肥田 裕久 院長の独自取材記事
ひだクリニック
(流山市/南流山駅)
最終更新日:2024/09/02

治療だけでなく、デイケア、ナイトケアなどを通じて生活・就労復帰までをトータルに支援する「ひだクリニック」。肥田裕久院長をはじめとする医師9人のほか、精神保健福祉士・看護師・公認心理師・事務スタッフが各自の役割を果たし、チームで患者をサポートしている。病気や障害があっても皆が同じ土壌で暮らせる社会にするため精神科の医師になったという肥田院長は、患者ともフランクに会話する気さくな人柄のドクターだ。家族支援にも力を入れ、すでに治療を受けている患者の家族だけではなく、まだ医療につながっていない家族の悩みにも向き合っている。明るく開放感ある院内で、同院の取り組みや今後の展望について話を聞いた。
(取材日2024年6月20日)
地域医療に貢献し「振り分けの役割」を果たすために
まずはクリニックの概要から伺います。

心療内科・精神科のクリニックですが、外来だけでなく、リハビリテーション、デイケア、ナイトケアなど多様なケアを行っています。大切にしているのは「優しい心と高い専門性」。医療法人社団宙麦会の各施設と連携しながら、福祉施設の運営や就労支援も含めて複合的なサポートを図っています。流山市では、精神科の入院病棟は十分な数がありません。だからこそ、当院が地域に根差したクリニックとして、患者さんが適切なケアを受けられるよう「振り分けの役割」を果たしていきたいと考えています。また、地域のあらゆる悩みに寄り添っていけるよう、統合失調症や高次脳機能障害など、複数の医師がそれぞれの専門性を発揮しながら幅広い疾患に対応。さらに、通院が困難な患者さんには訪問診療も行っています。
訪問診療はどのような人が対象になりますか?
統合失調症や重度のうつ病など、外出するのが難しい患者さんが対象です。看護師と連携を取りながら、定期的にご自宅を訪問しています。看護師は「こんなことができるようになりましたよ」など、医療とは違う視点で生活の情報を教えてくれるので助かっていますね。近頃では「8050問題」といわれるように、これまで面倒を見ていた両親の経済力がなくなり、抱えきれなくなって医療的サポートを必要とするケースが増えています。潜在的ニーズが高いので、まずは必要な医療が届けられることを地域の皆さんに伝えていきたいです。それに関連して、自立支援、就労支援も当院の大きな柱として取り組んでいますので、デイケアやナイトケアに通いやすいよう、クリニックの周辺に住んでいただくことも提案しています。今では多くの患者さんが移り住んで熱心に社会復帰へ向けて励んでいますよ。
精神科デイケアでは、具体的にどのようなことを行っているのですか?

心と体の回復を図るための精神科リハビリテーションという大きな仕組みがあるのですが、その中の一つが精神科デイケアです。症状が改善した後、次に何をしたら良いのか、どのように生活や社会復帰をしたら良いのかと悩まれる方がとても多いんです。そのため、社会的スキルを学び直す手助けを行ったり、新たな一歩を踏み出すトレーニングを行ったりする場が、デイケア・ナイトケアとなります。当院では患者さんのことを「メンバー」と呼び、対等な関係を築いた上で、メンバー自身がプログラムをつくるためのサポート体制を整えています。スポーツや料理、季節のイベントから、心理教育やソーシャルスキルトレーニングなどのスタディープログラムまで、多様なプログラムを日替わりで用意しているのが特徴。自分の生活スタイルに合わせて無理なく参加できるのも強みです。
医師とスタッフが力を合わせ、社会復帰までサポート
先生の専門分野について教えてください。

私を含め、当院にはそれぞれに専門性を持った医師が9人在籍しています。私の専門は統合失調症です。統合失調症に関しては、良い薬がたくさん出てきたこともあり、治療を進めやすくなりました。当院では統合失調症の患者さんには、持効性注射製剤(LAI)の使用を推奨しています。これは定期的に注射を行う治療法で、近年では12週間に1度の接種で済むものも開発されました。持続的な作用が期待でき、毎日薬を飲む煩わしさも軽減できる特徴があります。また、基本的に、中度から重度の患者さんに対しては、コミュニティーに参加してリハビリテーションを行うコミュニティーケアも行っています。そのほか、最近では自閉スペクトラム症の相談も増えてきました。お子さんが発達障害の場合は、怒りの感情のコントロールを訓練したり、ペアレントトレーニングを実施したりしています。
精神保健福祉士や公認心理師も重要な役割を担っていると聞きました。
現在、当院には4人の精神保健福祉士と、3人の公認心理師が在籍しており、初診での医師の診断をもとに、必要に応じて各専門職につなげています。患者さんの状態や今の環境、希望内容などを把握しながら診療をコントロールする、医師と患者さんの橋渡し役ともなる立場です。デイケア・ナイトケアにおいても、とても重要な役割を担ってくれていますね。思春期の治療、社会復帰に向けた経済生活や知的障害に詳しいスタッフ、スポーツに詳しいスタッフなど、それぞれの得意分野も生かしてくれています。
治療後の支援体制についても教えてください。

病気になってしまっても、もう一度社会に戻って仕事を頑張りたい、生活を取り戻したいと考える方がとても多いと感じています。その気持ちに寄り添いながら、法人と連携し就労支援にも取り組んでいます。生活や仕事面だけでなく、「プラスアルファ」の部分についても充実させていますよ。例えば、患者さんが参加するプログラムの中で、事務長率いるフットサルチームがあるんです。「フットサルは楽しい」という感覚を大切に、医療だけではなく、社会とも接点を持ちながら回復をめざしていただきたいです。
家族支援も大切な役目の一つ
医院のロゴやデイケア施設の名称がユニークですね。

シンボルマークをカエルにしたのは、目の前が「かえる公園」というド直球の理由ですが(笑)、そこに「患者さん一人ひとりに笑顔が返る医療の提供を」という私たちの思いも乗せています。デイケアの「るえか」も、単にカエルの逆さま語ではなくて、「リカバリーユニットエデュケーショナルコミュニティーアプローチ」の頭文字、つまり「心理教育を地域に教育して広め、病気を回復させるための団体」という意味で、当院の理念でもあります。「るえか」は、外国語では「糸紡ぎの回転する車」を意味するそうですが、まさに医療行為を紡ぎながら地域社会を回すエンジンにもなりたいとの思いですね。
2020年には分院も開業されたのだとか。
はい。2020年9月に、お台場海浜公園駅からすぐの場所に「ひだクリニックお台場」をオープンしました。流山市で行ってきた同じ診療コンセプト、同じ患者さんへの思いを実践できるようにとつくったクリニックです。JR武蔵野線はりんかい線と一本でつながっていて当院からの利便性が良いこと、また東京湾岸の新興開発地域には統合失調症など専門性を持った精神科が少なかったのが、分院の場所をお台場に決めた理由です。千葉と東京では福祉の状況や就労の幅など異なる部分もありますが、それぞれの地域の特性に合わせた医療を展開するようにしています。
今後の展望をお聞かせください。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックを経て世の中は大きく変わり、大人も子どもも少なからず心身への影響を受けています。登校に意味を見いだせなくなってしまったお子さんや、人生の目標を見失った大人たちも多いですね。患者さんとご家族のより良い人生のために、私たちに何ができるのか。これからもこの視点を持ち続けながら、院内の診療にとどまらず、複合的に患者さんとご家族をサポートしていきたいと思います。
受診をためらっている人や、その家族に向けてメッセージをお願いします。
当院では、診察に入る前にまず精神保健福祉士が、症状や生活状況などを十分に時間をかけて伺います。困り事を整理してから医師の診察を受けていただきますので、気負わずにご相談ください。患者さんのご同席が難しければ、ご家族からの相談でも構いません。また家族支援も私たちの大切な役目の一つ。家族支援の一環として、すでに治療を受けている患者さんのご家族だけではなく、まだ医療につながっていないご家族の悩みにも向き合っています。これからも「この地域で治療を受けられて良かった」と思っていただけるよう、地域医療に欠かせない多機能型精神科クリニックをめざしていきます。