山本 浩 院長の独自取材記事
やまもと内科
(豊中市/庄内駅)
最終更新日:2025/02/12

阪急宝塚本線の庄内駅から徒歩約8分にある「やまもと内科」。待合室の大きな窓からは空を飛ぶ飛行機が見える開放的な空間だ。山本浩院長は、消化器内科と心療内科の両方を一緒に診療するスタイルを取っている。30年以上臨床に携わってきたが、もともとの専門である消化器内科だけでは対応できない患者を数多く診療した経験から、心療内科を学び始めたという。「患者さんの精神的・社会的バックグラウンドを含め、さまざまな角度から分析を行う」という山本院長。心と体を分けて捉えず、消化器内科、心療内科両方の観点から、複雑化した症状の原因を追究し、治療を進める。「心と体と社会が調和した状態こそが健康ではないか」と語る、その診療への想いを聞いた。
(取材日2024年11月13日)
消化器内科と心療内科を分けない診療
開業までの経緯をお聞かせください。

開業は2008年7月ですから、16年になります。もともと大阪の浪速区出身で、大学は奈良県立医科大学。その後奈良県立五條病院や京都南病院で、20年以上勤務医として働きました。病院の勤務医は、救急対応の傍ら、内視鏡治療など専門的な医療経験が積める一方で、制限もいろいろあります。今自分ができることは何かを考えた時、それを実現するのは開業ではないかと思い至りました。クリニックは大学の同級生がビルを買い取り2階で耳鼻科を開業するクリニックビルの4階に決めました。3階には眼科が入っています。伊丹空港に発着する飛行機が大きな窓から見えます。出身地としてなじみ深い大阪で、自分の思い描く「消化器内科と心療内科を分けない診療」を実現したいと考え、あまり迷わずこの場所での開業を決めました。
なぜ消化器内科と心療内科を分けない診療をしようと思われたのでしょうか。
大学医局では消化器内科、とりわけ内視鏡医学を学び、大学から派遣されて臨床に携わるようになりました。勤務医として内科全般の患者さんを診ました。その中で、内科的アプローチだけでは対応できない患者さんを数多く経験しました。人間は体だけ病気になることはありません。体の病と並行して必ず心も病みます。風邪をひいても、心が弱る。誰でも心身症になるのです。心と体を分けずに、病む人と向かい合いたい。学生時代精神科になろうかと考えていた時期があります。人は結局向かうべき方向に進むもののようです。九州大学心療内科出身の医師が勤務していた京都南病院に移り、消化器内科医としても働きながら心療内科の経験を重ねました。
心身症とは具体的にどのようなものなのでしょうか。

心と体は一体で、心と体の不調は切り離せません。3ヵ月ほど続く喉の違和感を訴えられた30代の男性に、ストレスが原因の咽喉頭異常感症と診断し、半夏厚朴湯を処方したことがあります。他にも、頭痛や胃の不調でさまざまな診療科を受診したものの原因がわからなかった患者さんが、心療内科で腹部超音波検査を受けると副腎の腫瘍が見つかり、手術に至った例もあります。心身症には頭痛、関節痛、胃痛、下痢、食欲不振など多様な症状があります。誤診されることもあり、当院では内科と心療内科を区別せず対応しています。
早期がんを見逃さない
具体的な診療内容を教えてください。

まず事前に書いていただいた問診票を見ながら、お話を聞いていきます。最初は病名が100も200も浮かびますが、どんどん分析しながら、診断は何か、診断までたどり着かなくても、どう対応したらいいか考えていきます。上部消化管の病気が疑わしい際には超音波検査、内視鏡検査も行います。ピロリ菌除菌をするだけで胃もたれの改善につながることもあります。内視鏡を握る時は、早期がんがないか、ピロリ菌がいないか、30年間の経験と知識を込めて目を皿のようにして観察します。心療内科の観点で時間をかけたほうがいいと判断した場合は、非常勤女性の心理士がカウンセリングを担当することもあります。向精神薬による薬物治療とカウンセリングによる心理療法、両面からの治療を進めます。私が投薬による治療、カウンセラーによるカウンセリングと、両者連携しながら対応していきます。もちろん一般的なレントゲン、心電図などの検査は可能です。
超音波検査について教えてください。
当院では超音波で全身を観察します。できものやむくみであっても超音波で診ることで、その性状から病気の手がかりが見つかることもあります。超音波を当てた瞬間に診断がつくこともしばしばです。超音波検査を通して、早期がんの発見につながったケースもありました。昔と比べると、超音波検査機器の性能が向上し、応用範囲はかなり広がってきています。従来、聴診器で診ていたことも超音波によってわかることが増えているのです。医者といえば首から聴診器ですが、これからは首から超音波プローブの時代になるかもしれません。
どのような患者さんが来院されますか。

当院では、一般内科、消化器内科、心療内科が混在しており、胃痛や頭痛などで原因が不明な患者さんが多く来院します。心身症が強く現れる精神疾患やうつ病、糖尿病、高血圧などの慢性疾患を抱えた患者さんも少なくありません。救急対応が必要な方や、痢や風邪、めまいなどの急性疾患の患者さん、重篤な症状で耳鼻科から紹介される患者さんもいます。患者層は10代から高齢者まで幅広く、遠方から来る方も多いです。内科と心療内科の区別はせず、ケースバイケースで対応しています。治療が難しい場合は、提携先の総合病院に紹介することもあります。
心と体と社会の調和をモットーに
診療で心がけていることはありますか。

まず患者さんが、自分自身の状態を理解することが一番重要ですから、時間の許す限りで、じっくりとお話を伺います。どのような症状がいつからあったか、話すだけでも、自分の病気を客観視できるものです。胃が痛いなら、ああ胃潰瘍ですね、ではなく、その背景には、患者さんの今の生活や家族関係、勤務状態、病気に対する考え方など、すべてが関係している可能性があるということを納得していただきたいのです。日々どういう生活を送っているか、バックグラウンドを理解することが非常に大切です。それを自分で納得すれば、どの部分を変えていけばいいのかが、わかるかもしれません。一方で、自分のことはあまり話をしたくないという方もおられますから、無理には聞き出さないようにしています。私の考えは開業時からともに働いているスタッフも熟知しており、患者さんが過ごしやすいように配慮しています。診療を重ねながら、少しずつお話を伺います。
先生自身の心身の健康はどのように保たれているのでしょうか。
歩くことと読書ですね。私は毎日往復14kmを徒歩で通勤しています。そのうち半分は走っていますね。休みの日にもランニングは欠かせません。仕事では座っている時間が長いので、なるべく体を動かすようにしています。また往診には電動ではない自転車で行くので、結構な距離を走っています。本がなければ生きていけない人間で、通勤時にはオーディオブックを聴いています。オーディオブックだけでも月15冊ほど読んでいます。本は小説、歴史、政治、哲学とジャンルにこだわらずに読んでいます。心療内科では普段読んでいる本の一節が突然頭に浮かぶことがあり、それが治療のヒントになることが多いです。
最後に、読者へのメッセージと今後の展望をお願いします。

当院のロゴでも表しているように、私は心と体と社会の3つが調和している状態が健康だと考えます。病気はそのいずれかが不調和を起こしている、つまり、一つの社会の中に生きている人間の、生活全般から発生したものです。病気は薬を飲むだけで治るのではなく、自分自身を理解し、病気は普段の生活から発生していることに納得して、初めて治療できるものだと考えます。その手助けをするのが私どもの仕事です。治療しているのは病気だけとは考えていません。その人が病気になりやすい傾向を和らげる、変えることによって病気になりにくくなってもらいたい。病気は未病の段階で対応することが重要です。今目の前の病気だけではなく、患者さんが自分の心と体の状態を理解し、健康的な生活を送っていただければと願っています。今後は他院でも実施しているオンライン診療の経験を生かして、さまざまな事情で家から出づらい方にもアプローチできればと考えています。