津田 幹夫 院長の独自取材記事
津田産婦人科クリニック
(安芸郡海田町/海田市駅)
最終更新日:2026/06/05
分娩に対応できる産婦人科として、地域の周産期医療を支える「津田産婦人科クリニック」。近隣エリアでは出産を扱う医療機関が減少する中、津田幹夫院長を頼り、町内にとどまらず広島市や安芸郡4町、呉市、東広島市などからも患者が訪れている。妊婦健診から分娩、産後ケアまでを一貫して担うとともに、不妊相談や更年期障害といった女性のライフステージに寄り添い続けている同院。クリニックは木のぬくもりを生かした設計で、中庭を備えた開放的な空間が広がり、待合スペースはホテルのロビーのよう。「お産を特別な体験にしてほしい。産んで良かったと思ってもらいたい」と日々奮闘する津田院長に話を聞いた。
(取材日2026年4月22日)
もう1人子どもが産みたくなるような幸せなお産を
産婦人科医をめざしたきっかけと、海田町に開院した理由を教えてください。

私は三原市で産婦人科を営んでいた父の背中を見て育ちました。自然と医師という職業を意識するようになりましたが、当初は外科にも興味を持っていました。しかし、父の病気をきっかけに「同じ産婦人科の医師になって安心させたい」と考え、この道に進む決意をしました。医師として歩み始めて間もなく父が亡くなり、実家の医院も結局閉じることになりました。海田町に開院したのは、地域の周産期医療の現状を目の当たりにしたことがきっかけです。勤務していた病院が分娩をやめると知り、その受け皿になれればという思いもありました。当院から救急車で30分以内の場所に2つの病院があったので、緊急時には連携しやすい利点もありました。結果として、基幹病院との連携が取りやすく、子育て支援にも力を入れているこの地域で開業できたことは、非常に意味のある選択だったと感じています。
勤務医を長くされてきた中で、印象深い出来事はありますか?
研修医時代は、父が亡くなったばかりということもあり、早く一人前になって役に立ちたいと毎日必死でした。命の危険を伴う分娩にも数多く立ち会ってきました。出血が止まらないような緊迫した状況の中で、強く印象に残っているのは、恩師の「動じない姿勢」でした。どれほど切迫した場面でも、決して慌てることなく、淡々と必要な処置を重ねていく。人柄、技術、土壇場の胆力、医師として、人として、教えていただいたことは今でも私の指針となっています。産婦人科は、予測どおりに進まないことが多くあります。命が生まれる現場は、一瞬も気を抜くことはできません。だからこそ、技術以上に問われるのは、状況を見極める冷静さだと感じています。当時、恩師から学んだことが今の診療に生かされていると思います。
クリニックの内装面や設備面でのこだわりを教えてください。

クリニックの中は、スタイリッシュだけれど、温かみを感じられる空間になるようデザインしてもらいました。木を多く使い、中庭を設けることで、院内にいながら外の雰囲気を感じられるようにしています。待合はホテルのロビーのような開放感を意識し、患者さまが少しでもリラックスできる場所をめざしました。出産に向けた時間を丁寧に過ごせるように、環境を整えています。もう一つのポイントが、入院中の食事です。「お産を特別で幸せな体験にしてほしい」という思いから、手作りにこだわり、管理栄養士とシェフが栄養バランスとおいしさを両立させた体に優しい食事をお出ししています。中でも、出産後のお母さんへのねぎらいを込めてコース仕立てにしたお祝い膳はとても人気です。
出産を前向きな記憶として家族の心に残す
クリニックのコンセプトを教えてください。

当院は海田町の周産期医療を担う役割があります。同時に、出産だけで終わらず、その後も婦人科として長く関わっていく存在でありたいと考えています。出産後も相談に訪れていただけるようなつながりを大切にしていきたいと考えています。少しでも通院しやすいようウェブ予約を導入し、できるだけ負担なく受診できるようにしました。また、院内環境や入院中のサービスも含めて、「いい時間が過ごせた」と感じていただけるよう意識しています。出産は、女性にとってもご家族にとっても人生の中でも大きな出来事です。その体験が前向きな記憶として皆さんの心に残るように、それを支える環境を整えることが、私の役割だと考えています。
診察や治療、分娩で心がけていることはありますか?
正直に言うと、日々反省することばかりです。「きちんと説明できているだろうか」「患者さまのニーズに応えられているだろうか」と考えることは多いですね。医学的に正しい診療を行うことは当然ですが、今の医療はそれだけでは足りないと感じています。特に妊婦さんの場合は、不安や緊張と向き合っていますので、精神的なケアもとても重要です。ただ、診察中に分娩が重なったりすると、どうしても外来をお待たせしてしまうことがあります。だからこそ、できる限り丁寧に説明し、安心していただけるよう心がけています。すべてが十分にできているとは思っていませんが、そうした意識を持ち続けることが大切だと考えています。
ソフロロジー式分娩法を取り入れられているそうですね。

ソフロロジー式分娩法は、呼吸法とイメージトレーニングを中心に、心身をリラックスさせた状態で出産に臨むことを目的とした分娩方法です。無理に息むのではなく、陣痛の波に合わせて呼吸を整え、体の流れに委ねながら出産を迎えていきます。佐賀県唐津の「田邊クリニック」で学んだ後、当院でも取り入れています。痛みをなくすものではありませんが、緊張を和らげることで落ち着いた気持ちで出産に臨むことができると考えています。呼吸法を身につけていただくことで、本番でも自分のペースを保ちやすくなるでしょう。出産を前向きに受け止められる体験へと導くこと。それがソフロロジー式分娩法の大きな意義だと考えています。
チーム一丸で、女性のライフステージに寄り添う
どのような患者さんが多くいらっしゃいますか?

近隣で分娩を扱う施設が少なくなっていることもあり、分娩で来院される患者さまは、海田町内にとどまらず、広島市や安芸郡4町、呉市、東広島市など広い範囲に及びます。妊婦健診から分娩まで、一貫して診られるのが当院の強みだと思います。これまで多くの出会いがありましたが、当院で出産をしたいからと近隣に転居された方もいらっしゃいました。出産という大きな節目に関わったことをきっかけに、患者さまのその後の人生のいろいろな場面でお役に立てればと思っています。また、婦人科では、不妊相談や子宮がん検診、月経異常、不正出血、更年期障害など、幅広い年齢の方からさまざまなご相談をいただいています。妊娠・出産に限らず、女性のライフステージにしっかりと寄り添っていきたいですね。
スタッフの皆さんの笑顔が印象的ですね。
当院は約40人のスタッフで構成され、助産師や看護師を中心にチームで患者さまを支えています。開業当初から勤務しているスタッフも多く、ベテランの安心感も大きな強みです。スタッフは、出産という現場に日々関わることにやりがいや喜びを感じてくれています。「自分の子は大きくなったけれど、赤ちゃんを抱っこできるのがうれしい」と話すスタッフもいて、そんな思いが患者さまへの関係性にも表れていると感じています。「もう1人子どもが産みたくなるような施設にしたい」というのが開業当初からの私のモットーで、その思いはスタッフにも共有をしています。医師だけでなく、助産師や看護師を含めたチームの全体感が患者さまの安心感につながっているのかもしれません。同じ方向を向いて頑張ってくれるスタッフには感謝しかありません。
読者へのメッセージをお願いします。

今後の目標として、また当院の役割として、クリニックを長く続け、地域の産科医療を持続的に提供し続けることがとても大切だと思っています。少子化が進む中でも、「ここで産みたい」と思っていただける環境を維持し続けることが重要です。また、医療体制や設備の充実だけでなく、スタッフの働きやすさにも配慮したクリニック運営も大切だと思っています。患者さまには出産や体調のことで不安があれば一人で抱え込まず、気軽に相談していただきたいと思います。安心できる場所として、これからも地域に寄り添っていきたいと思います。

