業に至った経緯を教えてください。

私は救急医として10年、回復期リハビリ病院で3年、そして在宅医療に3年、それぞれにしっかりと携わった上で開業しました。このように各領域で研鑽を積もうと思ったきっかけは、救急からリハビリ病院に移り、かつて自分たちが助けた患者さんたちと再会した時のことです。退院後、患者さんがどうなっているのかを知らずに次の医療機関へ送っていたと気づき、大きな反省が生まれました。リハビリ病院で診療を行う中でも同じことを感じましたね。家に帰るためにリハビリをするのに、家で何が起きているのかはわからないまま退院させていたのではないかと……。そして、「次に行く場所の状況を知らずに送り出したくない」と思って、リハビリ病院の次は在宅医療を学ぶ道を選びました。患者さんがたどっていく急性期から回復期、そして在宅という流れのすべてを経験したことが、今の診療の土台になっています。
クリニックの特徴や、診療で大切にされていることを教えてください。
当院の特徴は、たくさんのリハビリスタッフを雇用し、診療所で訪問リハビリを提供していることです。一般的には訪問看護ステーションより提供されることが多いのですが、当院では医師とリハビリスタッフが同じ事業所内で机を並べて話ができる体制を整えています。なぜそうしているかというと、神経難病や終末期の患者さんなど、身体的なリスクが高い方であっても「畑に行きたい」「旅行に行きたい」などの生きる支えを見つけて、かなえてもらいたいからです。当然リスクを伴いますので、そのリスク管理を行うために各スタッフが同じ事業所に在籍する体制を採用したのです。別の事業所のリハビリスタッフに「危ないかもしれないけど頑張って」とは言えませんし、相手方からもしても「何かあったら先生お願いします」とは頼みにくいものですからね。リスクをともに抱えながら患者さんの願いを実現する、そんな組織づくりを大切にしています。
先生が構想されている、「ケアタウンプロジェクト」についてお聞かせください。

何年も前から構想してきたプロジェクトです。地域医療に取り組む中で気づいたのは、「医療」という言葉がくっついている限り、本当の意味での「地域医療」は完成しないということでした。病気を診るだけでなく、生活そのもの、さらには地域の人の生きがいまでを支える場所が必要だと考えたのです。ただ、既存のクリニックの枠組みではそれは難しいのが現実……。だからこそ、医療・介護・生活・地域づくりを融合させた複合拠点をつくりたいと考えているのです。これまで築いてきた人脈を生かしながら、新しい挑戦をしていこうと思います。
地域にとっての「なくてはならない存在」をめざして
先生がめざす複合拠点とは、具体的にどのようなものかお聞かせください。

クリニックはもちろん、医療型特定短期入所事業所や訪問看護ステーション、訪問介護ステーション、相談支援事業所、カフェスペース、駄菓子屋、農園、アニマルセラピー施設などがそろっていると良いですね。医療的ケアが必要な方、がんや難病などで残された時間が短いかもしれない方、大切な人を失って立ち直れない方、障害があるがゆえに思うように生きられない方などは、必要な環境が整っていないことを理由に地域から離れていく、あるいは離されていく現実があります。そうした方々が好きな場所で無理なく過ごすことができるような、医療介護のためだけの場ではない、「地域づくり」の場がつくれたらと考えています。
特に、医療的ケアが必要な方への支援について注力しているそうですね。
そうですね。まずはやはり、人工呼吸器が必要な医療的ケア児・者や超重症児を預かるような医療型特定短期入所事業所を、街中に設けることができたら良いなと考えています。医療型特定短期入所事業所を詳しく知らない人は、施設がどこか山奥にあるようなイメージをお持ちでしょう。そうではなくて、いろいろな方が生活している地域の中に施設を設けて、患者さんが普通に地域のイベントに参加したりカフェに行ったりする、そんな環境をつくりたいのです。患者さんにはずっと部屋の中にいて同じ景色を見ているだけではなく、外に出ていろいろな経験を楽しんでいただきたい。それが私たちの願いです。
先生が考える、地域にとっての理想の医療機関像を教えてください。

ガスや水道と同じ、「なくてはならないインフラ」になれたらと思っています。突然閉じてしまうことは許されない存在でありたいですね。そこに住む方々が生活していくために、楽しく生きていくために、何十年も何百年も先まで、ずっと同じく幸せに生きていくことを支える医療機関でありたいのです。そう考えた時、何百年でも地域医療を守っていけるような組織づくりが必要だと気づきました。実現をめざすと自然に、組織を大きくして、皆で力を合わせていくことになっていましたね。事業継続性を特に大切にしているからこそ、今のような形になったのだと思います。
皆で支え合えることを胸に、多様な事業に取り組む
地域の方が集えるカフェや畑も構想されているとお聞きしました。

先ほどお話しした複合拠点をつくるなら、職員や入所者、地域の方が集まれる場所もつくりたい考えています。健常者も障害のある方も同じ空間にいられる場所、がん末期や神経難病の方など、社会活動が閉ざされがちな方も一緒においしくご飯を食べられるような場所が理想ですね。また、大切な人を亡くされたご家族が思い出を語り合える集いの場として、写真館のようなスペースもあると良いと考えています。他にも、障害のある方も農作業に参加できる畑も作れたらと思っています。収穫した農産物で、皆でお酒を楽しむ、そんな豊かな暮らしの場を実現できたらうれしいです。
離島など、医療過疎地域への支援にも取り組まれているそうですね。
離島支援事業として、代診を行っています。離島で1人で頑張っている先生がいらっしゃいますが、その場合、365日ほぼ島から出ることができません。その先生の熱い思いに地域住民は支えられていますが、先生が疲弊しないようカバーできる体制がなければ、継続していくことは難しいでしょう。また、離島は人口減少社会の課題先進地域だと思っています。つまり、今この離島の課題に向き合わなければ、10年後、20年後の日本全体の地域医療を守ることができないとも言えるのです。このことから、離島のためはもちろん、将来の自分たちのためにも力を入れて取り組んでいます。今後は都会とへき地の医療人材循環システムをつくり、将来の人口減少社会における日本全体の地域医療の在り方を提案していきたいと思っています。
最後に、困難な状況にある患者さんやご家族へメッセージをお願いします。

本当に苦しくて苦しくてしょうがない状況にある方が、たくさんいらっしゃると思います。一人で、一家族で、狭い地域だけではすくい上げられないこともあるでしょう。私たちはそうした方々を見捨てないように、できるだけ救えるようにと頑張っています。このとき、大切にしていることは、苦しんでいる方がいることを正しく知ることだと思っています。人は知らないと冷たい態度を取ってしまいがちですが、知っていると優しくなれますからね。この考えを一人でも多くの方に理解していただき、苦しんでいる方たちのために一緒に歩む仲間になっていただけたらうれしいです。一人ひとりが当事者として向き合い、支え合える地域を皆でつくっていきましょう。そういう場所をつくることが、私たちのめざすところです。

