吉野 英 院長、藤田 瑞歩 さん、上野 真智 さんの独自取材記事
吉野内科・神経内科医院
(市川市/矢切駅)
最終更新日:2026/08/10
市川駅からバスで約15分の「吉野内科・神経内科医院」。2007年に開業し、内科・神経内科・リハビリテーション科を展開している。駅から少し離れているにもかかわらず、市川市を中心に幅広いエリアから来院する患者が多い理由は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)をはじめとする神経難病の治療やケアを提供する体制にある。院長を務める吉野英(ひいで)先生は、秋田大学医学部在学時にALSの患者と接して以来、神経内科の分野で患者を支えようと研究を重ねてきた。患者のQOL(生活の質)向上のため訪問看護ステーションや医療ケア付きホームなども展開し、包括的なケアをめざしている。常に患者目線で取り組む吉野院長と、同院でリハビリに携わる理学療法士の藤田瑞歩さん、上野真智さんに、それぞれの立場から現場に臨む上での想いを聞いた。
(取材日2026年7月8日)
ALSをはじめとする神経難病に対応
まずはALSの治療や、ALSを取り巻く現在の状況をお聞かせください。

【吉野院長】当院ではエダラボンや筋萎縮性側索硬化症用剤などの治療薬を使用し、併せてリハビリや食事支援、痰の吸引、人工呼吸器の装着、コミュニケーション支援などを行っています。開業前、国立国府台医療センターに勤務していた頃は、エダラボンは脳梗塞急性期の治療薬として審査されていましたが、ALS治療の可能性も見出し、時間と研究費を投じてきたのです。近年では筋肉注射のALS治療薬や、遺伝型の家族性ALSに対処する治療薬が新たに認可されましたが、患者数に対して供給が追いついていないのが現状ですね。だからこそ供給が安定するまで、可能な限りのサポートをしています。
医院ではどのようなケアを行っていますか。
【吉野院長】神経内科ではALS以外に、片頭痛やめまいの症状、パーキンソン病の治療で来院される方も多いです。一例を挙げると、片頭痛の場合は国立国府台医療センターなどと連携して脳の疾患かどうか専門的な診断を行っていますね。その上で症状に応じて内服薬や注射薬を提案しています。内科では生活習慣病の治療が多いのも特徴で、薬だけでなく運動指導もしています。また2007年の開業に続き、つばさ訪問看護ステーション、つばさヘルパーステーション、難病患者専用の「つばさハウス」、「つばさ弐号館」を立ち上げて連携を取り、神経難病の患者さんの包括的なケアを提供しています。
先進の設備も積極的に導入しているそうですね。

【吉野院長】他院のALSの患者さんから「リハビリにロボットスーツを使用した」といったお話を聞き、当院にも取り入れたいと考えていたのです。ただ、装着のために人手が必要となるので、2年ほど前に複数人のスタッフが入職したタイミングで導入を決めました。現在は藤田さんが中心となってロボットスーツを運用しています。
【藤田さん】歩く機会が減ってしまった患者さんにロボットスーツを用いて歩くことを経験していただくことで、また利用するために頑張ろうと思っていただけたらうれしいですね。入院することなく外来でご利用できるため、現在は週4回2枠を設けていますが、ほぼ予約で埋まっていますね。
各分野の専門スタッフによる強固な連携体制
治療と併せて、リハビリテーションにも力を入れているのですね。

【吉野院長】患者さんの状態や進行具合に応じた個別支援を手がけています。神経難病は筋肉が萎縮してきたり硬くなったりして、だんだん歩けなくなってしまうものなのです。それに対するアプローチとして薬と栄養指導が大切で、特にALSの場合は体重が減ってしまうと呼吸機能にも悪影響が出てしまいます。患者さんのQOLを維持するため、治療とリハビリで支援していますね。嚥下機能に問題があるようだったら言語聴覚士がリハビリを行いますし、手足の脱力や歩行障害の場合は状況に応じて理学療法士や作業療法士がリハビリを担当するといったように、柔軟に対応しています。また、併設するヘルパーステーションとも協力して支援していますね。
やはり、職域を超えた連携は欠かせないということですね。
【上野さん】リハビリを行うにあたり、当院の看護師から患者さんの状況などをあらかじめ聞き、その内容に応じて自分の立ち位置を考えています。患者さんによって動き方も異なるため、他のスタッフに協力してもらいながら対応の練習を行ったり、器具の調整を学んだりしています。
【吉野院長】実際、各分野のスタッフ間での情報共有は密にできていると思います。現場からのアイデアも多く、リハビリスタッフから排痰補助装置を導入したいと提案があった際は、どれを導入するかスタッフが実際に確かめて判断していました。また最近は、勉強会などで当院のリハビリスタッフが演者になって発表を行うなど、活躍の場も広がっています。皆さん素晴らしい成長を遂げていて、とても頼もしいですね。
SNSでは多彩な情報が発信されているのを拝見しました。

【藤田さん】はい。私の入職前から医院のSNSは開設されていたのですが、ロボットスーツなどについてより多くの方に知ってもらうためにSNSでの広報にも力を入れ始めました。情報発信という目線だと「こういうのもあるのだ」「これは皆知らないだろうな」という気づきも多いのです。例えば、おむつと水で作るリハビリ用ジェルクッションなど「すごく良いな」と思ったものをお知らせしながら、たまにロボットスーツのアピールもしています。
【吉野院長】SNSでは納涼会などの写真もアップしていますね。医院と訪問看護ステーション、ヘルパーステーションの各スタッフが顔を合わせる場として、ご家族も招待して開催しています。
患者一人ひとりに寄り添い、QOLの向上をめざす
訪問診療・訪問リハビリについてお聞かせください。

【吉野院長】難病の場合、どうしても途中で通院が困難になる日が、いずれは来るのですね。そういった場合も訪問リハビリ、訪問診療をして、とにかく治療継続をしています。多くの場合は最初通院していて、途中から訪問になるのですが、最初から訪問に来てほしいというご依頼もございます。ALSで人工呼吸器が必要な患者さんのための設備をそろえているので、市川市をはじめ周辺エリアからのご相談が多いのが特徴です。リハビリスタッフが訪問し、患者さんやそのご家族と一緒に人工呼吸器の練習をする場合もあります。
【藤田さん】ご自宅では医院に比べてリハビリ器具が少ないため、階段や廊下の手すりなど、ご自宅にあるもので代用して患者さんの生活に近い状態での運動を提案しています。患者さんの少しの変化にも気づくことができ、それに合わせてリハビリを行っています。
メンタル面のケアも重要に思われますが、気をつけていることはありますか。
【吉野院長】やはり神経難病だと発覚した時、受け入れるのが難しく立ち直れない方も多くいます。ある程度の時間を要するため、根気強く向き合わなければなりません。
【藤田さん】できないことが増えて落ち込んでしまう方もいらっしゃるので、どうすれば気持ちを上向きにできるか考え、ご希望をかなえられる方法を一緒に考えるようにしています。
【上野さん】こちらから「頑張りましょうね」と一方的に励ますことはせず、患者さんご自身が心の整理ができるよう寄り添うようにしています。その上で「ちょっと楽になりましたね」といった言葉がけでメンタル面を良い方向に向かわせたいと考えています。
最後に、読者に向けたメッセージをお願いします。

【藤田さん】ロボットスーツの周知に力を入れながら、私自身も技術と知識を磨き、どのようなことにも対応できることをめざしたいですね。
【上野さん】患者さんに合わせた治療やリハビリを常に提供できるよう、周りのスタッフとともに考えながら取り組んでいきます。
【吉野院長】神経難病の患者さんの中には、リハビリのことを知らない方も多いかと思われます。早期のリハビリはQOLの維持においても重要です。少しでも楽になっていただけるよう、生活の維持というところを軸に向き合っていきたいと考えています。また神経難病への対応をお考えの医療機関とも積極的に連携していきたいですね。

