宮永 禎子 所長の独自取材記事
英診療所
(江戸川区/新小岩駅)
最終更新日:2025/07/04
地域に根差す医療の提供をめざし開院した「英診療所」は、住宅と町工場が混ざり合う東京都江戸川区中央3丁目に位置する。一歩中に足を踏み入れると、広々とした待合室には通りに面したガラス窓から明るい光が降り注ぐ。院内はバリアフリーで、発熱患者専門の外来のための待機室も設置。2014年より所長を務める宮永禎子先生は、消化器内科が専門分野。地域の高齢化に合わせ、認知症患者への対応や訪問診療にも力を注ぐ。困っている人を取りこぼさないように、常に地域の患者の変化に目を配る心強いホームドクターだ。「一つの症状だけを診るのではなく、生活背景も含めたその人全体を診ることを主眼としています」と語る宮永所長に、診療する上で大切にしていることなどについて話を聞いた。
(取材日2025年3月6日)
病名のつかない体の悩みにも漢方でアプローチ
こちらのクリニックの特徴をお聞かせください。

当院は内科を中心としたクリニックで、内科全般、消化器内科、泌尿器科、認知症専門の外来に対応し、生活習慣病や禁煙、睡眠時無呼吸症候群の治療にも注力しています。患者さんは近隣に住む高齢の方が多いため、当院ではプライマリケアを含め、地域のかかりつけの役割を担いたいと思っています。その流れでクリニックに通えなくなった患者さんに対し、訪問診療も実施しています。高齢の患者さんは突然体調が悪化する恐れがあるため、一人暮らしかご家族と同居か、連絡の取れるキーパーソンはどなたかなど、何かあった際に迅速にフォローできるよう、患者さんの情報を明確にしています。また、私の専門が消化器内科ですので、内視鏡検査、超音波検査も行っています。
漢方薬を積極的に取り入れているそうですね。
はい。診察時に悩みや不安を打ち明けることで体調の変化につながる症例を多く見てきて、不調には「病名のつかないものや不安感が誘発するものが多くあるな」と感じていました。そのような時、漢方薬を処方すると有用ではないかと感じることが多いですね。漢方薬は種類により服用を開始してから有用性が現れるまでの期間もさまざまです。更年期の症状や泌尿器関連は数週間、気象病といわれる種類の頭痛は即日、また足がつるなどの場合は1~2分で改善につながると考えられています。高齢の方の不安・不眠に対する漢方薬もあります。漢方薬は体質改善までは望めなくとも、体質を良い方向へ変化させることが見込めるのです。一方で漢方薬は粉薬が多く、人により好き嫌いもあるものなので、合わない方には無理にお勧めはしていません。
生活習慣病に関係がある睡眠時無呼吸症候群も診ていらっしゃるそうですね。

睡眠時無呼吸症候群とは睡眠中に呼吸が止まることにより日常生活にさまざまな障害を引き起こす疾患です。高血圧の原因になることも多く、社会的な問題になっています。生活習慣病との関係性があるため、当院では睡眠時無呼吸症候群が疑われる方には問診をした後、ご自宅でできる簡易検査を受けていただいています。睡眠が改善されると血圧も下がることから日中のパフォーマンス向上も期待できます。日中の眠気を引き起こす原因にもなるため、タクシー会社の方々の企業健診でも注視しています。呼吸器内科専門の先生も在籍しているので、治療が必要になった際にも当院で治療を受けていただけますよ。
地域の医療機関と連携し急変にも対応
所長になられて11年目を迎えます。変化したことはありますか?

まずは患者さんがご高齢になられたということでしょうか。それに伴い緊急の事態も増えたので、患者さんのご自宅に伺うことが多くなりました。そういった際、スタッフも迅速に動き、車を出してくれるので本当に助かっています。患者さんが施設に入ることもありますし、最期を看取ることもあります。ご高齢の方は突然具合が悪くなることがあるので、その際には二次救急に対応している医療機関に患者さんをつなげています。江戸川区は医療機関が多いので、患者さんの症状に合わせて紹介しやすいんです。また、カルテの電子化に伴い、患者さんの情報に関して、ドクターだけでなくスタッフも書き込みや閲覧ができるようになりました。持ち運びができる点も助かっています。何かあった時に備え、患者さんの情報を常に更新しながら、クリニック全体で共有できることは大きなメリットですね。
患者さんと接する時、心がけていることはありますか?
こちらが診療に必要なことだけを聞くのではなく、患者さんが本当に伝えたいことや思っていることに耳を傾けるという姿勢は昔から一貫しています。「薬が欲しいのか」「検査をしてほしいのか」「話を聞いてほしいのか」など、患者さんの求めていることをよく聞くように努めています。また、ご高齢の方にとって予防はとても大切ですが、予防には患者さんご本人の自覚が必要です。患者さんご自身が自覚し行動に移せるようになるまで、かなりの時間がかかることが多いでしょう。そのための説明や話し合いの時間は、それなりに取れていると思います。
医師をめざしてから今日までの歩みを教えてください。

医師になったきっかけは、父親が消化器外科の医師だったので、その影響があったと思います。大学の医学部を卒業後15年以上の間、10ほどの医療機関で勤務し、経験を積みました。その後2014年に当院の所長になり、現在に至っています。私が医師になった時、近い将来に高齢化が進むことは明らかでした。そうなった時にかかりつけとして頼られる医師でありたいという思いから、プライマリケアに関する知識をつけました。プライマリケアとは、患者さんを多角的・総合的に診療することです。患者さんの一つの病気だけを診るのではなく、家族背景も考慮しつつその方を全般的に見て、何が重要かを見極めます。優先順位を決めてその患者さんの全体を診ていけるような診療を続けていきたいです。
一人ひとりの背景を考慮しながら望む着地点をめざす
高齢化が進む中、これからめざす方向をお聞かせください。

高齢化が進み、ここ数年でACP(アドバンス・ケア・プランニング)を意識せざるを得ない状況になってきました。ACPは「病気になった時にどのようなことを大切にして治療したいか」「どのような最期を迎えたいか」などの希望を話し合うことです。本人とご家族とを交えて話し合うことが理想的です。皆さんご家族や経済状況など背景はさまざまですので、病気が見つかっても誰もが治療を希望されるとは限りません。患者さんの背景を総合的に鑑みて、その方にとって良いと思える地点に着地できることが目標です。また、具合が悪くなると足腰の衰えから、気力や判断力も低下しがちになります。一人暮らしの方も多いので、いざという時に困らないよう、介護保険の申請方法や使い方の指導、デイサービスの紹介もクリニックで行っています。これらも含め、困った時速やかに対応できるようこれからも邁進していきたいと思っています。
認知症にも対応していらっしゃいますね。
認知症専門の外来には、ご本人が「何か変だな」といった自覚症状により認知症の検診を受けに来る場合や、物忘れが進んだ患者さんを連れてご家族が駆け込んで来る場合もあります。認知症は進行するとトラブルを起こしたり、夜中に出歩いたりなどの症状が出ることもあるのです。発症時の「今、困っている」に対応するため、当院がまず窓口になれるよう努めています。認知症の疑いのある患者さんの話はじっくりと聞く必要があるので、30分から1時間ほどかけ、必要に応じて認知症をより専門としている医療機関を紹介しています。また、不安の強さから認知症に似た症状を発症する場合もあります。認知症か否を判断するには精密検査が必要なので、専門の医師に診てもらったり、提携している医療機関でMRIを撮影したりして判断します。周りの方の「本人を一人にしておけない」「仕事に行けない」などの困り事をなくすように努めています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

風邪などを含め、どんな困り事でもお気軽に来ていただければと思います。ご家族についてや、近所の一人暮らしの方が具合が悪そうにしているなど、ご本人以外の相談も受けつけています。これからも、地域に根差した医療機関として、役割を担う診療所であり続けたいと思っています。

