豊田 勝弘 院長の独自取材記事
とよだクリニック
(高槻市/高槻駅)
最終更新日:2021/10/12

高槻駅から徒歩5分。商店街にあるビルの3階に「とよだクリニック」はある。中に入ると、開放感のある待合室が広がっていて、落ち着いて診察順を待てそうな雰囲気だ。院長の豊田勝弘先生は、大阪医科大学を卒業後、長く勤務医として活躍。上野芝病院と藍野花園病院では、計10年にわたり院長を務めたが、理想の医療を実現したいと一念発起。2006年、とよだクリニックを開院した。「患者さんがより幸せに生きるためのお手伝いをしたい」と語る豊田先生。めざす医療のあり方から、社会不安障害などの病気のこと、薬への考え方まで聞くと、40年以上の医師経験をフルに生かして、患者と真剣に向き合う姿勢が伝わってきた。
(取材日2018年11月21日)
健康で幸せに生きるために、心療内科を利用してほしい
カジュアルな服装で診察なさっているのですね。

白衣は心の距離をつくってしまいますからね。初めて来た人は、診察室に入って、びっくりしていることもあります。“その辺のおっちゃん”が相談に乗っている雰囲気のほうが話しやすいでしょう。ただ、特に年配の人などは、医者らしくないからちょっと、と思う人もいるようです。幸い、高槻駅周辺は心療内科がたくさんありますから、当院と合わなくても、他に合うクリニックがあると思います。結局、患者さんと医者も人間同士の出会いですから、相性があって当然。ご自分が信頼できると感じられる医師を探すことが大事だと思います。
院内は花や絵が飾られているのが印象的でした。
絵や写真は、患者さんの作品です。「飾りたいと思ったら持っておいでよ」と言うんですよ。模型飛行機は、あるおじいちゃんが作ったものです。目標を失い元気がなくなっていたので、「誰かにあげて喜んでもらおう」と言ったら、持ってきてくれるようになりました。模型飛行機は子どもが欲しがるから、張り合いになりますよね。花は僕が育てています。ラン科カトレア属ワルケリアナという種、ほとんどこればかりを徹底的に育てています。クリニックのウェブサイトに、ワルケリアナを紹介する「癒やしの小部屋」というページを作って紹介もしています。なんと言っても、きれいでしょう。それにいい香りがする。花があるとほっとすると言って、患者さんが喜んでくれるのがうれしいですね。
どのようなクリニックをめざしていらっしゃいますか?

患者さんに幸せになってもらいたいですね。より健康に、より幸せに生きるためのお手伝いができたらと思っています。日本は、精神科に対する偏見がまだ強いから、敷居の高さを感じると思います。けれど、より健康な生活を願うのであれば、まずは勇気を持って来てほしいです。原因がわからないまま毎日を過ごすのは、とても不安だと思います。例えば、お姑さんとの確執で悩んでいる方がいて、心の不調から体の痛みやめまい、耳鳴りなどが現れているとします。すると重い病気ではないかと思い悩んで、ますます悪化して、夜も眠れずご飯も食べられずげっそりとしてくる。内科などでは更年期のためと言われるかもしれませんが、精神科、心療内科では身体表現性障害またはストレス性障害と考えそれに沿った治療をします。早く来れば、早く解決できるかもしれません。心療内科をうまく利用して、幸せな方向に進んでもらいたいですね。
できるだけ少ない薬で社会不安障害や強迫性障害を治療
お話いただいた身体表現性障害とは、どのような病気でしょうか?

身体的原因がほとんどないにもかかわらず、見合わないような体の症状を訴える病気です。他の科で検査をしても異常は見つからず、最終的に心療内科に来る方が多いです。特に心配性の人がなりやすい。ところで、最近の脳科学の進歩でセロトニンの機能障害と関係しているとわかってきているのが、社会不安障害や強迫性障害、パニック障害、うつ病などの病気。当院ではさまざまな精神疾患に対応していますが、得意分野をしいて言うならば、今挙げたセロトニンの機能障害による病気です。多くの場合、薬物療法と精神療法の併用で治療します。
お薬についての考え方を教えていただけますか?
ほとんどのケースでは薬物療法を欠かすことができませんが、少ない薬で済むようにしたいですね。例えば不眠。確実に眠れる量の薬を最初から処方するのではなく、半量でも眠れそうならば、そうします。足りなかったら足していくのです。というのは、薬の量が多いと副作用の出る確率が高くなるし、減らすのに時間がかかったりすることが多いから。それでもうまくいくことが多いので、少ない量から始めていきます。さじ加減は、40年やってきた経験からです。診察の中では患者さんに、薬の特徴や、副作用、飲み続ける見通しについて、お話するよう心がけています。薬物療法が必要と判断したら、薬で調節する。いったん調節できたら、いかに再発予防していくかを考える。再発予防は非常に大事です。
どうなったら「治った」と言えるのでしょうか?

通院して薬を飲んでいる状態のことを治っていないというのであれば、治らない人も結構います。けれども、例えばSSRIと抗不安薬を使っていた人が、SSRIはいらなくなり、抗不安薬だけでも乗り切れるようなら、治ったと言っても良いと思います。治ったかどうかより、普通に社会生活を送れるようになったかが大事。中には、通院ペースが2年に1回という患者さんも。普段は普通に生活をし、手持ちの薬が減ってきたり、不安になる場面が近づいたら受診されます。また、それ以上に重要なことがあります。症状軽減のためには環境調節が必要な場合があるということ。うつ状態になるのはすべてがうつ病によるものではなく、ストレス性障害に基づくものも多いのです。上司のパワハラが原因ならば、部署を異動すれば改善するはずです。安易にうつ病と診断する風潮がありますが、それは間違いだと思う。
これからも成長しながら、より良い医療をめざす
先生はなぜ医師になられたのですか?

4歳上の姉がいたのですが、私が小学校5年生のときに亡くなりまして。それで小児科の医師になろうと思いました。精神科に進んだのは、教授からの誘いがあったからです。精神科の教授がバレーボール部の先輩で、精神科の奥深さを感じていたところに誘いがありましたので。医師になってからは、長く勤務医として仕事をしてきました。ところが院長をするうちに、自分の望む医療をしたいという思いが強くなりました。実は、僕は強迫性障害なんです。こだわりが非常に強く、医者の姿勢についても理想があって。院長になって、診察より管理業務が増えたので、自分が望む診察ができる環境をつくるために、2006年に開院しました。病院長をしている年配者の開院だったから、周りには驚かれました。
では、今は理想に近い医療ができているのですね。
そうですね。ですが、満足できる状態ではありません。本当は、診察にもっと時間をかけたいのです。今でも、特に初診にはそれなりに時間をかけているつもりですが、再診には十分時間がとれない。患者さんを減らせばもっと良い医療ができるけれど、断るわけにはいかないですし。強迫性障害のこだわりもあって精神力をすごく使うから、診療が終わると、1時間くらいベッドに倒れ込んでいるほどなんです。今は実験的に、第2・第4週の水曜日だけ、予約数を少なくしています。ゆっくり診られて、ものすごく満足しますね。今後、長男がクリニックを継いでいくにあたり、僕の担当分はそんな時間を増やしていきたいです。今は、僕は午前診を担当し、すべて予約制です。夜診は後輩の先生や長男が担当していて、受付順の診察です。
患者さんと真剣に向き合っていらっしゃるのだと感じました。

ただ僕の姿勢を断定的だとか、押しつけると感じる患者さんがいてもおかしくないと思いますよ。自分自身欠点だらけだと思っていますが、最近になって考えるのは、人間として悪いところに気づいたら、直していけば良いのだということ。先日、1年前に1回来て、それきりになっていた患者さんが来られました。聞けば、他のクリニックに行っていたと。だから、僕の診察で悪いところがあったのなら教えてほしいとお願いしたんです。すると、「頑張れなかったから、来にくかった」のだとか。僕が一生懸命指導するから、できなかったら申し訳ないと思ったそうなのです。そう聞いて、「頑張りましょう」とあまり言うのも良くないのだと学びました。日々、勉強です。年を取っても成長していきたいですね。