冨田 大一 院長の独自取材記事
おはよう歯科
(名古屋市港区/東海通駅)
最終更新日:2023/04/21

港区南十一番町の住宅街の一角にある「おはよう歯科」。入口には信楽焼の大きなフクロウの置物が出迎える。地域の人々に親しまれるクリニックをめざして7年目。早朝から開院し、前夜から痛みを抱えたり詰め物が取れて出勤前になんとかしたいという人の助けになっている。また、開院当初から続ける訪問診療も地域の高齢者にとって心強い要素。「通院できなくなった後も診ていきたい」と語る冨田大一院長は、昼休憩を30分で切り上げて午後の訪問診療へと向かう。朝から次々と診療をこなす頼もしさは、学生時代に柔道やラグビーで鍛えた立派な体格にも重なるが、「やってることは普通です」と、その体格に似合わず謙虚な発言。インタビューからは謙虚さの中にも高齢者を思いやる優しさが垣間見えた。
(取材日2017年7月26日)
「おはよう」のあいさつとともに朝、8時から診療開始
おはよう歯科という院名はどうしてつけられたのですか?

私が早起きなのと、「おはよう」というあいさつは気持ちが良く、親しみのある言葉だということで、この名前に決めました。私は早朝3時頃に起きて筋力トレーニングするのを日課にしています。タイトルに「おはよう」とついたニュース番組をよく見るので、それもヒントにさせてもらいました。朝から体を動かした後、すっきりした気持ちで出勤します。診療は8時からなので、前の晩から痛みが出た方やお子さんを幼稚園や学校に送った帰りに来るお母さんなどに喜んでいただいています。高齢の方も早起きの人が多いので、8時の予約の割合は多いですね。前夜から痛くて困っている方や夜に詰め物が取れて学校に行く前になんとかしたいというお子さんなどがあれば、できるだけ早く診られるよう臨機応変に対応しています。
患者さんはどんな年齢層が多いですか?
当院の患者さんは半分以上が高齢者で、近所の方がほとんどです。高齢者に対しては、訪問診療もしているので、通えなくなっても在宅医療が受けられるという安心感もあるのかもしれません。残りの半分は、サラリーマン、主婦、お子さんなど一般歯科の患者さんですね。
どんなクリニックをめざしていますか?

私の実家は接骨院で、子どもの頃から身近にあった医療に携わりたいという思いから歯科医師になりました。実家の近くで地域の方々から親しまれるような歯科医院をめざして開業し、7年が過ぎました。近所の方々や父の接骨院の患者さんなども通ってくださり、町のかかりつけ医になりつつあると思っています。私自身、専門性があるわけではないですし、言ってみれば普通なんですが、患者さんから喜ばれ、信頼してもらえることがまず第一。心がけているのは、患者さんの話をきちんと聞いて、それぞれのメリットデメリットを含めた説明をしながら相談し、希望に添った治療をすることですね。
こんな未熟な自分でも人に感謝してもらえる
開院当初から訪問診療をされているということですが、始めることになったきっかけは何ですか?

勤務医の頃に在宅医療に携わったことがきっかけです。歯のクリーニングをしたり、入れ歯の修理をしたり、話をしたりと、大したことはしていなかったのものの、訪問のたびに喜んでいただけました。若い頃はそれ程技術もないですし外来で感謝されるということも少なかったのですが、訪問診療では、こんな未熟な自分でも感謝されるんだという経験を得ました。その経験から訪問診療が好きになり、今は、若い頃に往診の経験ができて良かったなと思っています。自分が高齢になったときを思い浮かべながら診療していると、その患者さんの気持ちになれるんです。誰かのラストステージに関わる責任を感じつつ、最期まで支えることのできた達成感を感じます。いずれ自分も誰かの世話になるのだから、不自由なく動ける今は、患者さんの助けになりたいですね。
訪問診療では、具体的にはどんなことをしているのですか?
訪問診療車5台にポータブルレントゲンや歯石取り、歯を削る機器等を積んで移動します。私を含めて6人の歯科医師と歯科衛生士で、患者さんのスケジュールに合わせられるように体制を整えています。在宅医療を受ける患者さんは、主治医の先生、ケアマネジャーさんを中心に、訪看、リハビリ、ヘルパーさん等いろいろな方が訪問に伺うので、意外とスケジュールを組むのが難しいのです。なので、フレキシブルに対応できるように外来は午前中を中心にして、12時30分以降夕方までを訪問診療の時間にあてています。
機器の発達によって訪問でも可能な治療が増えているのですね。一方で苦労される面もあるのでは?
在宅医療においては、歯科だけの問題ではないので、主治医の先生、ケアマネジャーさんを中心に多職種がどう連携をとるかという難しさがありますが、それがやりがいでもあります。院内治療だけなら歯科の知識がほとんどです。でも、医科の中の歯科という捉え方をすればいろんな勉強ができるので自分にとってもいいことだと思っています。少しでも患者さんの助けになればと思い、私もVE(嚥下内視鏡)の勉強会などに参加したり、また朝日大学摂食嚥下リハビリテーション学の教授のもとで学んでいます。
口腔内だけではなく、広い領域の知識が必要なのですね。

高齢になるにつれ、筋肉が衰え、神経の反射が鈍くなってきます。例えば、飲み込みの際、誤嚥し咳き込まれる方がいます。これは、嚥下機能の衰えです。嚥下の一部分は歯科の領域ですが、一連の流れとして、耳鼻科や脳神経外科、内科が関わってきます。施設に行くと摂食嚥下の問題を相談されることも多く、「食べられないのは口の問題ですか」と聞かれたりします。そういう事例一つとっても、歯科で請け負うことができるかどうかを精査するための勉強は欠かせません。「歯科は問題ないけど、耳鼻科はどうですか?」と専門の先生にお伺いを立てられるよう、他の科とのかけ橋になれればと思っています。自分に手が負えないところは、きちんとご紹介できるようになりたいですね。
歯科医院に通えなくなった患者も責任を持って診療する
訪問診療もあり、多くのスタッフの協力が必要になると思います。スタッフ教育はどうされていますか?

歯科医師以外のスタッフは、現在23人在籍していますが、そのほとんどが子どもを持つお母さんなので、シフトを組んでパートで勤務してもらっています。大人数のシフトは少々大変ですが、子どもの病気で出勤できなくなったときにも補い合いながら働いてもらえるので、この形に落ち着いています。歯科医師である私には話しにくいこともスタッフになら言えるという患者さんもいらっしゃるので、できるだけ患者さんとコミュニケーションをとって気持ちがくみ取れるようになってほしいです。患者さんから言っていただく「アットホームな雰囲気ですね」という言葉はうれしいですね。
ところで、先生はトレーニングが日課だとおっしゃっていましたが、何かスポーツをされているのですか?
学生時代は、柔道、ラグビー、野球などをしていましたが、今は子どもが小さいので、家族が寝ている早朝にトレーニングジムに通うだけです。実は来年、ボディービルの大会に出場しようかと考えています。ここで言ってしまったら、後には引けないですね(笑)。現在ボディビルダーの選手として活躍する中学時代の友人が港区でパーソナルジムを開いたので、私も触発され、そこで互いに切磋琢磨して鍛えています。
最後に、今後の展望についてお聞かせください。

当院に通ってくださる患者さんに対して責任を持って最期まで診療していきたいと思っています。高齢化が進んでいるので、今後も訪問診療は必要不可欠だと考えています。私以外の歯科医師はみんな訪問歯科医師として活躍してもらっていますし、なんとか時間のやりくりをしながらスタッフと協力して対応していくつもりですので、通院できなくなってもお口の健康は任せていただきたいと思います。