井尻 利枝子 院長の独自取材記事
井尻歯科クリニック
(神戸市北区/鈴蘭台駅)
最終更新日:2022/04/22
小児歯科スペースに入って、目に飛び込んでくるのは、子どもたちが描いた絵や「せんせい、ありがとう」と書かれた手紙。「子どもは本当に面白い。毎日たくさん楽しませてもらっています」と笑顔を見せるのは、小児歯科を専門に長年診療してきた「井尻歯科クリニック」の井尻利枝子院長だ。子どもに喜んでもらうための作戦を考えるのが楽しくて、次から次へとアイデアが浮かんでくるのだとか。治療内容を説明するためのカードも井尻院長の手作りだそうだ。親身になって子育てを応援する井尻先生は、母親たちからも厚い信頼を寄せられている。夢と思い出が詰まった小児歯科の診療室で、診療スタンスや子どもたちとの愉快なエピソードなどさまざまな話を聞いた。
(取材日2022年4月18日)
小児歯科に特化した子どもだけの診療スペースを用意
貴院の特徴についてお聞かせください。
小児歯科と一般歯科が独立した診療室に分かれていることですね。小児歯科スペースには診察台が2つあり、小さい子用のフラットタイプと、もう1つは「お兄ちゃん・お姉ちゃん椅子」と呼ばれる椅子があります。その横には子どもが自由に過ごせる「癒やしの空間」があるのですが、子どもを退屈させないための一般的なキッズスペースとは少し意味合いが違います。診療室内にあることで、お子さんの遊んでいる様子が私からも見えて、この子にはどんなアプローチが良いかな、どんなことをすると嫌がるかなと治療前に作戦が立てられます。それと大きな子が治療している姿を小さい子たちが見て模倣するんです。「僕も私も頑張れるかも」と、イメージトレーニングしてくれるんですよ。この部屋での治療に年齢制限はなくて、大学卒業後、就職を機に卒業した子もいますよ。
小児歯科は成人の治療とどのような点が異なりますか?
保存処置という面では、小児歯科も一般の治療と大きな違いはありませんが、成人と同じ機器で子どもの小さな歯を安全に治療するには、専門的な技術が必要です。「小さな口の中を治療するのは難しいでしょ?」とよく聞かれますが、小児専門の私にとっては、範囲が広い成人の治療のほうが大変かもしれませんね。治療はできる限り短時間に、10〜15分以内で詰め物まで終わらせます。助手は1人多くつき、スタッフと一心同体で治療を進めます。決められた流れをあうんの呼吸で、外科手術みたいに行っていく感じです。また子どもは、四方八方にいつ手が出てくるかわからないので、治療しながらも常に子どもの動きを観察しています。ただ小児歯科を長年やっていると、表情や雰囲気から「手が出るな」と予測できるんです。そんな場合は押さえつけるのではなく、手を添えるようなかたちで、事故を起こさないように安全に配慮して治療を進めていきます。
治療を嫌がる子どもの治療は大変だと思うのですが。
他院からの紹介で受診する子も多く、最初は泣いて治療ができないということもありますが、子どもは泣いて当たり前だと思っています。一刻も早く痛みを取ってあげないといけない救急の場合でなければ、まずは雰囲気に慣れるのを見守ってから治療を始めます。嫌がるのを無理やり押さえつけることはしませんね。小児歯科の醍醐味は、補綴治療や保存治療のほか、口腔外科から矯正治療まで網羅できることです。成長に応じて口腔機能の発達をケアしていく必要があり、食生活や育児などさまざまな経験ができる充実した分野だと思います。
純粋な目をした子どもたちにごまかしは通用しない
小児歯科に進まれたのはなぜですか?
実は私、もともとは子どもが苦手だったんです。でも、卒後の進路をお世話になった教授に相談に行きましたら小児歯科を勧められ、教授の紹介で川西市にあるとくなが小児歯科クリニックに勤務することになりました。徳永院長のご指導のもと、やってみると診療がすごく楽しいんです。関西弁を話す子どもに慣れていなかったため、最初はどう接したらいいのか不安でしたが、小さな芸人さんたちのとりこになるまで時間はかかりませんでした。今は私からお笑いのギャグを言って笑わせたり、「なんでやねん」って突っ込みを入れたりして、子どもたちとのかけ合いを楽しんでいます。
面白くて優しい井尻先生は、子どもたちから大人気ですね。
私自身は厳しい言い方をしたかなと思うこともあるのですが、子どもたちは「先生はすごく優しい」と言ってくれます。それなら期待に応えなきゃと、子どもたちの言葉で優しい先生に変身させられました。子どもたちはよくお手紙をくれます。以前、治療中に泣いて暴れてしまい、私もさすがにこの子は無理かもしれないと思った子がいたのですが、治療ができるようになって、ある日お手紙をくれたんです。ポケットをごそごそさせて、恥ずかしそうに「はい」って。「せんせい、ありがとう」と、一生懸命書かれた文字を見て涙が出ました。子どもは自分の都合の良いようにごまかすこともあり、いつも天使というわけではないのですが、純粋な目で大人の嘘やまがいものを見破るんですよね。そういうところがかわいいですし、面白くてたまりません。子どもが大好きになった今、小児歯科は私にとって天職だと思っています。
院長に就任されるまでの経緯についてお聞かせください。
開業後は夫がメインで診療し、私は子育てをしながら診療していました。自分が子育ての苦労を経験していなければ、小児歯科医師としてお母さんたちにアドバイスはできないと思い、子どもはできるだけ自分で育てようと、育児と診療の二足のわらじで頑張ってきました。赤ちゃんホームから始まって、6ヵ月から保育園、小学生になったら学童保育と神戸市のお世話になりながら、「すぐ戻ってくるから待っていてください」と診療中に子どものお迎えに行ったこともあり、患者さんにも支えてもらいました。10年前に夫が亡くなり、その時は私も辞めて勤務医をするか、1人でクリニックを続けるかいろいろ悩みました。ですがその時に、子どもたちが励ましの手紙をいっぱいくれたんです。それが診療を続ける原動力になりました。
虫歯は母親の責任ではない。気楽に頑張れる予防を推進
成人の治療ではどのようなことに力を入れていますか?
小児歯科を担当する私のほかに、一般歯科担当の本間先生と非常勤で矯正歯科を担当する先生が勤務しています。成人治療のモットーは、「心理的に、機能的に、精密に、健康的に治療する」ということ。本間先生は入れ歯の治療を得意としており、高齢の方も一生涯しっかり噛める口腔をめざし、質の高い治療にこだわっています。その他、当院には歯科衛生士が5人勤務しており、歯茎の健康を重視した歯周病予防のためのブラッシング指導やメンテナンスにも力を入れています。小さい頃から定期検診を継続し、大人になってからも虫歯がない患者さんは多いですよ。歯ぎしりの治療、睡眠時無呼吸症候群の治療にも対応しています。
お母さんたちに向けてのアドバイスをお願いします。
「子どもの虫歯は母親の責任」と言われることもあるみたいですが、私はお母さんの怠慢だとか頑張りが足りていないとか、まったく思っていません。虫歯には唾液の質や歯並びなどいろんなことが関係していて、きちんと歯磨きをしていても歯が弱い子は虫歯ができてしまうんです。むしろお母さんが気の毒で、「虫歯をなかったことにしましょう」と言って治療をしています。虫歯にさせないことはもちろん大事ですが、お母さんを追い詰め、縛りつけてしまうのは良くないと思っています。これだけは絶対に気をつけたほうが良いというポイントだけはしっかり抑えつつ、無理をさせないことが私のスタンスです。お母さんには育児を楽しんでもらいたいし、子どもにはおいしいものを食べる喜びを知ってほしいですからね。
今後の展望をお聞かせください。
乳幼児期から予防歯科の知識を知ってもらうため、「赤ちゃん歯科」というのを積極的に行いたいと考えています。自然の物しか食べてはいけないとか、何時間もかけて手作りしましょうといったストイックなものではなく、エビデンスに従った専門的な観点から、口腔機能の発達に応じた離乳食や口腔ケアのアドバイスを行い、効率的に楽しめる予防歯科を広めていきたいと思っています。私自身、今は子育てが落ち着いて、時間的にも気持ちの面でもゆとりが持てるようになりました。講演会の出演を頼まれることも多くなり、今後はお母さんを応援するメッセージを発信していきながら、子どもたちの歯の健康と成長を見守り続けていきたいと思っています。
自由診療費用の目安
自由診療とは矯正/21万円~、ハイブリッドセラミック/6万円~