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荻野 尚 センター長の独自取材記事

メディポリス国際陽子線治療センター

(指宿市/指宿駅)

最終更新日:2021/10/12

荻野尚センター長 メディポリス国際陽子線治療センター main

切らずにがん治療を行っていく放射線治療の中でも、近年注目を集めているのが「陽子線治療」。指宿市の見晴らしの良い高台に2011年1月、粒子線治療専門施設として誕生した「メディポリス国際陽子線治療センター」は、県内のみならず、全国各地から訪れるがん患者に対し、陽子線による治療を実践している先進のがん治療施設だ。豊かな自然に囲まれた東京ドーム約73個分という広大な敷地内で、県内在住の患者なら、仕事を続けながら通院で治療を受けたり、隣接のリゾート型ホテルを治療中の滞在先として利用したりできることも大きな特徴となっている。設立当初から関わり、2017年より現職となって最前線で牽引している荻野尚センター長に、陽子線治療や診療にかける想いについて話を聞いた。

(取材日2020年8月7日)

低侵襲の「切らないがん治療」。先進医療で地域に貢献

国内でも数少ない陽子線治療専門施設。広大な敷地のこの場所にどのような経緯で開業されたのですか?

荻野尚センター長 メディポリス国際陽子線治療センター1

こんな山の中に、とよく驚かれるんですよ。ここには以前、年金保養施設「グリーンピア指宿」がありまして、その敷地と建物の一部を転用しているんです。荒れ果てていた広大な土地の「有効活用を」と地元の要望を受け、「それなら先進医療の陽子線治療を地域に提供しよう」と、鹿児島県や鹿児島大学の支援を得て、2008年に跡地再開発事業として起工。2011年に粒子線治療専門施設として治療を開始しました。私自身は長年放射線治療を専門にしていまして、国立がん研究センター東病院では医療専用陽子線治療施設の設立にも携わりました。これまでのエックス線を使った治療と陽子線治療の差を痛感したことから「これからは陽子線一本でいこう!」と決め、メディポリス国際陽子線治療センターの設立に伴って移籍しました。

陽子線治療とはどのような治療なのですか?

陽子線治療は、放射線治療の一種です。放射線治療に使われる「エックス線」は、診断に使われるレントゲン写真でもわかるように、体内を通り抜ける性質を持っています。がん細胞を攻撃すると同時に、病巣の手前の正常な細胞にも、病巣の向こう側の組織にもダメージを与えてしまう可能性があるため、副作用や新たながんを誘発するというリスクもあるわけです。一方、陽子線は、放射線量が少ない状態で体の中に入り、ある一定の深さで止まるのですが、この止まる寸前のところで最大のエネルギーを放出します。陽子線が止まる深さはがんの形に合わせて自在にコントロールが可能で、エネルギーを放出した後はそれより先には進みません。つまり正常な細胞にはほとんど影響なく、ピンポイントでがん細胞に対して到達させてダメージを与えていく治療法なのです。

陽子線の特性のほかにどんな治療メリットがありますか?

荻野尚センター長 メディポリス国際陽子線治療センター2

照射といっても、治療中の痛みや熱さを感じることがありません。それぞれの治療計画によって照射の回数は8〜38回と異なりますが、基本的には平日に1日1回の治療で、約15〜20分程度。照射によって体がだるくなるようなこともなく、ご自分の運転で通院する方も多いですね。午前中治療を受けて午後からは職場に戻ったり、ホテルに滞在されている患者さんの場合は釣りや温泉を楽しまれたり、自由に過ごしておられますね。入院の必要がなく、日常をちょっと変えるだけでがん治療が受けられることが喜ばれています。もう一つ、小児や若年者の二次発がんや、高齢者や持病があって手術を諦めていた方に対しても適応することも、陽子線治療の大きなメリットだと言えるでしょう。

保険適用が増え、さらにニーズが高まる陽子線治療

どのようながんでも治療対象になるのですか?

荻野尚センター長 メディポリス国際陽子線治療センター3

残念ながら、すべてのがんが陽子線治療の対象ではありません。「ここ」と定めて照射するため、胃や大腸など不規則に動く消化管のがんや白血病のような血液のがん、複数のリンパ節に転移のあるがんは治療の適応になりません。現在当センターでは、鼻腔や副鼻腔、唾液腺などの「頭頸部腫瘍」、「前立腺がん」、脊索腫、軟骨肉腫、骨肉腫などの「骨軟部腫瘍」、「小児がん」、肺、肝臓、胆管、腎臓、食道などの原発性がんを治療対象としています。当センターは先進医療の実施医療機関ですので、先進医療の範囲内の治療については患者さんに陽子線照射の実費をご負担いただいていますが、治療の有効性が示された「頭頸部腫瘍」「前立腺がん」「骨軟部腫瘍」「小児がん」は、保険の適用となり、治療費負担が軽減されたことで身近な治療の選択肢となっています。

特に前立腺がんの治療件数が増えていると聞きましたが、その理由は?

前立腺がんは近年、男性のがん罹患率で上位に入るなど、増加しているがんです。 早期発見であれば手術療法、放射線療法、内分泌療法など、治療の選択肢が多いがんの一つといえるのですが、治療によって前立腺の周囲の神経や筋肉が傷ついたり、男子ホルモンへの影響で合併症が起こる可能性があります。特によくみられるのは「尿漏れ」と「勃起障害」で、これらは生活していく上で問題となり、患者さんを悩ませることになります。近年、保険適用となったことも大きいのですが、何より治療中、治療後を通して、QOL(生活の質)を落としたくないと考える多くの患者さんが陽子線治療を選ばれています。

診療の際に心がけていらっしゃることはありますか?

荻野尚センター長 メディポリス国際陽子線治療センター4

保険診療や先進医療といえどもすべてのがんが治るわけではありません。期待をして来られる方にも「残念ながら陽子線治療には向いていません」と、その理由もきちんとお話して、納得していただくこともありますし、適用になる患者さんだとしても「あなたの場合には8割位しか治せないかもしれないです」と、可能性を伝えることも大事だと思っています。大切なのは患者さんの気持ちに沿った治療を行うこと。正しい情報をしっかりと伝え、納得していただくことでご本人も治療に向かっていけるのではないでしょうか。当センターのドクターたちはご覧のようにカジュアル。気軽に話していただけるよう、医師らしくないスタイルにしているんですが、患者さんのほうも実に自由で、患者らしくないんですよ。

その先の人生のための「切らずに治すがん治療」

印象に残る患者さんとのエピソードをお教えください。

荻野尚センター長 メディポリス国際陽子線治療センター5

患者さんの中には、別の医療機関で手術を勧められた方や、治療手段がないと言われた方も多くいらっしゃいます。東京からの中咽頭がんの患者さんの例では、診断の結果、「手術をするか、抗がん剤とエックス線治療をやるしかない」と言われ、ご本人は講演など、声の仕事をされていたこともあり、「声が変化したり、出なくなるかもしれない治療は避けたい。何か治療法がないものか」と全国36ヵ所の病院を回られたそうです。37番目がここ。「病院を自分で選んでよかった、僕の選択肢は間違っていなかった」と喜ばれたことはもとより、患者さんのその先の人生のお手伝いができていると感じられることが、医者冥利に尽きますね。

リフレッシュのために楽しまれているご趣味はありますか?

小学校から大学まで陸上競技一筋でしたので、趣味といえば走ることでしょうか。休みとなれば、必ずランニングをしていたのですが、膝をケガしてしまいまして、現在はリハビリ中なんです。でも、じっとはしていられないので、膝を補強しつつ、2時間のウオーキングを楽しんでいます。とはいえ1時間で6km歩きますから、結構ハイペースですよ。実は、指宿には千葉に住んでいる頃から、マラソン大会で何度も訪れているんです。アップダウンの多いコースも、沿道の皆さんとのふれあいも、完走後の温泉も気分が良くて、指宿は私にとって親しみある土地だったんです。それが今こうして仕事しているわけですから、深いご縁を感じますね。

今後の展望や読者へのメッセージを聞かせください。

荻野尚センター長 メディポリス国際陽子線治療センター6

開設以来研究を進めてきた「早期乳がん」は自由診療での治療が始まりました。今後も陽子線治療の新しい適応に関する研究への挑戦を進めていきたいですね。がん治療法は年々進歩し、さまざまな治療法が選べるようになりました。陽子線治療も決して特殊な治療ではありません。まずは「こういう治療もある」ということを知っていただき、「今の治療法でいいのだろうか」「ほかに選べる治療法はないのだろうか」といった不安を持たれているなら、主治医の先生に相談してみてください。センターでは主治医からの紹介状や資料をもとにセカンドオピニオンを実施しています。すぐに検査や治療を行うことはありませんので、詳しくはお問い合わせください。

自由診療費用の目安

自由診療とは

陽子線治療技術料(治療部位1ヵ所)/314万円(税別)

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