勝本 富士夫 院長の独自取材記事
勝本外科日帰り手術クリニック
(北九州市小倉北区/小倉駅)
最終更新日:2025/03/24

足原26号線沿いの足原一丁目交差点の近くに「勝本外科日帰り手術クリニック」がある。鼠径ヘルニアなどの日帰り手術に特化したクリニックで、外科医として膵臓や胆嚢、肝臓のがん治療に携わってきた勝本富士夫院長が診療にあたる。中でも鼠径ヘルニアの手術に関しては、患者の体への負担を考慮してバランス麻酔下でのリヒテンシュタイン法を採用。手術当日は最短約3時間で帰宅可能だという。「国内における鼠径ヘルニアの治療は、まだまだ入院を伴うケースが多いですが、世界的に見れば日帰り手術がスタンダードとなっており、当たり前に行われているということを伝えていきたい」と話す勝本院長に、これまでのキャリアやクリニックの特徴、日帰り手術を可能にする手術方法や流れなどについて話を聞いた。
(取材日2021年6月4日)
患者目線で寄り添い日帰り手術に特化したクリニックへ
先生が医師をめざしたきっかけを教えてください。

実家が商売をしていたこともあって、父は商売人ではなく人に感謝されるような仕事に就いてもらいたいという思いがあったようです。高校時代は文系だったのですが、3年生の夏になって真剣に進路を考えた時、父の思いに応えるためにも人を助ける仕事はどうだろうかと医師の道に進むことを決めました。 1977年に長崎大学医学部を卒業し、1990年に九州大学で医学博士を取得。医師になった時から、「患者さんはどうしても弱い立場になってしまうことが多い。患者さんのためという視座ではなく、患者さんの目線で寄り添いたい」という想いがありました。
数ある診療科の中で外科を選んだ理由から開業までの経緯をお聞かせください。
医師が相対するのは病気を抱えた患者さんです。そのため診断して終わりではなく、実際に自分の手で病気を治せるようになりたいと外科を選びました。九州大学病院の第一外科に入局し研究。博士号を取得した後、北九州医療センターでは肝臓や胆嚢、膵臓がんの手術を数多く経験しました。勤務が長くなると管理職となってマネジメントや管理面の仕事が増える毎日。やはり自分は手術をして病気を治す立場でありたいという気持ちが強く、開業を意識し始めました。たまたま道路拡張で自宅を改装しなければならないタイミングでもあったので、駐車場だった部分をクリニックへと造り替え、2005年に開業するに至りました。
そうした中で鼠径ヘルニアなどの治療に特化したのはなぜでしょうか?

大学病院時代に赴任した福岡市の千早病院は、とりわけ鼠径ヘルニアの臨床数が多く、重点的に学ばせていただきました。そこからしばらくはがんの治療に専念していたものの、知人から鼠径ヘルニアの新たな治療法を聞き、これなら日帰りレベル、外来感覚で患者さんの治療にあたれるのではないかと考えました。以来、がんの手術の合間を縫うようにして鼠径ヘルニアの日帰り手術に取り組み症例数を重ねました。そこで得た経験を、生まれ育った北九州の皆さんに知ってもらいたいと思ったことをきっかけに、専門的なクリニックにしたいと考えました。
バランス麻酔下のリヒテンシュタイン法で安全性に配慮
そもそも鼠径ヘルニアとはどういった病気なのでしょうか?

一般的に脱腸と呼ばれるもので、足の付け根の鼠径部で腸などの内臓が腹腔外に飛び出してしまう病気です。実は妊娠から7ヵ月目頃、お母さんのおなかの中にいる間に誰しもが鼠径ヘルニアになっているんです。大人になり筋膜などが弱ってしまうと、それが再発するかたちで鼠径ヘルニアを引き起こします。そのため当クリニックは50代から70代の患者さんが多いです。痛みや不快感、違和感を訴えることがあり、放っておくと悪化したり、腸閉塞を起こしたりするので、早めに治療したほうが良いでしょう。もちろんすべての鼠径ヘルニアに対して手術を適用するわけではなく、状態によっては経過観察を行うこともあります。
一般的には4日ほどの入院が必要な鼠径ヘルニアの手術ですが、なぜ日帰り手術が可能なのでしょうか?
バランス麻酔下といって、眠っている間の局所麻酔で、鼠径部の前方を切開するリヒテンシュタイン法を採用しているからです。鼠径部の筋肉の間にフラットなポリプロピレンメッシュを挿入して腹圧を面で支えるため、再発の抑制が期待できる方法となっています。バランス麻酔は腹腔鏡下手術で行われる全身麻酔に比べ、体への負担が軽く、術前の浣腸や尿道カテーテルの挿入も不要です。ご高齢の方や心臓疾患のある方や精神疾患のある方も安全性に配慮して手術ができます。
日帰り手術の際の流れを教えてください。

鼠径ヘルニアなどのようにバランス麻酔下での手術の場合は日帰り入院となります。まずは一度受診していただき、診察をして、手術が必要な場合は術前検査をし、重度の糖尿病がないかどうかなどを調べた上で手術日を決定します。手術時間は60〜70分程度で、術後1時間ほど個室で休んでいただいて終了です。すぐに水分や食事を取ることも可能で、基本的には朝の8時半頃にお越しいただければお昼前には普通に歩いて帰宅できます。術後診断として1〜3日後に受診いただき、手術した部分をチェック。そして再度1週間後にご来院いただいて診察を行い、治療は終了となります。粉瘤などの小手術に関しては診察後、外来で行っています。
技術と経験があるからこそ可能な日帰り手術
クリニックづくりで工夫されているポイントはありますか?

開業時に3つの柱を決めました。一つは土・日・祝日の診療です。ライフスタイルも多様化していますし、会社員の方は受診のために仕事を休まなくていいように水曜と木曜を休診にして、土・日・祝日はクリニックを開けるようにしています。もう一つが明瞭な診療料金。使用した薬、行った手術など、細かく明細を出すようにしています。そして3つ目が、病室にモニターを設置し、手術中の様子をご家族が見られるようにしました。リアルタイムでモニター手術の様子を映し、透明性を担保しています。患者さんと医師は情報量が不均衡なんです。その不均衡差をなくすために、常に患者さんの立場に立って、病気を治すシナリオを一緒に考えていけるように心がけています。
鼠径ヘルニア以外の日帰り手術にも対応されているとか。
はい。胆石症に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術のほか、へそヘルニア、術後の腹壁瘢痕ヘルニア、下肢静脈瘤、皮膚や皮下のしこり、粉瘤、脂肪腫の切除といった小手術も対応可能です。しかし現在、腹部ヘルニア手術や静脈瘤等の日帰り入院での手術が1~2ヵ月待ちとなっており、軽度の外来手術の調整をさせていただくことになりました。そのため、アテローム・脂肪腫・巻き爪等の軽度の外来手術は控えさせていただいております。ご迷惑をおかけいたしますが、ご理解いただきたく思います。
最後に、今後の展望や読者へのメッセージをお聞かせください。

白内障をはじめ日帰り手術が当たり前の病気もたくさんありますが、鼠径ヘルニアに関しても日帰り手術ができるのだということを北九州で伝えていきたいですね。皆さんの中には「入院しなくて良いのか?」と不安に感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし欧米などの医療先進国では、鼠径ヘルニアの手術は日帰りがスタンダードとなっており、専門性を極めかつ高度な技術があれば、日帰り手術は十分可能です。当クリニックではできるだけ病気や治療に関する情報を提供しながら、スタッフとともに患者さん目線での診療を提供していますので、安心してお越しいただければと思います。