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盛次 義隆 院長の独自取材記事

Dr.盛次診療所

(伊予郡松前町/松前駅)

最終更新日:2021/10/12

盛次義隆院長 Dr.盛次診療所 main

国道56号線と伊予鉄道群中線が縦貫していて交通の便も良く、松山市のベッドタウンである松前町に2007年に開業した「DR.盛次診療所」。内科・精神科を標榜し、外来診療に加え、24時間365日体制で在宅医療に取り組んでいる。そんな同院で患者ととことん向き合う診療を続けているのが盛次義隆院長だ。大阪出身だが、愛媛大学医学部を卒業してからも愛媛にずっと根を下ろし、医療の道を歩んでいる盛次先生にたっぷりと思いを語ってもらった。

(取材日2019年10月31日)

社会的弱者をサポートしたい、という思いの芽生え

医師を志した理由は何ですか? 専門分野として精神科を選んだ動機についても教えてください。

盛次義隆院長 Dr.盛次診療所1

私はスーツを着てネクタイ締めて、というのは苦手なので、自由業がいいと思って医学部に入りました。精神科を専攻することになったのですが、そのきっかけというのが、大学の授業で旧優生保護法のことを知ったことだったんです。1948年から1996年まで施行されていた旧優生保護法は、本人の同意がなくても、障害のある人に中絶や不妊手術をさせることが可能な法律で、障害者の立場がとても弱かったんです。授業で「精神に障害がある人が出産を希望したら医師としてどうするか」ということが議題に挙がった時、ある教授が出産に異を唱えたんです。教授の考え方に違和感を感じましたが、自分自身これまで障害者とまったく関わらないで生きてきたので、あらためて確認するという意味で、医学部の近くにあった重度心身障害者病棟のある療養所を訪ね、それを機に、学内外でいろんな活動を始めるようになったんです。

重度心身障害者病棟のある療養所の訪問がきっかけとなったんですね。

はい。療養所で私が見たのは、ショックの大きなものでした。入所者は皆隔離され、職員たちも入所者の訴えに耳を傾けないように見えました。脳性まひ者による障害者差別解消を訴える運動も盛んに行われていた頃でもありましたので、私たちも「外出しよう、差別をなくそう、みんなで街に出て行こう」と活動を始めたんです。車いすのままで旅行に行っても、当時はまだどこもバリアフリーではありませんから、移動するのもひと苦労でした。電車に乗るにも改札を通れないので車いすを持ち上げて通ったり、車いすも手荷物料金がかかると言われたり、大変な思いをしました。あと、松山精神病院(現・松山記念病院)に面会に行って、精神に障害のある人と身体に障害がある人が一緒に活動できるよう橋渡し役もしました。そんな活動をしていたから、あんまり学校には行っていませんでしたね(笑)。

そこからこのクリニックを開業するに至った経緯を教えてください。

盛次義隆院長 Dr.盛次診療所2

研修医時代にいろんな体験をしたんです。最初に研修で入った精神科病棟には空調設備がなく、夏は暑く冬は寒い。言うことをきかない患者さんを看護師が叩いているのを目にしたりもしました。それらのことに対して意見すると、逆に職員を信じていない私が悪いというふうになってしまって、結局辞めることになりました。縁あって支援してくださる先生のもとで、高齢者の医療に携わるようになり、内科や外科の研修を受けました。その後は松前病院で15年間、整形外科や外科の手術も経験。そうしているうちに、医療情勢の変化とともに、将来、中小の病院は介護保険の関係で介護病棟化するのではないかと考えるようになり、それなら自分でやってみようと思い、なじみの患者さんも多い松前町で開業することに。松前は山も海も近いし、魚がおいしいし、渋滞もない。もともと魚は苦手でしたけど、愛媛に住んで大好きになりましたよ。

24時間365日体制の在宅医療を提供

24時間365日体制の在宅医療は開業当時から行っているのですか?

盛次義隆院長 Dr.盛次診療所3

開業当時から力を入れています。というのも、入院すると、患者さんはベッドの上で何もすることがないため体の機能が落ちていってしまうんです。その点、在宅医療の場合は、多少不便でも自分で生活をするために動こうとしますから、身体機能が落ちることが少なくなります。病院でないと無理なこと、例えば、放射線治療や手術は病院に入院してからでないとできませんが、それ以外の治療やケアは在宅で行うことができますし、そのほうが断然いいと私は思っています。当院の場合は、スタッフの協力があってこそ在宅医療に取り組めていると思っています。

先生が診療で大切にされていることはありますか?

弱い立場の人たちの味方をしないといけないと思っています。コンセプトは「嘘はつくな。弱い者いじめをするな。自分に負けるな」ということです。

病気や障害がある患者さんと接していて思うことは?

盛次義隆院長 Dr.盛次診療所4

強制はできないけれど、後悔することがない範囲で治療の押しつけをする、ということです。自閉症の患者さんが強い貧血を起こした時に、放っておいてと言われたり、もう死にたいから楽に死ねる薬が欲しいと言われることもあります。また、躁うつ病の人が躁状態になって、お金使いが荒くなるし、お酒も飲むし……、となったケースでは、後になって「先生、その時止めておいてほしかった」と言われたことも。こういうことを通して、患者さんとの接し方を考えてきました。総合病院で心臓の冠動脈の手術が必要と言われたのに、手術はしたくないと帰ってきた人には、「おばちゃんには生きててほしいから手術して」とお願いしたり。頑固になっている人には理屈は通用しないから、感情で訴えることもありますよ。強く押すべきところは強く押す、それも医師の重要な役目だと考えています。

医療の面だけでなく、生活面、経済面をサポート

これまでの医師人生を振り返られて思うことはありますか?

盛次義隆院長 Dr.盛次診療所5

勤務医の頃と今では、考え方が変わってきたな、ということです。勤務医だった頃は終末期の患者さんを治療することが多かったんですね。心臓が止まったら心拍を再開させたり、人工呼吸で蘇生させたり、そういうことをしていましたし、食べられなくなった人に胃ろうをしたりもして、少しでも長く生きられるように医療を提供していました。しかし今は、「無理な延命はしない」というのが私の考えです。こうした延命治療を果たしてどれだけの人が望んでいるのでしょうか。管からではなく、ちゃんと自分の口から物を食べ、その人らしく最期まで生きてもらいたい。それが多くの患者さんと向き合ってきた今の私の思いです。

お休みがあまりなくて大変だと思うのですが。

それが、あんまりストレスはないんですよ。人間ですから、カチンときて感情的になりそうな時ももちろんありますが、楽しんで仕事をしているからでしょうか。嫌なことがあっても、笑いを中心にしています。あとはサポートしてくれる頼もしいスタッフがいてくれることも大きいですね。

先生が理想とする在宅医療とは?

盛次義隆院長 Dr.盛次診療所6

北欧にあるナイトパトロールという仕組みが日本でも浸透するといいですね。ナイトパトロールという就寝介助を専門にしている人がいて、北欧では、寝る前のトイレや歯磨き、お薬を飲ませたり、夜中のトイレ介助などに、そのナイトヘルパーを使うのが普通なんです。日本ではヘルパーの給与が低いなど課題が多く、人でが足りていないのが課題ですね。当院では訪問看護や通所のデイサービスを提供していますが、終末期の患者さんを受け入れる宿泊施設は持っていないので、そこを何とかしたいと思っています。

最後に、読者にメッセージをお願いします。

すべては「相談」から始まると思っています。2000年に介護保険制度が施行され、何回か制度の改正がなされていっています。患者さん本人にとって必要な医療や福祉、受けられるサービスはできるだけしっかり使ってもらいたいですから、自分に関わった人にアドバイスできることはきちんとしたい、広い視野を持って診療にあたりたいと思っています。在宅介護を考えられている方は気軽に相談に来てください。

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