山前 正臣 院長の独自取材記事
新横浜山前クリニック
(横浜市港北区/新横浜駅)
最終更新日:2025/03/10
新横浜駅より徒歩3分の場所にある「新横浜山前クリニック」は、関節リウマチや膠原病、間質性肺炎の診断・治療に力を注ぐクリニックだ。厚生省早期関節リウマチ診断基準(山前)を策定した先代院長の山前邦臣先生が1977年に開院し、現院長の山前正臣先生が2015年に現在の場所に移転・リニューアルした。山前正臣院長は、長年にわたり本邦の関節リウマチ治療をリードしてきた同院の方針である「早期診断・早期治療・早期寛解」を、自身の大学病院リウマチ内科部門長や米国・英国での留学経験を生かし日々診療している。「個々に適した治療を行うことの大切さを一人でも多くの患者さんにお伝えしたい」と話す山前正臣院長に、関節リウマチの診療に対する思いを聞いた。
(取材日2024年12月5日)
早期診断・早期治療により早期寛解をめざす
先生が力を注ぐ関節リウマチとはどのような病気ですか?

関節リウマチは国内に約100万人の患者さんがいるとされ、女性に多い病気ですが、近年では60~70代で発症する男性患者さんも増えています。関節の慢性的な痛みやこわばりが起こり、進行すると関節の変形を引き起こします。初期症状として、関節の腫れや朝のこわばり、倦怠感などがみられます。ただ、初期には症状が軽く日常生活にもあまり支障がないため、「たいしたことないだろう」と様子を見てしまう方も多く、早期診断につながりにくい実情があります。しかし、最も治療による効果が期待できるのは早期なのです。少しでも関節に症状がみられたら、ぜひ早めにリウマチを専門とする医師を受診してください。
リウマチを専門とする医師による関節の診察が重要なのですね。
はい。現在関節リウマチの治療薬は飛躍的に進歩しました。一方で、十分な関節の診察を受けておらず、早期に適切な治療にたどりついていない患者さんもまだ多いのが現実です。血液検査や画像検査だけでは早期診断が難しい病気であることも一つだと思います。しかし、エックス線やエコー検査などの画像検査で見つけにくい早期の関節炎も、専門の医師の診察ですぐにわかることがあります。また、関節リウマチ患者さんの約半数はリウマトイド因子などの自己免疫検査が陰性であることがわかっています。さらに初診時に患者さんからしっかり病歴をお聞きすることが、早期診断にとても役立ちます。
リウマチはなぜ早期に治療することが大切なのですか?

これには大きく3つの理由があります。1つ目はできるだけ速やかに関節の炎症を抑えることで関節の変形や破壊を防ぐことがめざせることです。2つ目は、関節リウマチは炎症性疾患であるために動脈硬化を起こしやすいことです。しっかりリウマチの病勢を抑えることで、脳血管障害や心筋梗塞などの発症を実際に減らすことがめざせます。3つ目は、関節リウマチは全身性疾患ですので、合併症として多い慢性の気道系のご病気、間質性肺炎、粘膜の乾燥を伴うシェーグレン病などのコントロールも重要であるためです。早期治療により、これらの併存疾患のコントロールにもつながります。そのために当院は「早期診断・早期治療・早期寛解」をめざし、48年前の開院当初から早期関節炎の診断・治療を重視してきました。
リウマチは全身の病気、よく理解して治療
早期診断のために大事にしていることは何ですか?

診断の原則はしっかりと「診断基準」を用いることです。2010年にACR/EULAR(米国リウマチ学会/欧州リウマチ学会)が共同作成した分類基準を使いこなすことが大切です。関節リウマチと鑑別が必要なご病気は多岐にわたります。特に内科的疾患との鑑別はとても重要です。当院では毎回の診察で患者さんの全ての関節を診察しますが、関節診察と同じくらい重要なのがシステムレビュー(全身の系統的診察)です。全身をくまなく確認するこの診察方法によって、他のご病気との鑑別、リウマチの関節以外の合併症の有無などをみつけ、速やかに対応していきます。
治療方針を決めるときに大切にしていることはありますか?
診断後は治療方針を決定します。現在従来型抗リウマチ薬や生物学的製剤、JAK阻害薬などの登場で治療薬がとても進歩しており、患者さんお一人お一人に合わせた治療の選択が可能です。治療方針を決める時に大切にしていることがいくつかあります。1つ目はなぜ治療が必要かの説明です。前にも触れたように関節の治療だけでは十分ではなく、合併症にも注意する必要があります。2つ目は必ず患者さんに治療の全体像をお話しします。全てのお薬の説明をし、その患者さんに適した治療法と代替薬についてお話しします。3つ目は副作用を全てお話しします。これらの診察は医師だけではなく、リウマチ専任看護師とともに行い、教科書的もしくは論文ベースの解説とともに、当院の豊富なデータに基づいた経験からのお話をさせていただいています。そうすることで患者さんも安心し、前向きな気持ちで治療に取り組めるようになると考えています。
先生がリウマチを専門とすることに決めた理由を教えてください。

私の祖父も父も横浜市港北区の内科医でした。祖父は真夜中でも患者さんが来院すれば白衣に着替えて診察していたのを鮮明に覚えています。また、父は1988年の厚生省早期関節リウマチ診断基準(山前)の策定に尽力したリウマチの専門家です。私は、一人ひとりの患者さんに真摯に向き合う祖父や父に憧れ、医師になることを決めました。ただ、30年前は関節リウマチに対する有用な治療法がなく、リウマチを専門とすることに不安もありました。一方で関節リウマチや膠原病などの自己免疫疾患の治療は全身の症状に対応しなければなりません。さまざまな関連する専門診療科がチームとして連携して診療する経験は若かった私にはとても印象的であり、チーム医療の経験と、その後のリウマチ治療薬の進歩が、リウマチを専門として歩むことを後押ししてくれました。
リウマチ診療チームといっしょに治療
クリニックでは診療チームで診察しているとか。

関節リウマチや膠原病を治すためには、治療に関する情報を患者さんにしっかり理解していただくことが大切です。抗リウマチ薬が進歩した現在、医師だけで適切な治療を安全に続けていくことは困難です。そこで当院では米国や英国のリウマチ診療看護師の状況を調べなおし、日本の制度にあわせ、看護師8名、医療クラーク5名、リウマチ専任薬剤師6名から成るリウマチ診療チームを形成しました。また、チーム全員がリアルタイムに患者さんの情報を得られるツールも導入や、4つの説明ブースの設置も行い、すべての患者さんが毎回の診察で専任看護師のケアを受けられる環境を整えています。当院は生物学的製剤やJAK阻害薬などの新規抗リウマチ薬の治療経験が豊富であり、データベース化することにより患者さんに適時にフィードバックしています。
チームでリウマチ治療に取り組むことのメリットを教えてください。
まずは診断や治療に関する有用な情報量が増えたことです。医師が治療を決定する時には患者さんの背景を最重視しますが、より患者さんにあった治療選択ができるようになりました。また、リウマチ治療に関する患者さんが知っておくべきことはとても多く、負担も大きいですが、患者さんがどの程度ご理解できているかが把握しやすくなりました。加えて看護師や医療クラークが患者さんに深く寄り添い、心身の両面をサポートすることで、病気になる前と同じような生活をめざすことも可能となってきています。患者さんがリウマチであることを忘れて生活できるようになったり、症状と上手に付き合いながら庭仕事やゴルフ、テニス、ジョギングなど好きなスポーツを楽しめるようになったりするお話が聞けるのは、我々リウマチ診療チームにとってはとても嬉しいことです。
今後の展望と読者へメッセージをお願いします。

2010年に確立した関節リウマチの分類基準と生物学的製剤やJAK阻害薬などの新規抗リウマチ薬の進歩により、患者さんたちの症状の大幅な改善が望めるようになりました。まずはしっかりと診察してから治療を開始していただければと思います。一方、関節リウマチの診断を正しくされていない患者さんも多くいらっしゃいます。ご高齢や合併症などを理由に活動性関節炎に不十分な治療を選択されたり、十分な関節評価がされず漫然とした治療を受けることにより関節変形が進行してしまう方もいたりします。関節リウマチは治すことをめざせる時代になっています。ぜひ前向きな気持ちでリウマチを専門とする医師の診察を受けてください。

