中医学の知見に基づいた
患者の全体像を診る漢方治療
扇町漢方クリニック
(大阪市北区/扇町駅)
最終更新日:2025/05/22


- 保険診療
最近は、さまざまな医療機関で治療に取り入れられ、漢方がより身近な存在になってきた。東洋医学の持つ長い歴史や体をトータルで診るといったイメージから、漢方による治療を希望する人も増えている。しかし、患者の訴える症状、病名に合わせて漢方薬が処方されているケースが多く、「中医学の知見に基づいた漢方本来の治療が提供されていることは少ないのが現状です」と、「扇町漢方クリニック」の大沢正秀院長は話す。漢方が普及するのは歓迎すべきことだが、現在広く行われているのは本格的な漢方治療とは言えないと、戸惑いを見せる。中医学の知見に基づいた本来の漢方治療とはどのようなものなのか、同院の診療の進め方と絡めながら、大沢院長にわかりやすく解説してもらった。
(取材日2025年5月9日)
目次
患者の生活背景や精神状態、季節の変化までを総合してオーダーメイドの処方を行う
- Qこちらでは専門的な漢方治療が受けられると聞きました。
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A
▲優しい口調と穏やかな笑顔が印象的な大沢院長
漢方医療を学ぶ前は、病院の整形外科で手術や長引く体の痛みを訴える患者さんの診療を担当しており、西洋医学だけではカバーできない部分があると強く感じていました。ある日、患者さんに漢方を処方したことをきっかけに、漢方が持つ可能性の大きさに気づき、「これこそが自分が求めていた治療だ」と実感したのです。それからというもの、勤務医を続けながら福島区にあった漢方専門クリニックで生薬を用いた漢方の処方などを勉強するようになりました。勉強を続けるうちに私の処方の割合が徐々に増え、日本東洋医学会認定漢方専門医も取得し、そのクリニックを前身に当院を開業し、現在に至ります。
- Q漢方処方を受けるメリットを教えてください。
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A
▲患者の生活背景を含め総合的に判断し、治療を提案する同院
漢方を取り入れる医師が増加傾向にあり喜ばしい一方で、注意点もあります。一般クリニックでは基本的に漢方エキス製剤が効能・効果に基づいて処方されますが、必ずしも東洋医学的な診断根拠に基づいているわけではないことです。中医学では弁証論治といって、症状だけでなく生活背景、その日の様子、舌や脈の状態、メンタルの状態までを総合した上で診断を行います。そうして導き出した診断に基づき、生薬を組み合わせて処方するのが特徴です。同じ病名や似た症状であっても、患者さんによって処方が違うといったことも起こり得ます。西洋医学とは違った視点・切り口で新たな解決策を考えることができるのが、中医学の漢方処方のメリットです。
- Q実際の治療の流れを教えてください。
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A
▲スタッフと緻密に連携を取り、患者に寄り添った診療を行っている
当院の場合、まず詳しい内容の予診票を記入していただきます。そこには、症状やこれまでかかった病気、服用中の薬はもちろん、睡眠、食事、排便といった生活や、現在の気持ちの状態、どのような場合に体調や気持ちが変化するのかについての質問もあります。その後、スタッフが予診票の内容について確認し、診察室で診察という流れです。私の場合、診察の際に主として行うのは、患者さんの全体の様子や表情を見る望診、脈を取る脈診と舌をチェックする舌診です。以前は背中やおなかも診ていましたが、その当時の臨床経験も含めて集約し、現在のスタイルに至っています。こうした情報を総合して診断を行い、患者さんに合わせたお薬を処方します。
- Q処方についてのこだわりを教えてください。
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A
▲脈診などを行い、漢方を処方。その後もこまやかに経過を観察する
処方が可能な百数十種類の生薬の中から組み合わせて、患者さん専用の処方を考えるのが大きな特徴です。生薬の割合は患者さんに合わせ1g単位やそれ未満で調整します。生薬の選択やそのグラム数の判断は、数多くの処方を経験してこそ精度が上がっていくものだと思っています。1回目に処方するのは3〜4日分で、まずは飲めるかどうかや服用に伴う変化を確認し、次は1週間、2週間と増やしていきます。ただし、それ以上長期の処方はなるべく避けています。3週間、1ヵ月もすると、特に日本の場合は季節が巡るので、気温や湿度の変化が心身に与える影響を考える必要があるからです。さらに副作用の確認のため、3ヵ月ごとに血液検査も行います。
- Q漢方治療に対する先生の思いを聞かせてください。
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A
▲患者の背景や状態に合わせ、オーダーメイドで処方を行う
当院は中医学の弁証論治を診療の基本とし、病名や具体的な症状だけではなく、患者さんに関する多くの情報を総合して、お薬を処方しています。そして、生薬を組み合わせた煎じ薬による漢方治療を保険診療で提供しているところは全国的にも少ないのが現状です。煎じ薬がどうしても飲めないという患者さんには、エキス製剤を処方することもありますが、その場合も弁証論治に基づいた処方を行います。たとえ病名処方と同じ薬になったとしても、そこに至る道筋の深さが異なります。処方した薬で改善が見られない場合も、病名処方なら「漢方での改善は難しい」となりがちですが、当院なら第2、第3の手を先読みして考えることができます。