木本 裕由紀 院長の独自取材記事
木本クリニック
(大阪市中央区/天満橋駅)
最終更新日:2025/10/01
「木本クリニック」は中央区天満橋、大川のウォーターフロントとして再開発された八軒家浜船着場からほど近く、上町台地北端に位置するビルの5階にある。院長の木本裕由紀(きもと・ひろゆき)先生は50歳を過ぎてから漢方の持つ力を再認識し、さらに中医学へと学びを広げてきた。「中国語はまったく読めませんでしたよ」と語る院長だが、膨大な量の中国語文献と地道に向き合い、理論的根拠を習得し、臨床応用を重ねている。現在では難病に苦しむ患者が全国から相談に訪れるという。院長はまた、自ら日本中医学会を設立して現在も会長として中医学の普及に力を尽くす。「あと20年は勉強」という院長に、中医学の持つ可能性や診療の様子について話を聞いた。
(取材日2017年6月14日)
中国の伝統医学「中医学」で万病と向き合う
中医学とはどのような医学ですか? 漢方とは違うのでしょうか。

中医学とは、古代中国で始まり今日まで発展してきた中国の伝統医学のことです。中医学は、かつて日本や韓国など周辺諸国に伝わり、各国で独自の発達を遂げてきました。韓国の韓医学もわが国の日本漢方も中医学に端を発し、漢方薬や鍼灸、推拿(すいな)などを用いますが、現在の中医学とはまったく異なる内容になっていますね。特に日本で鎖国が行われている間に、中医学は著しい発展を遂げました。診断と治療において西欧の現代医学を上回るものですし、2000~3000年前の中医学のほうが、ある面では今の中医学より進んでいた分野があるかもしれません。なお、日本では「東洋医学」という名称も使われますが、これは世界的には日本漢方のみを示します。
診察室での、診療の流れを教えてください。
ホームページには問診票があるので、多くの患者さんは事前に記入して来られます。問診票に目を通しながらお顔と手のひらを見れば、ほとんどの場合、たとえ会話が難しい患者さんでも、病気の歴史や、現在どこが不調かの検討がつけられます。さらに脈や舌を診たり、症状の本質がどこにあるのか、全身を探しながら治療を進めます。当院では必要なら鍼を使います。もちろん漢方も処方しています。
どのような主訴の方が受診されていますか?

文字どおり、さまざまな症状の方が受診されます。当院では2017年4月から時間をかけて行う自費診療も始めましたが、そちらでは特にがんや、いわゆる難病の方が多いですね。加齢黄斑変性症などでの視力低下、先天性風疹症候群による難聴、発達障害、統合失調症、不妊症などです。中医学では、全身から病気の原因を探り当てて、治療を行うので、治療できない病気はないと思います。私も勉強しながら、努力している最中ですよ。難しい症状でなかなか結果が出なかった方でも、1年ほどたってある日突然「あなたの治療法が見つかったよ」ということもあるんです。
50歳を超えてから中医学の道へ
医師をめざしたきっかけをお聞かせください。

父親は日本漢方の研究者でしたが、私は当初は医師になるつもりはありませんでした。けれども、小学生の頃に人間的に素晴らしい2人の内科の医師と出会って「医師も良いなあ」と思うようになり、中学2年生になる頃には医師をめざしていましたね。漢方にも興味はありましたが当時の私にはよくわからなかったので、西洋医学に向かい内科の医師になりました。臨床が好きでしたので、医局に残らず勤務医になり、天職だと思って仕事に打ち込んだものです。漢方に再び出会ったのは50歳を目前にした時期。ある患者さんのイレウスに悩んでいて、その時に当直に来た若い医師から漢方の提案があったんです。そこで提案された漢方を使ってみたことが、漢方の大きな可能性に気づいた大きなきっかけになりました。
中医学をどのようにして学ばれたのですか?
私はなぜか、子どもの頃から自分は50歳を超えて生きないと勝手に思い込んでいました。しかし51歳の誕生日を迎えた時にまだ生きていることにはっと気づき、医師を辞めて作家になるつもりだったところを方向転換して、日本漢方の勉強を始めたんです。当初は自力で2年間学びましたが、確実な治療結果は得られず、苦しい思いをしていました。そんな時にちょうど、中医学の臨床成果と裏づけ理論を知り、これをどうしても学びたいと。雑誌で知った中医学の先生はすでに亡くなっていましたが、大阪ご在住だったご子息を紹介していただき、51歳の2月から毎週水曜日に3~4時間ずつ、症例を持ち込んで中医学での考え方をお聞きし、それを翌週までにまとめることを繰り返しました。
そうすると、中医学を学びながらのご開業だったのですね。

先生との学びは5年5ヵ月にわたって続きました。この間には、臨床に打ち込むために勤務医も辞め、2005年9月に当院を開院。経験を積みながら、手探りでの診療でしたが、治療成果をより高く確実にしたいと思うようになり、自分で中国語の文献を読むようになりました。中国語は、もちろん読んだことなかったですよ。最初は3~4行読むのに2~3時間かかったものですが、毎晩深夜まで取り組んでいたら、徐々に読めるようになりました。中医学の1970~90年代の書籍は良くまとまっていますし、最近の文献や古代の医師の著書など100冊以上を読み、理論を身につけました。今は、これまで蓄積した経験と理論をもとに、自分で治療方法を考える段階に入っています。
本気で治したい患者と、信じ合い努力する
中医学と西洋医学の違いをどのようにお考えですか。

西洋医学は、診断機器が素晴らしい、手術ができるなど、優れた面が多々あります。ただし症状と治療をつなぐ部分が弱いことも場合によってはあるようです。特に、西洋医学では疾患のある部位をクローズアップする傾向があり、最近では患者さんの心情から離れがちになることもあるようです。中医学では、全身から病気の原因を探し、各患者さんの体質や状況に合わせて、漢方などのさまざまな治療法を組み合わせます。また、鍼灸だけでなく漢方生薬の特徴も注目されていて、日本では保険適応のある漢方薬は限られていますが、漢方生薬を使った治療はイギリス、フランス、アメリカなど多くの国が採用していますし、オーストラリアやドイツなどではほとんどの漢方に保険が適用されています。最近では、転移がんの治療時に西洋医学に加えて漢方薬を組み合わせる可能性についての研究も進んできました。中医学を用いた治療は今後さらに発展していくものと考えられます。
そのような思いから、日本中医学会を創設されたのですね。
現在、当院には福井や富山、高松、東京など、全国各地から患者さんが来られます。本当は各地に治療者がいて、診療ができれば良いこと。だから2010年5月に、日本中医学会を立ち上げました。会員は現在100人ほどで、医師、薬剤師、鍼灸師を中心に、一般の方や学生、看護師もいます。他にも、研究会や勉強会を頻繁に行い、誰が聞いてもわかるような内容にしています。真面目な方が多いので、必死に勉強してくれています。研究発表会も主宰していますが、私がテーマを決め、すべての内容を事前に確認して、必要があれば手直しもします。時には中国から中医学の先生をお招きしますが、毎回、熱心な取り組みに驚かれます。私は中医学で、多くの方の病気を治し、夢や希望を与えられるように、毎日新しい治療法を考えていますが、1人で行うには限度があります。これからは、同じ思いを持った方がさらに羽ばたいていけるように、サポートしていきたいです。
今後の展望と、読者へのメッセージをお願いいたします。

私自身、これからまだ20年程度は勉強が必要だと考えています。地道に学んでいきたいですね。治療についても、賛同してくださる方、自ら治りたいと思う方に受けてもらえれば良いと思います。日本人は、治療についてとにかく医師任せ、家族任せになりがち。しかし特に難病の治療では、患者さんにも医師にも覚悟と根性が必要です。努力せずにメダルを取れるスポーツ選手はいませんよね、難病を治すのは、金メダルを獲るのと同じです。本気で治したい患者さんと、お互いに信じ合いながら努力していくだけです。
自由診療費用の目安
自由診療とは完全予約制の自由診療:3万円

