片倉 茂樹 院長の独自取材記事
片瀬こどもクリニック
(藤沢市/湘南海岸公園駅)
最終更新日:2024/12/11
江ノ島電鉄線の湘南海岸公園駅から徒歩5分、緑色の十字が目印の医療ビルの2階に「片瀬こどもクリニック」はある。院内に入ると、子どもが思わず手を伸ばしたくなる色とりどりの遊び道具や飾りでいっぱいだ。院長を務める片倉茂樹先生は、長年にわたり小児医療に携わってきたエキスパートで、3児の父でもある。その豊富な知識と経験を生かし、片倉院長の専門である感染症やアレルギー疾患の診療の他、育児の悩み事に対しても丁寧に耳を傾ける。穏やかで優しい口調の片倉院長は、親と子の不安や悩みをやわらかく包み込むような雰囲気だ。片倉院長の言葉の端々から、診療にかける強い信念とともに子どもへの温かいまなざしが感じられるインタビューとなった。
(取材日2024年11月7日)
情報があふれる時代だからこそ、一人で悩まずに相談を
まず、片倉先生が医師をめざしたきっかけやご経歴についてお伺いします。
特別な出来事があったわけではないのですが、小学生の頃から何となく医師になりたいと思っていました。医師という職業は、やってきたことが人にとってプラスになる、迷わず努力できるところに魅力を感じたんですね。秋田大学在学中に小児科へ進むことに決め、卒業後は埼玉県立小児医療センターで感染症の他に膠原病をはじめとする免疫疾患、アレルギー疾患について研鑽を積みました。その後も神奈川県内の複数の病院において小児科での勤務を続け、横浜市立大学附属病院では小児結核の病棟の責任者を務めました。小児の診療は、とりわけ感染症の割合が高いこともあり、数々の感染症の診療を行ってきた経験は、クリニックを開院してからも生かされていると感じます。
地域にとってどんなクリニックでありたいとお考えでしょうか?
地域の一次医療を担うクリニックとして、必要なことを必要に応じて提供できる場所でありたいという思いはありますね。私のほうで適切に判断を行い、なるべく迅速に高次医療機関へつなぐことが重要な役割だという意識を持って診療にあたっています。それに、当院では小児科を志望する医師の育成も行っています。基幹病院での救急に特化した内容だけではなく、予防接種や定期健診をはじめ、日常の小児科の診療も行えるようになってほしいという思いからです。当院の診療の他にも、保育園や幼稚園の嘱託医、小中学校の校医をやっていますし、藤沢市の夜間と休日の診療所の運営にも携わっているのですが、それも私の仕事の一つといえます。
新型コロナウイルス感染症について、クリニックではどんな対応をしていましたか?
私は過去にさまざまな感染症を相手にしてきたこともあり、新型コロナウイルス感染症に関しても日常の仕事の延長線上にあると捉えていました。感染症のための診療室を設置していましたし、患者さんを受け入れないという選択肢はありませんでしたね。できる限りの感染症対策をしながら通常どおり診療を行いました。私はかつてアメリカのシンシナティ小児病院に勤務していたことがあるのですが、その頃にmRNAを臨床に応用しようという研究が始まっていたんです。それで新型コロナウイルスワクチンの仕組みを理解していたこともあり、私自身はさほど抵抗はありませんでしたが、不安に感じている親御さんには私が持っている情報を出せるだけお渡しして、接種するかどうかを判断していただくことを心がけました。
育児に悩んだ時に伝えたいアドバイス
長年こちらで診療を続ける中で、患者さんの主訴や子育ての環境に変化はありましたか?
随分と変わった印象ですね。開院した当初は感染症が診療の中心でしたが、Hibワクチンや小児用肺炎球菌ワクチンなど公費で受けられる予防接種の種類が増えたことと関連し、感染症の患者さんは減ってきています。その代わりに、予防接種や定期健診、気管支喘息の予防などがメインになっている印象です。発達障害のお子さんの相談依頼も日常的にありますね。日本は少子化の時代になっていますが、ここ藤沢市は例外的に子どもの人口は増えてきている状況にあります。市内に住む子どもは医療費の負担が少ないことに加え、必要があれば、藤沢市民病院や横浜市立大学附属病院、神奈川県立こども医療センターへ紹介されるシステムが確立していますし、小児医療に関しては非常に充実している地域だといえるでしょう。
院内がとてもカラフルで楽しい雰囲気ですね。
子どもが怖がってクリニックから足が遠のいてしまうようでは親御さんが困ってしまいますから、楽しい雰囲気づくりを大切にしています。当院では予防接種の後に「ここにおもちゃが並んでいるから好きなものを選んでいいよ」と子どもに伝えて、選んでもらっています。ワクチンの接種は子どもの感染症罹患を防ぐためにとても重要なので、注射は痛くて怖いというイメージを残さないための工夫です。ワクチン接種の接種率を上げる上でも、子どもたちが喜んで、抵抗なく予防接種に来てくれるほうがありがたいですからね。
ご自身の子育ての経験を踏まえて、アドバイスはありますか?
最近は不登校の相談依頼を頻繁に受けるようになりました。子どもの育児について、あれこれ悩む親御さんも多いでしょう。そんなときはやはり原点に返ることが一番だと思っています。わが子が元気で、ご飯が食べられて、たくさん寝て、笑ってくれたらそれで良し! という気持ちを持つことですね。私の子育てのスタンスは「子どもは自分で考えて育つ」というものだったので、わが子にあまりうるさく言い過ぎることはありませんでした。親子といっても別の人間ですから、親が過剰に介入したり強制したりすることは良くないと感じていましたから。ちなみに私の息子はゲームが大好きで、幼稚園の頃からゲームに夢中になっているような子でしたが、今は好きなことを生かした仕事に就いています。
高い専門性を生かしたクリニックづくり
片倉先生の専門性は、具体的にどういった場面で生かされているのでしょうか?
膠原病の治療や気管支喘息の予防において、ステロイド薬をどのように使うのかが重要な項目の一つなのですが、適応の判断をする際にこれまでの経験が役立っています。それに私は感染症を専門としてきましたから、当院を設計する際に、感染症の患者さんの診療をする専用の部屋である感染管理室が不可欠だと判断しました。ですから、当院には院長室はありません(笑)。通常の患者さんと動線を分けるために入り口を別にしただけでなく、窓と換気扇の位置を工夫して感染管理室の空気が他の部屋へ入らないように徹底しました。当初は冬の感染症の流行期に不自由なく診療ができることを目的としており、新型コロナウイルス感染症が拡大するずっと前からこのスタイルで診療を行っていたんですよ。
診療で大事にしていることを教えてください。
私は長年にわたり感染症の子どもの診療を続けてきましたので、麻疹(はしか)の診療や、さまざまな感染症への対応には慣れています。お子さんによっては、同時に2つ3つ異なる感染症に罹患している恐れもあります。ですので症状が重いのか軽いのか、専門的な治療を要するかどうかの判断をこれまでの経験から診断していきます。これまで県内の複数の病院での職歴から、どの病院に紹介したら適切な治療が受けられるのかを把握していることも強みといえるかもしれません。また当院ではむやみに検査を行わず、その子にとって本当に必要なときのみ検査を行うようにしています。場合によっては子どもにとって苦痛を及ぼすだけのものになり得ます。親御さんともきちんと相談しながら、治療に影響を及ぼさない検査については、なるべく行わない方針をとっています。
医師であり父でもある片倉先生から、日々子育てに奮闘されている親御さんへメッセージをお願いします。
親御さんには子育てを楽しんでほしいですね。そのためには、一人で悩まないで早めに相談することが大切です。インターネットが普及している今、特に初めて子育てをする親御さんが情報の渦の中で正しい情報を得るのはかなり難しいことです。ネットの情報を見てお子さんの体調を心配し、駆け込み来院された親御さんが、実際に診察すると調べていたものと違う症状だったケースも少なくありません。生後2ヵ月からワクチン接種がありますし、定期健診もありますから、そのついででも構いませんので何でも相談していただければ、アドバイスができるかと思います。限られた診療時間の中ではありますが、なるべく丁寧にお話を聞くように心がけています。何かわからないことがあれば小児科に相談して安心していただければと思います。