完璧でなくとも、とにかく治療を続ける
それが糖尿病治療の大原則
原内科クリニック
(福岡市南区/博多南駅)
最終更新日:2025/03/26


- 保険診療
飽食の時代、糖尿病は誰でもかかり得る非常に身近な疾患だ。その一方で自覚症状がなく、治療が手遅れになってしまうことがある点は、どの医師にとっても大きな課題となっている。福岡市南区にある「原内科クリニック」の原功哉院長は、勤務医時代から糖尿病内科ひとすじで研鑽を積み、現在は父が開業した同院で糖尿病患者と向き合い続けている。「まだ糖尿病と診断されていない方でも『自分もかかっている可能性がある』と自覚すること、そして診断された場合はなおのこと、正しい知識を得て日々の生活に生かすことが大切です」と語る。糖尿病の先にあるのは、脳梗塞や心筋梗塞などの重篤な疾患。そこまで進んでしまった患者も数多く診てきた院長だからこそ考える、糖尿病治療の知識の身につけ方や治療のポイントについて、詳しく話を聞かせてもらった。
(取材日2024年6月24日)
目次
糖尿病治療で大切なのは、満点でなくても治療を続けること、そして、できないことは正直に伝えること
- Q糖尿病とはどのような病気ですか?
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A
▲症状がない場合でも数値に違和感があれば検査を受けよう
誰にでも起こり得る病気で、風邪などのように完治することはないため一生付き合っていく必要があり、そして初期には自覚症状がないという大きな特徴があります。自覚症状がないうちに全身の血管に悪影響を及ぼしていくため、症状が進むと、足のしびれや糖尿病網膜症、糖尿病性腎症などを発症し、さらに心筋梗塞や脳梗塞などの命に直結する大きな疾患にまで発展してしまいます。つまり糖尿病とは、“大きな疾患になる前段階の病気”なのです。ですから大事なのは、症状がない初期段階での対応。しかしやはり症状がないため、つい治療や検査を後回しにしがちになる方がとても多いことが、糖尿病の最大のネックであると言えるでしょう。
- Q「隠れ糖尿病」とはどういう状態なのでしょうか?
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A
▲糖尿病は遺伝する可能性が高いという
空腹時血糖が126mg/dL以上、食後2時間で200mg/dL以上、またはヘモグロビンA1cが6.5%以上だと糖尿病と診断されます。「隠れ糖尿病」とは、数字の上では糖尿病と診断されていないけれども、実は食後に急に血糖値が上がる方や、健康診断での数値が年々診断のラインへと近づいている方が当てはまると考えて良いでしょう。特に注意すべきなのはご家族に糖尿病患者さんがいる方で、糖尿病の家族歴がない人に比べると糖尿病を発症しやすい傾向にあります。大事なのは「自分も糖尿病になるかもしれない」と自覚すること。気になったら糖尿病内科などで相談し、ご自分のリスクの高さなどを知っておくのも大切ですね。
- Q糖尿病の検査や治療について教えてください。
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A
▲患者の状態や生活スタイルに合わせオーダーメイドの治療を提案
糖尿病だと健康診断などですでに診断がついている方であれば、心臓エコー検査、頸動脈エコー検査、両手・両足首の血圧を測るABI検査などで検査で全身の血管の状態を調べるほか、糖尿病があると肝臓がん、膵臓がんなどのリスクも高くなるため腹部エコーでの検査を行い、その結果に基づいて食事・運動指導を含む治療に入ります。一方、まだ糖尿病と診断がついていない場合は、ブドウ糖負荷試験を受け、自分がどの程度、糖尿病に近づいているのかを知ることから始まります。この場合は服薬治療はなく、食事・運動指導と改善がメインとなります。
- Q糖尿病の「教育入院」とは何ですか?
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A
▲合宿に行くような気持ちで気軽に受けてほしいと院長は言う
教育という名前のため厳しい内容をイメージしてしまうかもしれませんが、2週間前後の入院の中で上記の検査のほか、医師や管理栄養士、公認心理士などによる糖尿病の勉強会が行われる、合宿のような入院、と思ってもらうといいかもしれませんね。「おせんべいは甘くないから糖尿病にならない」などの間違った知識を払拭した上で、どんな食事がいいのか、どんな運動が適しているのかなどを詳しく知り、退院後の日常生活に生かすことが目的です。また数人の方と一緒に勉強したり食事をともにするため、情報交換や交流の場にもなります。私は特に20〜50代の若い患者さんにもお勧めしていて、複数回入院することも可能ですよ。
- Q糖尿病治療で大切なことは何でしょうか?
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A
▲治療継続の重要性を力強く語る原院長
自覚症状がないため、治療をドロップアウトしてしまいがちなのが糖尿病です。だからこそ、まずは治療に通い続けてほしい、これに尽きます。日々の生活の中で完璧に食事を管理したり、お薬を1回も忘れずに飲むということは正直難しいもの。ただ、その70点の状態であっても、まったく通院・治療をしない0点の状態よりもはるかに治療として成立していますし、糖尿病の進行を遅らせることが見込めるのは間違いありません。0点のまま1年ほど放置し、0点以下、つまり命に関わる状態になってしまった患者さんをたくさん見てきました。100点ではなくても治療をとにかく続けることが、糖尿病治療では本当に大切なのです。