上野 尚彦 院長の独自取材記事
上野内科・糖尿病内科クリニック
(神戸市中央区/元町駅)
最終更新日:2021/10/12

JR・阪急電鉄・阪神電鉄、3線の元町駅から徒歩1分というアクセスの良い「上野内科・糖尿病内科クリニック」。今や国民病といわれる糖尿病を専門に診療する上野尚彦院長は、学究肌のドクターという印象で、穏やかに応じ、わかりやすく説明をしてくれた。糖尿病は治療に根気がいる病気で、医師と患者の信頼関係が大切になるが「患者さんとともに、目標に向かって一緒に歩んで行きたい」と話す上野先生に、温かい人柄や専門医としての志しの高さを感じた。現在も勉強会などに積極的に参加し、新しい知識や技術の吸収を欠かさない成果が、日々の診療に生かされていることが大きな特徴だろう。読者へのメッセージには、糖尿病患者の病気の進行をくい止めたいという切実な思いが込められた。
(取材日2019年2月19日)
総合的に研鑽を積んだ後に糖尿病のスペシャリストに
糖尿病治療がご専門ですが、糖尿病に特化した研究の道を歩まれてきたのですか?

島根医科大学卒業後、神戸大学医学部第二内科に入局し、関連病院の国立神戸病院に3年間勤めました。国立神戸病院を選んだのは内科全般を偏りなく勉強できるからです。最初から専門性を求めるのではなく、まず総合的に内科を研鑽したいと思いました。その後、神戸大学に戻り、「脳腸ホルモン」の研究グループに入りました。脳腸ホルモンは、脳と消化管の両組織に存在する、生体機能調節に関与しているホルモンです。脳と腸にあるホルモンが体重や血糖値に影響していることに興味を持ち、「複雑な分野だけど研究したい」という意欲がわきました。並行し臨床も行っていましたので、さまざまなデータが集積されると研究もさらに進むという状況で、貴重な経験を積むことができました。
アメリカに留学されていましたが、どのような研究をされたのでしょうか。
神戸大学での研究室の上司の紹介で、米国フロリダ大学医学部にニューロサイエンス学科博士研究員として受け入れてもらいました。研究テーマは、糖尿病・肥満に関する遺伝子治療です。直接患者さんを診ることはありませんが、遺伝子治療の研究成果を論文にまとめました。約4年間の留学を終え帰国し、関連病院で糖尿病専門の医師として勤務。しかし、糖尿病は合併症を伴う病気で、血管・神経・各臓器に悪い影響を及ぼすことから、脳神経・腎臓・内分泌・循環器・消化器など全身を診る必要があります。それで、糖尿病だけでなく、日本内科学会の総合内科専門医の資格も取り、全身を診る知識を持って診療にあたっています。昨今は内科も細分化していますが、研修医として内科全般を学んだ経験を生かし、患者さんの立場に立った診療をしたいと思っています。
開業の経緯を聞かせてください。

開業前に勤めていた神戸マリナーズ厚生会病院で担当させていただいていた多くの患者さんからご要望をいただき、すぐ近くに8年前、開院しました。当初は、不慣れなことも多く四苦八苦しましたが、納得のいく診療スタイルが実現できるようになり、いろんな方の助けを借りながら続けてきました。臨床だけでなく研究や学会発表も継続しています。
糖尿病の早期発見・早期治療の大切さを発信
糖尿病が増えているといわれています。現状はいかがですか?

糖尿病人口は増加の一途をたどっています。2016年の国民健康・栄養調査によると日本全国に強く糖尿病が疑われる人が1000万、糖尿病予備軍が1000万と推測され、合わせると2000万人に上ります。40歳以上の3人に1人が糖尿病または予備軍ということになります。また、2011年の国際糖尿病連合が発表したデータでは、日本の糖尿病のみの人口は1067万人に上り、糖尿病人口の世界ランキングワースト第6位でした。主な原因は、食の欧米化で動物性脂質をより多く取るようになり、1日の摂取カロリーが増えたこと、そして生活の活動量、運動量が減ってきたことです。そうすると、食事をして上昇した血糖値を下げるホルモンのインスリンの働きの低下、さらには分泌不全、作用不足を起こし、高血糖の状態が続くと糖尿病を発症します。
糖尿病にならないためにはどうすればいいのでしょう。
定期的に健康診断を受けていても「血糖値が少しくらい高くても大丈夫。そのうち治る」と判断している方がおられるようです。その状態はすでに糖尿病予備軍です。予備軍を放置すれば半数は糖尿病になります。「少し高い」段階で治療を開始しなくてはいけません。その意識が浸透するよう、重要性を発信していきたいと思います。治療を始めるのが早ければ早いほど予後が良いことがわかっています。高血糖の症状として倦怠感や体重減少、口渇感と多飲、多尿などが出現しますが、治療によって高血糖が是正されるとこれらの症状は改善されていきます。両親や兄弟に糖尿病の方がいらっしゃる中高年の方や肥満気味の方、他の生活習慣病を指摘されたことがある方は定期的に健診や検査、そして人間ドックを受けていただきたいですね。
どんな方が通っていますか? 患者さんとの接し方で気をつけられていることも教えてください。

糖尿病、生活習慣病は中高年で多く発症しますが、最近では若年発症も増えています。周辺がオフィス街なので、40代~60代といった比較的若い方が来られています。患者さんとは、ほとんど一生のお付き合いになりますので、医師が一方的に指導するようなことをすると、患者さんはストレスがたまり治療を続ける意欲を失います。関係性を良好に保たなくてはいけません。治療についても細かく指導したいのですが、あれもこれもアドバイスするとかえってやる気を削ぎます。診療の際には毎回受診時に、何か患者さんのプラスになるポイントを一つお伝えして実行していただきたいと考えています。例えば、帰宅が深夜になるという場合には、「職場でおにぎりだけでも食べて、帰宅して少なめに食事をしましょう」など。患者さんのモチベーションを保ちながら、目標に向かって一緒に歩むというスタンスでいたいですね。
患者にヒアリングを行い、生活環境に合わせて指導
糖尿病治療において重要なことは何でしょうか。

合併症が進んで生活の質が落ちるのを防ぐために治療を続けることです。糖尿病の治療は、合併症の発症を予防すること、合併症の進展を抑えることに尽きます。症状がなくなると来られない患者さんがいますが、定期的に通院する必要があります。合併症があるのかないのか、あればどの程度進んでいるのかを発見して、すぐに糖尿病の治療を始めることが大切です。そのため、血液検査の結果が即日にわかる機器や動脈検査が簡単にできる機器などを導入しています。肝臓や膵臓のがんのリスクも高くなるので、腹部エコーも不可欠です。現在スタッフは受付2人、看護師1人、管理栄養士1人、検査技師3人で、サポート体制を整えています。
運動方法など、患者さんにアドバイスされることもあると聞きました。
加齢とともに筋力・筋肉量が落ち糖代謝も悪くなるので、患者さんにはウォーキングの他に筋肉に負荷をかけるスクワットのような軽い筋トレを強く勧めています。私自身は、スポーツが好きで、小学校の頃は野球と陸上短距離、中学・高校生の時はサッカー部、大学では空手部に入り黒帯を取りました。ですので、今でもウォーキングと筋トレは継続しています。今後も自分自身の経験の中から、患者さんに還元できるものがあればお伝えしていきたいと考えています。
読者に向け、メッセージをお願いします。

働き盛りほどストレスが多いものですが、ストレスが多い生活を続けると体のどこかに歪みがでてきます。過食や飲酒過多にもなりやすく要注意です。そして、定期健康診断を受けて、その結果が少しでも悪ければ早く受診するように家族で気を配っていただきたいですね。職業・食事内容・運動量・間食の習慣などをヒアリングし、可能な範囲で生活習慣の見直しをお願いしますが、クリニックで無理な生活指導をすることはありません。一律的な治療指導ではなく、個々の生活様式にあわせた治療を行っています。患者さんの努力で少しでも成果が上がれば必ず喜びを共有するようにしています。待合室も、ぬくもりのある色味を使って、明るく元気が出るような雰囲気にしていますので、お気軽にお越しください。