茆原 弘光 院長の独自取材記事
みらいウィメンズクリニック
(印西市/印西牧の原駅)
最終更新日:2026/08/07
北総線印西牧の原駅から徒歩8分の住宅地に、卵をモチーフにしたロゴマークが目印の「みらいウィメンズクリニック」がある。LDRや19床の入院個室を備え、多くの分娩を手がける同院の院長・茆原(ちはら)弘光先生は、代謝・栄養について専門的に研鑽を積んできた医師だ。研修医時代に重症の妊娠悪阻の患者と向き合った経験を原点に、現在は管理栄養士3人と連携して、妊婦一人ひとりに合わせて出産から産後までサポート。無痛分娩がまだ一般的でなかった頃から安全性を追求したお産にも取り組んできた。「地域医療とはそこにいることが一番重要」と穏やかに語る先生に、栄養指導と安全なお産を追求する姿勢、そして地域への思いを聞いた。
(取材日2026年7月24日)
妊婦を支える栄養研究のエキスパート
まずは先生が医師を志されたきっかけを教えてください。

私の父は鹿児島の獣医師で、牛の繁殖や生殖を専門としていました。この姿を見て生命が誕生する瞬間を支える仕事に強く興味を持ったことを覚えています。その経験が、医療の世界を志す原点になりました。進路を考える中で、「人の医療に携わりたい」という思いが強くなり、日本医科大学へ進学。卒業後は同大学の千葉北総病院産婦人科に入局し、14年間にわたって臨床と研究の両面に取り組みながら、産婦人科医としての基盤を築いてきました。
産婦人科の中でも栄養について研究することを選ばれた理由をお聞かせください。
産婦人科の中で栄養を専門にする医師は極めてマイナーな存在です。きっかけとなったのは、研修医時代に担当した重症の妊娠悪阻(つわり)の患者さんでした。体重が大幅に落ちて命に関わる深刻な状態でしたが、適切な栄養管理が不可欠であるにもかかわらず、当時の教科書には必要な栄養量や具体的な投与方法について十分な指針が示されていなかったのです。「なぜこれほど重要なことがわかっていないのだろう」という疑問を出発点に、妊産婦の栄養の管理を博士論文のテーマとして研究を進めました。さらに体格ごとの体重変化を統計的に分析してアルゴリズムを開発。現在は企業と連携して妊婦向けの体重管理ソフトとして広く活用されています。
その後、こちらで開業されるまでの道のりをお聞かせください。

大学で妊産婦の栄養を研究する中で、同じ栄養に関心を持つ先生からお誘いを受け、大学を退職して永井マザーズホスピタルへ移りました。分娩件数の多い施設で4年間、栄養指導と研究を両立しながら数多くの症例を経験。多くの経験をする中で、自分の手で一から診療の場をつくりたいという独立への思いが徐々に強くなっていきました。開業地に印西市を選んだのは、千葉北総病院に長く勤務していた頃から慣れ親しみ、地域医療に貢献したいと思ったからです。2011年12月に当院を開院し、現在は19床の入院個室を備え、地域の妊婦さんを中心に多くの方々の出産と子育てを支えています。
栄養指導と無痛分娩の両輪で安全なお産を追求する
当院の強みである栄養指導について教えてください。

これまでの研究成果は、妊娠糖尿病の管理をはじめ、妊娠から出産に至るまでの妊婦さんの健康管理に幅広く生かされています。一般的に、栄養指導は管理栄養士や看護師が担当することが多いですが、当院では私自身が診察の中で妊婦さんに直接お話しし、研究で得た知見をわかりやすくお伝えすることを大切にしています。また、管理栄養士が3人在籍しており、妊娠期間を通じて継続的にサポートできる体制を整えています。一人ひとりの体調や生活習慣に合わせて、きめ細かな栄養指導を行っているのが特徴です。さらに、日本医科大学千葉北総病院の内分泌内科医による専門外来を月2回実施し、より専門的な管理が必要な方にも対応できる体制を整えました。私たちは出産までではなく、産後のフォローアップも重視しています。妊娠中に身につけた正しい知識を産後もご本人やご家族に生かしていただくことで、母子や家族全体の健康につながると考えています。
無痛分娩にはかなり早くから取り組まれてきたと伺いました。
無痛分娩で用いる硬膜外麻酔は、研修医時代から大学の医局で経験を積んできた手技の一つです。その後、大学病院の麻酔科で研鑽を重ね、麻酔科標榜医の資格を取得。産婦人科と麻酔科の両方の知識と技術を生かせる体制を整えてきました。私が無痛分娩で大切にしているのは、「痛みを和らげること」だけではなく、医学的なメリットです。硬膜外麻酔によってお母さんの緊張が和らぎ、産道が開きやすくなることで、分娩がスムーズに進むケースも少なくありません。また、緊急帝王切開が必要になった場合でも、すでに麻酔が入っていれば迅速に手術へ移行できるため、安全面でも大きな利点があります。近年は無痛分娩への関心が高まり、当院でも希望される方が増えています。私たちは一人ひとりの状況や希望を丁寧に伺いながら、安全性を最優先に、安心して出産に臨める環境づくりを心がけています。
安全なお産のために特に大切にされていることは何ですか。

一番重要だと考えているのは、スタッフ教育です。無痛分娩の仕組みやメリット、想定されるリスク、そして万が一の際の対応まで。こうした内容を現場の全スタッフで共有することが肝心です。そのため開業以来一度も欠かさず、年に2回、午後の診療を休診にして医療安全講習会を実施しています。スタッフの入れ替わりがあっても常に同じ水準の医療を提供できるよう、同じ内容でも重要なものは毎回繰り返し伝えているんです。当院の新しい統計データや新たな課題への対応も、そこで共有するほか、無痛分娩の安全管理に取り組む全国的な組織にも加盟し、外部の講習会にも参加して知見を更新し続けています。
「いつもそこにいる」ことで、本当の地域医療を実現
日々の診療で心がけていることを教えてください。

一番大切にしているのは、患者さんに興味を持つことです。初診では問診から始めますが、話をしながらその方のキャラクターを読み取り、それに合わせて話し方や質問の仕方を変えています。機械的な問診だけでは得られる情報が限られますが、その人自身に興味を持って接することで、1しか得られなかった情報が10にも広がっていく。そうすると患者さんも心を開いてくださり、診療そのものがスムーズに進むんです。限られた診察時間の中でも、趣味や出身地、学生時代のスポーツの話など、診療とは直接関係のない話題にも少しふれるようにしています。そうした何げないやりとりの中から患者さんのことが見えてきますし、お互いにとって楽しい診療ができるようになると思っています。
診療以外に、地域に向けた活動にも取り組まれているのですか?
毎年11月に「みらい健康防災まつり」と題して、当院の敷地を開放し地域の方々に血圧測定や骨密度測定、医療情報の提供などを行っています。地域の行事として、妊婦さんだけでなく、ご年配の方にも来ていただいているお祭りです。近年は防災の要素も加え、災害時の食や授乳に関する情報発信や炊き出し体験、裏面が防災情報になったオリジナルカレンダーの作成・配布や、災害対応型自動販売機の院内設置などにも取り組んできました。また、園医を15年間務めるなど、産婦人科の枠を超えた医師会活動にも継続参加しています。地域医療というのは、口で言うのは簡単ですが、実践するのは難しい。ただ一つ言えるのは、地域医療とはそこにいることが一番重要だということです。いつもそこにいる、それに尽きると思っています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

もともとそれほどおしゃべりなタイプでもないので、「無口な先生」と思われることがあるようです。確かに滑舌がいいほうではありませんし、そう映ることもあるのかもしれませんね(笑)。ただ実際には、患者さん一人ひとりに興味を持って、電子カルテの情報とお顔の表情、そのすべてを見ながら丁寧に診察をさせていただいています。忙しいときでも話を省略することはしたくないですし、どなたに対しても平等に向き合いたい。いつもここにいて、どんな時でも耳を傾けるような医師でありたいと思っています。気になる症状や不安なことがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。

