田中 裕子 院長の独自取材記事
内科田中医院
(京都市下京区/丹波口駅)
最終更新日:2026/08/04
京都市下京区、西本願寺の程近くにある「内科田中医院」。田中裕子院長は、かつて父が耳鼻咽喉科を営んでいた場所で、母の介護を機に自身の診療所を開設。内科医として消化器病学の専門性を磨く一方、学生時代に自身の不調の治療に用いた漢方の力に魅了され、東洋医学の研鑽を積んできた。同院の強みは、漢方薬をはじめとする東洋医学を用いた、人間本来の治癒力を大切にする診療だ。症状の一時的な抑制を図るのではなく、患者の体と心に深く向き合い、根本的な改善をめざす姿勢で、多くの患者と信頼関係を築いている。医師としての知見と、4人の子を育て上げた母としての温かな眼差しが印象的な田中院長に、漢方との出合いや診療で大切にする思いについて聞いた。
(取材日2026年6月30日)
漢方と出合い、子育てと並行しながら研鑚を重ねる
まずは医院の歴史について教えてください。

もともとは父がこの地で耳鼻咽喉科を営んでおり、現在は妹がその後を継いでいます。私がここへ戻ってきたのは37歳の頃、母が病に倒れ介護が必要になったことがきっかけでした。最初は父の医院の一部を借りてスタートしましたが、約5年後に「内科田中医院」として独立しました。大学院では肝臓や消化器病学を専攻し、西洋医学の研鑽を積んでいたので、当初は地域医療に携わることはあまり意識していませんでした。しかし、家族の状況や自身の経験が重なり、この場所で患者さんと向き合う道を選んだのです。今では、父の代から通ってくださる方もいて、地域との深いつながりを感じながら日々診療にあたっています。
診療の軸となっている漢方と出合うきっかけは何だったのでしょうか?
漢方との出合いは医学部の学生時代、私自身がひどい生理痛に悩まされていたことにさかのぼります。当時の講義で教わったのは、生理を止めるためにホルモン剤を服用するような、いわば「偽妊娠療法」。学生ながらに「その場しのぎではない治療法はないのだろうか」と違和感を抱いていました。そのような時、漢方に詳しかった父の影響もあり、近所の漢方薬局を訪問。古い書物を見せてもらい、自分の状態が「お血(おけつ)」という血の滞りであることを学び、処方された薬を3ヵ月ほど服用して治療を行いました。対症療法ではなく、体そのものを整えることをめざす漢方の可能性を知った、忘れられない原体験です。
そこから東洋医学の勉強を続けてこられたのですね。

西洋医学を学びながらも東洋医学への関心は消えず、大学院時代には東洋医学を研究する先生の外来で勉強させていただきました。その後、京都に戻ってからは、漢方の古典に精通した素晴らしい恩師と出会い、毎週江戸時代の古典などを読み解く勉強会に参加。お世辞にも出来の良い生徒だとは言えなかった私を熱心にご指導いただいたことには、今でも感謝してもしきれません。当時は4人の子を育てており、夜の勉強会に行こうとすると子どもが車に乗り込んでくるような慌ただしい毎日でした。母の助けも借りられない状況で、正直「もう辞めようか」と心が折れそうな時もありましたが、古典から学ぶことはあまりにも深く、必死で食らいつきましたね。子育てと研鑽を並行するのはとても大変でしたが、その苦労が今の診療の土台となっています。
体を丁寧に確かめ、患者の「個」としての状態を見る
こちらの医院では、どのような診療をされているのですか?

当院では漢方の他にも、経路の流れを見たり、体を動かす「操体法」なども広く取り入れています。診療で大切にしているのは、まずは患者さんの体に直接触れること。おなかや背中の硬さ、滞りがある場所を指先で確認し、その方の体質や今の状態を把握します。症状を訴える言葉だけを追うのではなく、体が発しているメッセージを知る努力をします。おなかを触ってタイプを見極め、操体法や場合によっては鍼灸を行い、もう一度触れて変化があるかを確認します。そして最後に漢方薬を処方するようにしています。西洋医学的な視点を持ちつつも、患者さん一人ひとりの状態を理解し、少しでも快適に過ごせるお手伝いができると良いと考えています。
操体法について、詳しく教えてください。
操体法とは、ある医師が考案された「体を操る」ための健康法です。面白いのは、「痛い方向」ではなく「楽に動かせる方向」へ動かすという点です。首を左に曲げると痛いけれど右ならスムーズに動く場合、普通は痛い左を何とかしようとしますが、操体法では右に抵抗を加えながら力を入れ、脱力します。無理に動かすのではなく、体が行きたい方向へ動かすことで、自分の体の違和感に気づき、自分でコントロールする感覚を感じていただきます。これは不調を防ぐためにもとても重要だと考えています。当院ではこの考えを取り入れ、患者さんご自身でも自宅で実践できるようにお伝えしています。
ここでも、院長の過去のご経験がベースになっているのでしょうか。

そうですね。若い頃は私自身も、多くの人と同じように「体に不調が出たら治療してもらうもの」と考えていました。しかし、自分の体の使い方や向き合い方について学んで行く中で、心の状態と体の状態は、切り離せないものであって、双方のバランスを整える事が非常に大事だということがわかりました。もちろん、体の状態や症状によっては高度な医療機関での診断や適切な治療が必要です。その一方で、日常生活の中で自分の体を知り、無理のない状態を保つことも心身の健康につながり予防医学としての重要な役目を持っています。漢方薬や、東洋医学の考え方、鍼灸や、操体法との出合いを通じて、健康とは単に症状の有無だけで決まるものではなく、自分の体と上手に付き合いながら心地良く生活できる状態なのだと考えるようになりました。この視点は、現在の私の大きな軸になっていますね。
東洋医学の力を借り、地域との「縁」を紡ぐ
診療の中で重視されていることは何ですか?

人間に備わっている「本来の治癒力」を重視しています。例えば、花粉症の場合、症状を止めるために薬を使うだけでは、また来年同じことの繰り返しですよね。東洋医学では「陰」を養うことを重視していて、そのためには夜しっかり眠ることが不可欠です。眠ることで自律神経が整い、体が自ら粘膜を修復できるのです。また、最近増えている「うつ」のような状態も、心の側面だけでなく、体の側面からもアプローチすることで、生き生きとした表情を取り戻すことをめざしています。不調を敵として排除するのではなく、体が本来持っている力を発揮できるようにもっていくことが大切だと思います。
表面上の痛みや苦痛だけを取るための治療ではないのですね。
患者さんの苦しみを表面だけで捉えるのではなく、背景にある生活習慣や心の状態を知るようにしています。東洋医学には「陰陽五行」の考え方があり、イライラ(怒り)が募れば熱が上がり、それが不眠や不調を招くとされています。その他、喜び、くよくよ、憂い、悲しみといった感情も内臓の働きとは密接に関わっています。頭だけで考えるのではなく、体が心地良いと感じる状態をめざすことが、健やかな毎日を送るための鍵となりますから。お薬を出すだけでなく、具体的な生活の知恵もお伝えしています。
改めて、院長が大切にされている思いをお聞かせください。

お一人お一人とじっくり向き合い、微調整を繰り返しながら根本的な解決をめざしておりますので、ご自身が元気になりたいと願う方や、ご縁がつながった方との時間を大切にしたいと考えています。また、4人の子どもを育てる中でさまざまな経験をしてきたので、お子さんに強い薬を使い続けることへの不安や、子育てに関する葛藤を抱える親御さんの気持ちはよく理解できます。薬で抑え込むことを図るのではなく、体が本来持っている力を重視した診療を行っています。自分の力を信じて、日常に楽しみを見つけられるようになれば、私にとってもうれしいことです。

